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突然スタートさせられた異世界生活

情報は大事

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朝、目が覚めると侍女ズが私の顔を覗き込んでいた。夜ご飯を食べ忘れたが起こしていいか分からなかったらしい。一晩中覗き込まれる位なら起こして欲しかった…。怖いよ。


朝食を食べているとラヴァルさんがやってきた。
「おはようございます、ララ。昨日はララの事に気が回らずすみませんでした。体調は如何ですか?私も一緒に朝食をとっても構いませんか?」

まぁ、昨日あれだけ一人で多数を相手に舌戦を繰り広げていたのだから致し方ない事だろう。笑って頷く。

私は昨日の件の聖女とのやり取りを話した。保護は必要無いんじゃないか?という私の考えは言わなかった。それに彼女が知らずに告げたであろう真名も。それは私だけの切り札だ。
ラヴァルさんにはただ「アズサ」という名だけ告げた。

「暴力の痕跡が無いのなら、やはり彼女も真名による誓約を受けていると見て間違いありません。そして命令されているのは貴方への探りと懐柔、というところが妥当でしょう。王妃も貴方と接触しようとしてきましたからね」

かなり露骨だったね、あれ。この国に来てから姿すら見せなかったのに、突然会議の途中で参加してきたし。

「王妃は無視していいですが、問題は聖女アズサですね。彼女を餌に黒幕を釣り上げたい。ララ、協力してくれますか?上手く事が運べば魔族領から裏切者の駆逐が出来ます。」

いくら人間といえど国を相手取るのだ。この少人数で計画が上手くいく可能性はどれ程だろうか。だがこれさえも利用出来れば…。

…私に出来るだろうか。多数を相手にたった一人であれほどの舌戦を繰り広げた目の前の切れ者を。チートもスマホも無しに出し抜けるだろうか。

思い出せ。気絶するまで殴られ蹴られ、鞭打たれた日々を。目の前で何人が死んでいった?言葉も通じずただひたすら息を殺し耐えるしかなかった死臭漂うあの理不尽な環境を。

もう一度家族の元へ。

ただその願いの為だけに。復讐を手伝ってあげる、とあの青空の下でにかっと笑った二人の笑顔に必死で見ないふりをして。



さぁ、やろう。







◇◇◇◇◇


決意したその日に、何故またあの聖女とやらとテーブルを囲んで紅茶を飲んでいるのだろうか。

それも二人っきりで。

いや、今度はお互い後ろに侍女と護衛がいるけど。この聖女とは根本的に性格が合いそうに無いから会いたくなかった。

「昨日は私、取り乱しちゃって。見苦しかったですよね、ごめんなさい。」

今日はガーラさんに侍女の格好をして貰っている。何故なら侍女ズは言葉を持たないからだ。念話は受け取れるし理解も出来る。ジェスチャーである程度の意志疎通は可能だが、人間相手だと何かと不便だろうと思ったからだ。

敢えて返答せずに紅茶に口をつける。

「えと。改めまして西川 梓、高校一年生です。こちらだと。あのぉ、お名前をお聞きしても?」
チート持ち。しかも同い年。うんざりするほど不公平だね。

「こちらではララと。」
出来るだけ簡潔に答えて相手に喋らせる作戦だ。これはガーラさんの案だ。

「えと…?じゃあ、本名はなんて言うんですか?」

「………。」

「だってそれじゃあ本当の名前忘れちゃうかもしれないでしょ?キラキラネームでも梓、笑ったりなんてしないよ?」

可愛らしく頬をぷくっと膨らませて見せても私にはイラッとするだけだ。もう帰りたい。ガーラさんを横目で見るが、まだ駄目だと首を横に振られる。始まったばっかりだもんね…。

「この名前が気に入ってるの。」

「後でこっそり梓にだけ教えてね!!ねぇ、ララちゃんっていくつ?いつこの世界に来たの?ララちゃんは私みたいに何か出来たりする?ここに来るまで何していたの?日本でどうしてたの?何で魔族領にいたの?ねぇ、魔族領ってどんなところ?梓、ずっとあの部屋に閉じ込められるか連れ回されるかするだけで話し相手いなかったから、ララちゃんと会えてすっごく嬉しい!!」

すごい質問責め。答える気力も失せる。ずっと拷問受けてましたって言ったらどんな顔する?ついでに言うと妙に馴れ馴れしい人も高校生にもなって自分を名前呼びする人も嫌い。ようはこの人の全てが嫌いだ。

「助けてくれた人が魔族だったから」

「ララちゃんって無口なんだね!梓、おしゃべりだから良く皆にうるさいって言われちゃうんだぁ。……皆、元気かなぁ?……ぐすっ。ねぇ、ララちゃんは梓と仲良くしてくれる…?」

この人、案外図太い性格なのではないだろうか。この状況で計算されたあざとさを同性の私に見せる余裕があるって凄くない?よく分からない所で言葉が通じる人とやっと会えたと思ったらここはどこ!!ってパニックになってもおかしくないよね?

「あなたはどうやってここに?」

「梓ね、学校帰りに友達と歩いてたんだけど、気付いたらお城の地下にいてヒラヒラの服着たおじさん達に囲まれてたの。日本語通じないし怖かったぁ。そうしたら金髪のちょっと偉い人なのかな?その人がこの部屋まで連れてきてくれたの。」

つまりは召喚されたってことか。なら私は?きっと私も召喚されてここにいるはずだ。その時に何かが起きた?

そしてあの皇太子はやっぱり召喚に関わっている。





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