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突然スタートさせられた異世界生活

傷の舐め合いなんてしないよ

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「私に何の用?」

日本語を話すのも久しぶりで違和感がものすごい。

「……え?」

梓は戸惑ったような傷ついたような顔をした。私に大変だったね、私がいるからもう大丈夫よ、なんて慰めの言葉でも期待してたのか。

「それで私に何の用なの?」

もう一度尋ねた。意地が悪かろうが、私だって訳の分からない世界で、掃き溜めのような地獄を必死に生き抜いてきたんだ。余計なお荷物を抱える余裕なんてない。

「…え?いや、だって…。私…、本当に…!」
訳の分からない事を言いながら、梓はぽろぽろと涙をこぼす。私が男なら罪悪感か庇護欲でも感じて助力を引き出せるかもしれないけど、質問の答えになっていないし、王子様を待つ姫様気取りかと思ってしまう。本当に何がしたいんだろうかと思う私は人でなしかと考え、思わず溜め息が出た。

「……私、いきなりここに連れてこられて。言葉も通じないのに、孤児院?みたいなところとか色んな所に連れていかれて。それ以外はずっと部屋に閉じ込められてたんだよ!怪我した子供がいて、可哀想って思ってたら何か掌から光が出たと思ったら怪我が治ってたの。どうやって出したのかも分かんないのに次は病院みたいなところに連れていかれて、拝まれ始めちゃって、もう何がなんだか…。帰りたいよ…。、一人ぼっちじゃないって思って嬉しかった…。」

突然始まる自分語り。しかも回復チートとらやらを持っているって?なら私と変わってくれたら良かったのに。

「こんな奴じゃなくてもっと優しい人と傷の舐め合いがしたかったって?」
監禁コースなら寝食は保証されてるし、別に助け出す必要もないのでは?それにどうやらこちらの言葉も通じてるみたいだしねぇ…。私と似たような境遇の所から逃げてきましたっていうならその気概を認めて助力もするけれど。私に何かを期待されても困る。

「ちが!そうじゃなくて…!!私…!!」
だからなんなんだ。用件を早く言って欲しい。私を懐柔しろとでも言われてるの?不幸自慢をするわけではないけど、私は美少女の涙を見ても同情は出来ない。むしろ貴方よりガリガリの私の体つきに気付いて欲しい。そして自慢の翼にも。今朝バンシーが丁寧にお手入れしてくれたからつやつやのふわふわのさらっさらなのだ。わきわきと翼を動かしてみるが気付く素振りは全くない。残念。

そろそろ時間切れかな。欲しい情報は得たし、もういっか。あの退屈な会議に戻ろう。泣いている彼女を放置してシルキーと部屋を出た。部屋を出ると、思ったより早かったのか皇太子もラヴァルさんも目を丸くしていた。積もる話もあるだろうと思ってた?無いよ。それに私、名乗ってすら無いからね。

「思ったよりも早いお戻りですね?」
皇太子が焦ったように声を掛けてきた。

「さぁ、用件は終わったみたいですから戻りましょう。」
ラヴァルさんが皇太子の言葉をまるっと無視して会場に戻るよう促した。

会場に戻ると女性が一人増えていた。見た感じ王妃かな。王妃の視線を感じつつ、会議は夕方にまで及んだ。午前中とは打って変わって、人間領の気候、特産品、流行など多岐に渡った。頃合いを見計らって、王が晩餐ディナーにしようと声をかけた。

「女性は女性同士で気兼ねなく食事しませんこと?殿方は淑女レディに気が利いた話が出来るとは思いませんもの。ほほ。」
王妃が誘ってきたが、すかさずラヴァルさんが断った。

「人間ごときが話し掛けて良いお方ではありません。弁えなさい。それにお疲れのようですから、部屋でゆっくりと取られるのが宜しいでしょう。」
もう立っているのも辛くなってきたから、断ってくれるのは嬉しい。王妃は断られると思っていなかったのか、顔が引き吊っていたが了承してくれた。足は限界に達し、もう翼で飛んでしまうかと考えていたら何かに気づいたガーラさんが抱き上げてくれた。さすがガーラさん。

部屋に着くとガーラさんはベッドまで運んでくれた。
「湯浴みは明日の朝にしましょう。ララ様の体力は未だ戻ってはいないのです。ラヴァル殿にはもっと配慮するよう伝えておきますから。」

ここまで心を配ってくれるのは嬉しい。他にガーラさんほど心を配ってくれたのはツニートと侍女の二人だけだ。無性にツニート達とお昼寝したくなってきた。目を閉じると自覚しているよりも疲れていたのかあっという間に眠りに落ちた。





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