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真実
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事務所に入って一年。ドラマチックなことがたくさん起こるわけじゃないけど、自分でも驚くほど充実していると、内海はそう感じていた。
木曜レッスン生は他の曜日より仲が良くて、それをまとめている佐久間大介にいつも内海は目を奪われていた。何がって、彼は少し漫画のヒーローみたいだったからだ。
底抜けに明るくて、友達が多くて、ダンスも上手くて、歌う姿は雄々しくかっこいい。なのに、なんとも言い難い裏の顔がある気がして、たまに怪しく……たまに色っぽく、たまに欲情したような瞳をする佐久間に、少しの興奮さえ覚えていた。
けど、これは恋心なんかじゃなくて、見ていて飽きないという対象。
仲間からからかわれている姿も、からかっている姿も、笑って手を叩いて走って飛び跳ねて……、そして時に恐ろしいほど静かで、捕食者のようで、なのに憂いため息し、頭を抱える。
接触する機会こそなかったけど、そんな佐久間を飽きるほど眺めることが許された。
毎週木曜日。そこに彼がいる。
後ろ姿も横顔も、指先まで気をつかって踊る姿も、すべてが見放題。漫画の主人公を間近で見ている気分で、こんなに楽しいことはなかった。
事務所が所有する劇場を、木曜レッスン生が使う日、客席はいつも賑わっていた。ただ他の曜日と違うことは、客のニーズだった。
木曜レッスン生は面白い。
トークを聞きに来る、というスタンスで来場するため、トーク力のある者しかマイクは持たせてもらえなかった。
勉強のために他の曜日のステージはどうなっているのかとよく劇場に潜り込んで、内海はステージ脇からその様子を見ていた。
新米エッグの多くはそうやって先輩のステージを見ながら勉強する。例に漏れず内海とてそうだった。しかしながら、言わずもがな建前は勉強するためだが、本音はそうじゃない。
面白い人間を探すためだ。
見つけたのは、一際輝いている雪村という男だった。
いや、違う。そもそも、雪村のことは入所前から知っていた。入所してからも、佐久間の口から幾度となく出てくる”ユキ”という名に、雪村の人となりを少し垣間見ていた。だけど、実際彼のステージを目の当たりにして、その圧倒的なエイターテイメント性に絶句した。
事務所のTOP2と言われる及川ももちろんオーラが凄かったけど、雪村の二面性に内海がときめかないはずもなく、なんで俺は月曜に配属されなかったんだとため息を吐いた。そして、何故佐久間が”ユキ、ユキ”と執着するのか、その理由を理解した気もした。
お近づきになりたいという欲はないが、見つめていられるのならずっと見ていたいと思う。それくらい、雪村涼という人間は見ていて面白かった。
木曜レッスン生は他の曜日より仲が良くて、それをまとめている佐久間大介にいつも内海は目を奪われていた。何がって、彼は少し漫画のヒーローみたいだったからだ。
底抜けに明るくて、友達が多くて、ダンスも上手くて、歌う姿は雄々しくかっこいい。なのに、なんとも言い難い裏の顔がある気がして、たまに怪しく……たまに色っぽく、たまに欲情したような瞳をする佐久間に、少しの興奮さえ覚えていた。
けど、これは恋心なんかじゃなくて、見ていて飽きないという対象。
仲間からからかわれている姿も、からかっている姿も、笑って手を叩いて走って飛び跳ねて……、そして時に恐ろしいほど静かで、捕食者のようで、なのに憂いため息し、頭を抱える。
接触する機会こそなかったけど、そんな佐久間を飽きるほど眺めることが許された。
毎週木曜日。そこに彼がいる。
後ろ姿も横顔も、指先まで気をつかって踊る姿も、すべてが見放題。漫画の主人公を間近で見ている気分で、こんなに楽しいことはなかった。
事務所が所有する劇場を、木曜レッスン生が使う日、客席はいつも賑わっていた。ただ他の曜日と違うことは、客のニーズだった。
木曜レッスン生は面白い。
トークを聞きに来る、というスタンスで来場するため、トーク力のある者しかマイクは持たせてもらえなかった。
勉強のために他の曜日のステージはどうなっているのかとよく劇場に潜り込んで、内海はステージ脇からその様子を見ていた。
新米エッグの多くはそうやって先輩のステージを見ながら勉強する。例に漏れず内海とてそうだった。しかしながら、言わずもがな建前は勉強するためだが、本音はそうじゃない。
面白い人間を探すためだ。
見つけたのは、一際輝いている雪村という男だった。
いや、違う。そもそも、雪村のことは入所前から知っていた。入所してからも、佐久間の口から幾度となく出てくる”ユキ”という名に、雪村の人となりを少し垣間見ていた。だけど、実際彼のステージを目の当たりにして、その圧倒的なエイターテイメント性に絶句した。
事務所のTOP2と言われる及川ももちろんオーラが凄かったけど、雪村の二面性に内海がときめかないはずもなく、なんで俺は月曜に配属されなかったんだとため息を吐いた。そして、何故佐久間が”ユキ、ユキ”と執着するのか、その理由を理解した気もした。
お近づきになりたいという欲はないが、見つめていられるのならずっと見ていたいと思う。それくらい、雪村涼という人間は見ていて面白かった。
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