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突然スタートさせられた異世界生活
私には無理だった
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翌朝、私の部屋で朝食がてらラヴァルさんに報告した。一応、護衛の皆さんには席を外して貰っている。トンチキさん達から情報が漏れるのは防ぎたい。
ラヴァルさんへは、聖女は暴力の形跡もなくかなり強かな女性だと伝えておいた。
彼女から取引を持ちかけられた事は言わなかった…。
「ふむ…。彼女に関して言えば今のところ緊急性は低いのではないかと思われます。今は民衆や貴族達に受け入れて貰い、聖女としての地盤固めの段階ですからね。繁殖に使われるのはまだまだ先の事でしょう。ですからこちらで保護する件は保留にします。ですが会議で保護するかもしれない、と匂わせてはおきましょう。私もその聖女とやらと接触したいですし。
きっと獲物がかかるのはすぐですよ。」
にたりと笑うラヴァルさんは、実に吸血鬼らしかった。
◇◇◇◇◇
そして迎えた会議。開口一番にラヴァルさんが爆弾を投下した。
「昨日、癒しの聖女様が軟禁されているのでは、という噂を耳にしましてね。こちらの聖女様が大変心を痛めておいでなのですが、それは真ですか?
それが真であれば、人間の手に負えなければ魔族領で聖女様をお預かりするが如何か。同郷であるこちらの聖女様もおられる事ですし、癒しの聖女様のお心も慰められることでしょう!勿論、魔族領が気に入ればそのまま居住して頂いて構いませんよ。我らは歓迎します。」
唖然とする人、怒りで顔を真っ赤にさせる人、こちらの思惑を探ろうとする人…。様々だが、王と皇太子は流石王族と言うべきか。こちらに探る視線を寄越すだけで、これといった反応は見せなかった。
「聖女がいなければ我らは淀みから解放されぬではないか!!聖女でなくて誰が淀みを浄化するというのだ!!」
「貴様っ!聖女様に危害を加える気か!そんなの認められる訳がないだろう!」
「そんな蛮族のいる所に聖女様を向かわせるなどあり得ぬわ!身の程を弁えよ!」
「魔法を控えれば済む話です。そうすれば大地がゆっくりと時間をかけて浄化してくれます。……蛮族ですか。蛮族とはそちらの事を言うのではないですか?」
大臣達が口々に反対するのはこちらも折り込み済みだ。
「制約を掻い潜り、わざわざ蛮族の所から襲って盗まないと暮らしていけないほど貧しく、技術も乏しいのでしょう?」
「んなっ!貴様、即刻その無礼な口を閉じよ!誰に向かってそんな口をきいているのだ!!」
「おや、怒るということは心当たりがおありで?」
「そっ、そんな訳無いだろう!!第一、人間は魔族領に入れぬであろう!!」
「正しくは悪意や負の感情を持った、ですけれどね。」
ここで国王が場を静めた。
「やめよ。ラヴァル殿は魔族を代表して参った身である。不敬は許さぬ。
売り言葉に買い言葉であったようだ。ラヴァル殿、どうか見逃してやってくれぬか。そこな聖女殿にも見苦しい物を見せてしまったな。」
『売り言葉に買い言葉』だから煽るような発言は控えろって事か。こちらにも遠回しに釘を刺してくるとは惚れ惚れするほどの立派な面の皮をお持ちのようで。ちょっとイラッとしたので私からもお見舞いしてみることにした。
「許す」
私はにこりともせずに淡々と、出来るだけ傲慢さが滲むように告げた。他国の王族を除いてこんな風に対応されることなど無いから、よい刺激になっただろう。
二人の顔を見ると、ものの見事に今まで表情を崩さなかった国王と皇太子の顔がひきつっている。ちょっと溜飲が下がる。人間領に来てからストレスしか溜まらなかったからね。
「ゴ、ゴホンッ!!で、では、話の続きに戻ろう。」
国王のその言葉に皇太子は笑顔を崩さなかったものの、一瞬こちらを睨むように鋭い視線を寄越したのを私は見逃さなかった。
やっぱり皇太子が黒かな。なーんか嫌な感じなんだよね。
ラヴァルさんを騙しつつ、あの厄介そうな聖女を上手く利用して、皇太子を釣り上げる方法って何かないかな。
うん、言っただけで私には無理だね、これ。
ラヴァルさんへは、聖女は暴力の形跡もなくかなり強かな女性だと伝えておいた。
彼女から取引を持ちかけられた事は言わなかった…。
「ふむ…。彼女に関して言えば今のところ緊急性は低いのではないかと思われます。今は民衆や貴族達に受け入れて貰い、聖女としての地盤固めの段階ですからね。繁殖に使われるのはまだまだ先の事でしょう。ですからこちらで保護する件は保留にします。ですが会議で保護するかもしれない、と匂わせてはおきましょう。私もその聖女とやらと接触したいですし。
きっと獲物がかかるのはすぐですよ。」
にたりと笑うラヴァルさんは、実に吸血鬼らしかった。
◇◇◇◇◇
そして迎えた会議。開口一番にラヴァルさんが爆弾を投下した。
「昨日、癒しの聖女様が軟禁されているのでは、という噂を耳にしましてね。こちらの聖女様が大変心を痛めておいでなのですが、それは真ですか?
