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飛行機雲

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 目をやった先には、中原と太一が二人で話しながらこの場を僅かに離れていく姿が見え、何か餞別でも渡すのだろうかとぼんやり思った。数ヶ月前までは、中原と野瀬と太一と志藤の四人で一緒にいることが当たり前だった。三人が卒業し、会う機会も減って、それだというのに太一が渡米してしまう。

 こうなってしまえば、もう野瀬とも中原とも会うことはなくなるのだろう。そう思うと志藤はほんの少しだけ寂しいと思った。

 中原のことが好きだった。もちろん恋愛的なものではない。男として、とても尊敬できる人だと思っていた。こんな自分のこともありのまままっすぐ受け止めてくれている気がして。
 一方の野瀬は、あまり喋らないくせにたまに物凄く怖くて、恋仇でもあって、正直それほど好きではなかった。太一が渡米してしまうのは物凄く悲しいけど、野瀬と太一を引き離せると思えば、なんだか少しだけ……ざまぁみろ、と思ったのは致し方ない。

 そうだとしても、野瀬が悪い男じゃないこともちゃんと分かっていて、きっと腹を割って話せばいい理解者になってくれるような気が、……しなくもなかった。あの中原の親友なのだから。
 この二人が志藤にとって、事務所にはいない特別な存在だったことは、あきらかなのだ。

(寂しい……、か)

 連絡先はまだ携帯の中。自分から連絡を取る勇気を振り絞るべきなんだろうな、と志藤は二人の背中を見つめながら思った。

「志藤」

 突然雪村から名前を呼ばれハッと我に帰ると、「大丈夫か?」と顔を覗き込んでくる彼に苦笑いを返した。

「すません。ぼぉっとしちゃって」
「分かるよ。実感ないっつぅか……逆にありすぎてどうしていいか分かんないっていうか」

 雪村の言葉にみんな黙り込み、中原からの餞別を抱えてこちらに戻ってくる太一をじっと見つめた。

「あれ? どうしたの? 怖い顔して」

 太一だけ、一人にこやかだ。

 無理して笑ってるのかと思いもしたが、どうやらそうでもない。太一は、もう簡単に会えなくなるからこそ、ちゃんとこの瞬間瞬間を思い出にしたかったのだ。

「じゃじゃーん! 見てよ、歩くん! 野瀬と中原が二人で作ってくれたんだよ! 中学んときの友達の写真とかメッセージとか集めてくれたの!」

 写真やメッセージが入っているアルバムの中には、ちゃんと志藤との写真もあった。四人で行った夏祭りの写真だ。

「ねぇ! みんなで写真撮ろうよ! このアルバムの表紙に貼り付けるからさ!」

 そう言って無邪気に笑う太一に、一ノ瀬が「いいね!」と賛同すると、マネージャーにカメラを任せ、六人は初めての集合写真を撮った。


 そうして太一は、母親に連れられ、

「またね」

 そう言い残し、始終笑顔のまま、日本の地を離れていった。




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