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空を満たす何か

見え始めた真実

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翌日、空は気持ちよく晴れ、風が爽やかに香っていた。アノーリオンとツニートは里の外れにある丘の上にいた。そこまで飛んでいく。

二人の傍に降り立とうとすると、気づいたツニートが途中で手のひらを出して着地させてくれた。

「幼竜は全員無事に巣立ったな。よく最後の卵を諦めずに生かしたのぅ。ようやった。」
アノーリオンが開口一番、そう言った。

「うん。」

『ララだけ、最後まで、諦めなかった。』
ツニートも満足げに頷いているけど…。貴方達二人とも子育て部屋から追い出された身ですからね。

『ララ、戻った。安心安心♪』
ニコニコしている顔を見ると罪悪感で申し訳なくなってくる。

「二人に聞いて貰いたい事があるの。長くなるかもしれないけど。」

「聞こう」

二人にはここに来る前の家族の事、自分の事、この世界に来てから私の身に起こった事、感じた事、神力の事。全部洗いざらい話した。

もう誰かの親切を疑う事が嫌だった。言葉を理解してからも、いつ身体を切り刻まれるのかと考えただけで夜も眠れなかった。
この世界の全てが私の敵だと思っていたけど、そうじゃなかった。やっと他人の善意を受け入れられるようになった。二人はきっと私の味方でいてくれると思えたから。

二人はただ静かに話を聞いてくれた。聞き終わってからも何も言わなかった。ツニートはひたすら私の頭を撫でてくれた。

「打ち明けてくれたお礼に、儂らの秘密を話そうかの。聞いてくれるか?」

しっかりと頷く。

「皆であの館にいた時。あの館は儂ら二人を監視するためのものなのじゃ。儂らにも派閥があってのぅ。」
知らなかった…。皆で仲良く隠居するくらい仲良しかと思っていた。

「ギルミアが強硬な保守派だと知っておるな?他は革新派だとしか説明しておらんかったのだが。カーミラは恐らく革新派の中立寄りであろうな。明言してはいないがあれは争いを嫌う。ラヴァルは革新派の一派の中でも最大派閥を誇る筆頭じゃ。異世界人にはそうと感じさせずに飼い殺しにする、というな。」

「飼い殺し…?」

「飼い殺しというとちと物騒じゃが。人間側に異世界人を召喚させ、保護の名目で魔族側の味方につける。そして異世界人の自発的な協力を仰ぐ。言い換えると言葉巧みに善意を利用するのじゃ。」

『異世界人、助けて貰った人、警戒しない』
ツニートが困った顔をする。

『助けた人、山賊、よくある。警戒、必要。』

そんなことある?ほんとこの世界って野蛮だな。

「じゃあ、二人は…?」

「儂らは革新派と一括りにされておるようだが、儂らは自らを改革派と名乗っておる。」

「どう違うの?」
革新と改革、どちらも似たようなものだと思うけど。

「名前は似とるがその実、大きく違うのじゃ。儂らはな、異世界人の召喚自体を否定しておる。淀みは魔法さえ使わなければそのうち時間をかけて消滅するのじゃから放っておけ、とな。」

召喚の否定…。

「儂ら二人がなぜ隠居していたと思う?隠居させられたのだよ。それもラヴァルにな。」

『他の三人、俺たちのこと、監視してる』
うそ…。ギルミアさん、カーミラさん、ラヴァルさんが監視役だったなんて…。

「ツニートが一族を追い出されたのもこれが理由じゃ。のぅ、カエデや。なぜ守の死後数百年もの間、儂らは変わらなかったと思う?いや変われなかったのだと思う?」

「えっと…。魔族の寿命は長いし身体も頑丈だから、危機感は薄いって…ラヴァルさんが…。」

「それもあるが。守の身体の処遇で揉めたのじゃ。儂らは人間を退けた後、その役目を終えた守をきちんと弔い、ガイアの御胸で眠らせるつもりだったのじゃ。じゃが、儂ら古代種族を除く中級の格の種族のエルフや吸血鬼等がな、淀みの影響を必要以上に恐れたのじゃ。」

「その身体は人間よりも頑丈なのに?」
頑丈でほとんど影響受けないなら心配いらなくない?

『中級の奴ら、上級や古代種族に、コンプレックス、ある…。』
コンプレックス…?

「魔族は実力主義じゃろう?その身に宿る力の大きさはガイアとの血の近さなのじゃ。血が近い程、母の声を聞ける。聞いてもその身は弾けとぶ事もない。母と血が近くなければ見えぬ存在も多い。古代種族の儂らに影響はなくとも、この先淀みが酷くなればその影響がいつ自分達に出るか分からん、保険はあった方が良い、とな。
その考えのなんと傲慢な事なことか!嫌なら人間を滅ぼせば良かろう!」

中級って、下級よりは強いけど上には上がいる中途半端な存在なのか。

「それで魔族同士の争いに発展したのじゃ。そこに更に儂らを争わせ、利を得ようと人間達も画策し収拾がつかなんだ。そこで古代種族の筆頭種族、ドラゴン族と巨人族の族長を引退させ監視することで事態の収拾を図ったのがラヴァルじゃ。」

『ガイアの声、勝手に聞こえてくるだけ。返事ない。どこ、羨ましい?』

なるほど。ラヴァルさんやギルミアさん達は、母様の血筋からはやや遠い。だから血が濃く力も強い古代種族の皆と比べると、その能力は劣るし、母様の声も危険だから聞けない。その力の差は生まれついたもので自力ではどうにもならないから、劣等感が強くなるのか。それで守さんも解放してあげられない、ということらしい。

「ツニートは族長じゃないのに追放されたの?」

「ツニートは族長の末息子で儂の右腕だから思いっきり警戒されたらしいのぅ。いつでも抜け出せたのだが、これ以上の争いは儂らも望まなんだ。だから表向きは隠居に甘んじて、守の解放の機会を待ち望んでいたわけじゃ。」

争っていた魔族達を、たった二人の引退で事態の収束させたラヴァルさんて何者?






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