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飛行機雲

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 空港には多くのファンと太一の同級生が押し寄せ、彼との突然の別れを惜しんだ。中三の時、中原と三人でよく喋った草野の姿もあり、太一は彼女と最後の握手を交わした。
 ファンから強引に手渡される餞別を抱えていると、マネージャーがそれを大きな紙袋に詰め込み始めた。

「危険物がないかちゃんとチェックしてから、後日アメリカまで送りますね」

 芸能人みたいだ、と思いながら、太一は入場規制されているファン達の波をじっと見渡す。そもそもこんな風に空港にファンが見送りに来てくれる時点で、立派すぎる芸能人だなとぼんやり考え、アメリカに行かなくちゃいけないことを、今更ながら不思議に感じた。

 搭乗時間まではまだ時間があり、見送りに来てくれているメンバーと最後の時間をゆっくり過ごした。

 あの日、渡米することを告白し、日本中を激震させた太一。あまりに突然の報告と別れ。それでも太一はファンに希望を残した。


 必ず帰ってくるから、その時まで待っていてほしい、と。


 アイドルを辞めない、また帰ってくる。それはファンにとって、一筋の光のようだった。だがそれは太一にとっても同じこと。居場所をそこに残しておきたかったから。

 エッグバトルの翌日、学校へ出向き手続きを済ませると、集まってくれたクラスメイト達と別れを告げた。次の日は関係各社への挨拶回り。そして事務所で、エッグ仲間達に送別会を開いてもらった。

 野瀬と中原に会うタイミングがなくて、今日、空港で必ず会おうと約束した。
 ファンの列を何度も何度も確認し、ようやく二人を発見すると、ファンの列から連れ出してメンバーのいる場所へと連れてきた。
 二人が……いや、特に野瀬が興奮して呼吸困難になるんじゃないかと危惧したが、なんとか息はしているようだった。中原は相変わらず「おぉ、本物」と最初に笑っただけで、あとは実に自然体。どうせ同じ人間だろ、という考えの彼にとったら、芸能人すらも特別珍しいものではないのかもしれない。

「せっかく応援してくださっていたのに、約束を果たせなくて、本当にすみませんでした」

 雪村がそう言って野瀬に頭を下げると、一ノ瀬と志藤もそのあとに続いた。

「え……っ!? いや、そんな! や、やめ……やめて下さい」

 慌てふためく野瀬を見て、太一と中原は笑い、「なんかあったの?」と聞いてくる中原に太一は簡単な経緯を話した。

「団扇……。“行くな”っていう団扇、あれ……そうですよね?」

 雪村が野瀬を見上げて聞いてくる。

「あ、僕も見た。なんかすげー目立ってたよね」

 一ノ瀬もそれに頷き、志藤も野瀬を見たが目が合う前に視線を逸らした。
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