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第1章~捕らわれた少女と召喚術師~
第16話:君は誰だ
しおりを挟む「学校はどうだ?」
「うん、楽しいよ」
空亡は家に帰ってから嘘ばかりついていた。
本当は学校は楽しくない。 ただ言われたから、必要だから通っているに過ぎない。
しかし家族に心配させたくなくて、空亡は愛想笑う。
家族と再会して二週間ほどが経ったが、未だに両者との間にある雰囲気はどこかぎこちないままだった。
空亡はあまりリビングにはおらず、食事を済ませるとすぐに部屋に行く。 中学三年で受験ということもあって、勉強というのはありがたい言い訳である。
「シェイプスター」
空亡が唯一、気を張らずに過ごせる相手は、施設の時と変わらずやはり召喚モンスターたちであった。
「よう、なんか用かァ?」
その中でもシェイプスターを呼ぶ頻度が高い。
スライムやククルカンは喋れないし、アモンは気軽に呼びずらい。 サキュバスのことは好きだが、彼女は生真面目な部分があるので、今の後ろ向きで堕落した自分を見せて小言を言われることを思うと呼びずらかった。
その点、シェイプスターは適当な性格だ。 なんだかんだ文句を垂れながらも付き合ってくれるので、今の空亡には最適な話し相手である。
「いや、別に。 暇だったからさ」
「暇だからってよぶんじゃねえよ。 俺だって忙しいんだぞ」
「ほら、漫画雑誌の新刊とコーラ」
シェイプスターは完全に現代社会に適応していた。
彼はお気に入りの漫画とコーラを与えておけば、文句も言わなくなる。
「働かずに人の小遣いで飲むコーラと漫画は最っ高だなァ! ヒャッハー!!!」
「あんま騒ぐなよ……」
「わーってるって。 せっかくあんな施設から出たってのに、息苦しいぜ……全く。 あの田舎で暮らしてた時の方がまだマシだっての」
両親の前では召喚術は使わないようにしている。
一度使ってスライムを見せたところ、ひどく怖がられたのだ。 空亡にとっては大事な仲間であっても、人からすれば凶悪な怪物に見えるということを知った。
「田舎、か……あんまり思い出せないや」
「そうだったなァ……まあ深く気にすんなよ」
この家に来た頃、空亡は忘れていたことを必死に思い出そうとしていた。 しかし思い出そうとすると想定されていない要求に混乱してバグるロボットみたいに、可笑しな言動をしたり、頭が痛くなるので今は極力意識しないようにしていた。
「ほらよ、コーラでも飲んで忘れちまいなァ」
「……うん、そうだね」
○
空亡は毎週土曜、冒険者ギルドに通っている。
「こんにちは。 調子はどう? そろそろA級に上がれそう?」
「こんにちは、獅々田さん。 A級はまだ無理かな……正直練習に身が入らなくて」
『魔力の保有量が多すぎることは周囲を危険にさらす』
断片的な記憶の中で、誰かにそう教わったことを空亡は未だに覚え、そして鍛錬を続けていた。
「そう。 まあ病み上がりだし仕方ないわよ……とりあえず判定試験受けてみる?」
「うん、せっかく来たしね」
様々な技能の習熟度を表す冒険者判定。 それの魔力操作A級を空亡は目指しているが、ギルドで試験管の前で判定を達成すると、正式な実績として記録される。
一定以上の魔力保有者はこれが努力義務とされているからだ。
「分かった。 じゃあ頑張って」
試験内容は時間制限のある中で魔力紙を折り紙するというものだ。
ただA級に上がるにはもう少し時間がかかりそうであった。
「あら、残念……でもすごい魔力量。 山本くん、本当に冒険者になるつもりない?」
「ないですよ。 冒険者になるとやっぱりダンジョンに潜るんですよね? 漠然と……でも確信があるんです、ダンジョンは危険だから関わるべきじゃないって」
ここに初めて試験を受けにやってきた頃から、世話をしてくれているししだから空亡は冒険者になることを切望されていた。
数多の冒険者を見てきたギルド職員の獅々田から見ても、空亡ほどの魔力保有量は尋常ではないらしく、そしてそれは日常生活には不要な力だが、冒険者からすればとてつもない才能のようだ。
「そっか。 嫌なら仕方ない。 でも気が変わったらいつでも言ってね?」
「分かりましたよ。 もしも気が変わるようなことがあれば、ね」
「意地悪な言い方ね、ふふ。 強制はしないけど、そうなったら私に必ず相談してね? 色々教えてあげられると思うから」
獅々田とは出会って短いが、気に入られているのか空亡はやたら世話を焼かれていた。
空亡にとって彼女は人間の中では、最も心を許せる存在となっていた。
○
しかし後日、家にスーツ姿の男がやってきた。
「初めまして、私は○○クラン所属の冒険者佐藤と申します」
「君が山本空亡くんかな?」
「実は君に話があって来ました。 端的に言ってあなたをスカウトしたい――
――冒険者になって、クランに入りませんか?」
彼は冒険者だった。
どこからか魔力保有量の多い子供の情報を手に入れ、そして勧誘に来たのだろ。
獅々田が話したのか、それとも空亡のデータを勝手に閲覧して情報を意図的に漏らした人物が別でいるのか、空亡には分からなかった。
けれど空亡の答えは決まっている。
「お断りします」
「そうですか。 ならこちらを」
冒険者は勧誘用のパンフレットを両親に渡して、あっさり引き下がる。
しかし帰り際、彼は不吉な言葉を残して行った。
「あなたの情報が漏れています。 これから多くの勧誘が押し寄せてくるでしょう。 早々に所属を決めることをお勧めします」
〇
「帰ってください……お願いですから、もう来ないでください」
初めに勧誘に来た冒険者の言っていたことが現実となった。
毎日のように昼夜を問わず勧誘の訪問が、電話が鳴り響く。
もう両親と弟は限界だった。
「もう限界よ……弟の幼稚園の帰りに待ち伏せされていたの。 常に誰かに見張られているようで頭が可笑しくなる。 それにいつか弟に何かされるんじゃないか心配で」
「だが空亡は冒険者ではなく、普通に進学したいんだろう?」
「そうだけど……尊重したいけどもう限界なのよ――
――こんな生活になるはずじゃなかった」
「おいっ。 夜とはいえ空亡に聞かれたらどうする?! 君はきっと疲れてるんだ。 今度、弟連れて少し実家に帰って休んだらいい」
「ええ、そうね。 どうかしてたわ、ごめんなさい」
そして空亡の罪の意識も限界まで膨れ上がっていた。
両親のその会話を聞いて、空亡は決心をした――
――ここから出て行くか
――冒険者になるか
「じゃあ行ってきます」
「ああ、元気でな」
それから数か月後の三月、空亡は旅行鞄を背負って家を出た。
(さよなら)
ここに戻ることはもうないだろう、そんな悲しい予感を胸に抱きながら空亡は前へと進むのであった。
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