それが真であれば、人間の手に負えなければ魔族領で聖女様をお預かりするが如何か。同郷であるこちらの聖女様もおられる事ですし、癒しの聖女様のお心も慰められることでしょう!勿論、魔族領が気に入ればそのまま居住して頂いて構いませんよ。我らは歓迎します。」
唖然とする人、怒りで顔を真っ赤にさせる人、こちらの思惑を探ろうとする人…。様々だが、王と皇太子は流石王族と言うべきか。こちらに探る視線を寄越すだけで、これといった反応は見せなかった。
「聖女がいなければ我らは淀みから解放されぬではないか!!聖女でなくて誰が淀みを浄化するというのだ!!」
「貴様っ!聖女様に危害を加える気か!そんなの認められる訳がないだろう!」
「そんな蛮族のいる所に聖女様を向かわせるなどあり得ぬわ!身の程を弁えよ!」
「魔法を控えれば済む話です。そうすれば大地がゆっくりと時間をかけて浄化してくれます。……蛮族ですか。蛮族とはそちらの事を言うのではないですか?」
大臣達が口々に反対するのはこちらも折り込み済みだ。
「制約を掻い潜り、わざわざ蛮族の所から襲って盗まないと暮らしていけないほど貧しく、技術も乏しいのでしょう?」
「んなっ!貴様、即刻その無礼な口を閉じよ!誰に向かってそんな口をきいているのだ!!」
「おや、怒るということは心当たりがおありで?」
「そっ、そんな訳無いだろう!!第一、人間は魔族領に入れぬであろう!!」
「正しくは悪意や負の感情を持った、ですけれどね。」
ここで国王が場を静めた。
「やめよ。ラヴァル殿は魔族を代表して参った身である。不敬は許さぬ。
売り言葉に買い言葉であったようだ。ラヴァル殿、どうか見逃してやってくれぬか。そこな聖女殿にも見苦しい物を見せてしまったな。」
『売り言葉に買い言葉』だから煽るような発言は控えろって事か。こちらにも遠回しに釘を刺してくるとは惚れ惚れするほどの立派な面の皮をお持ちのようで。ちょっとイラッとしたので私からもお見舞いしてみることにした。
「許す」
私はにこりともせずに淡々と、出来るだけ傲慢さが滲むように告げた。他国の王族を除いてこんな風に対応されることなど無いから、よい刺激になっただろう。
二人の顔を見ると、ものの見事に今まで表情を崩さなかった国王と皇太子の顔がひきつっている。ちょっと溜飲が下がる。人間領に来てからストレスしか溜まらなかったからね。
「ゴ、ゴホンッ!!で、では、話の続きに戻ろう。」
国王のその言葉に皇太子は笑顔を崩さなかったものの、一瞬こちらを睨むように鋭い視線を寄越したのを私は見逃さなかった。
やっぱり皇太子が黒かな。なーんか嫌な感じなんだよね。
ラヴァルさんを騙しつつ、あの厄介そうな聖女を上手く利用して、皇太子を釣り上げる方法って何かないかな。
うん、言っただけで私には無理だね、これ。
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