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空を満たす何か
こわいコワイ怖い
しおりを挟む「私を殺してほしいと頼みに来たの。」
……怖っ。殺してほしいって頼まれて、いいよ!どうやって死にたい?なんて気軽にオッケーする人いる?いないよね?
「…カーミラ、そなたまさか、」
「えぇ。ご丁寧にも自死出来ないようにされてるわよ。でもそれが何だというの。自分で死ねないなら殺してもらうまで。…もうこれ以上誰も傷付けたくないの。どうか分かって頂戴。」
カーミラさん、話し方が微妙に変わると雰囲気がすごく変わったように感じる。今までは陽気な頼れるお姉さんって感じだったんだけど、今は鋭い雰囲気の近寄りがたい系のお姉さんだ。
「あのぅ…。1つ質問なんですけど。」
なんかカーミラさんが死ぬ方向で纏まりかけていた雰囲気を私の間抜けな声がぶち壊した。
「本名。変えられないんですか?」
空気が凍りついた。皆、私を見つめて呆然としている。カーミラさんが死んだら聞けなくなっちゃうから、今のうちに聞いておこうとする私は空気読めない人認定されちゃうのかな…。
「「『……………は?』」」
「真名を縛られたなら、改名してしまえばいいのでは?真名をつけるのに儀式か何かが必要なんですか?それとも異世界のお作法的に真名は生涯変えられないのでしょうか?」
「「『……………………。』」」
皆、考える人みたいに厳しい顔で沈黙している。
「名前…………かえ、変えることにするわ。」
若干涙目のカーミラさんが言った。
いや、カーミラさんの決死の覚悟を打ち砕いて申し訳ないな、とは思ったけど!
「名前って簡単に変えられるんですか?」
「………多分誰もやったことないと思うけれど、理論上は可能よ。儀礼的はものも必要ないわ。ただ新しい真名を作って、それが私の真名だと認識を変えればいい。」
それもそうか。真名を他人に知られないようにずっと隠してきたから、名前を変えようという意識にはならないのか。
「発想の転換の勝利だね!」
うわ、皆疲れ切った顔してる。トライアスロン100km完走した後に、つまんない親父ギャグ聞かされたみたいな感じ。
「カエデや……。古い真名を自分のものだと思わないように認識を変えなければならない難しさを分かっとるのかね…?じいちゃん孫が心配。」
「死ぬよりましでしょ?古い名前に反応したら死ぬと思い込めばいいと思う。」
きょとんと周りを見渡せば、何故か3人で震えて怯える目でこちらを見てくる。
「あの子以外と気が短いのね…?」
『怒らせたら、きっと…。』
こそこそと3人が話しているのが聞こえる。
「戦え!!自らの弱さを恐れるな!!本当に恐れるべきは目を背け逃げ出す事だ!!」
アノーリオンもツニートも私の言葉がどこから引用したものか分かったのだろう。にかっと笑った私に仕方ないなぁ、というように溜め息をついて頷いてくれた。
カーミラさんはびっくりして、まだ目が真ん丸になったままだ。
「大丈夫。心の底から変わりたいと思った時が変わり時なんだよ。また立ち上がろうって思うまで休んだっていい。1人で立ち上がれないなら誰かの手を貸りたっていいんだよ。いつでも私が引っ張ってあげるから。」
カーミラさんは泣いていた。流した涙の一雫一雫が過去の苦しみを表すようだった。
「私は……救われても、いいの?」
こういうとき、私は魔族の人達は純粋だと思う。言葉を聞いたとおりにそのまま受け取るのだ。私の言葉の裏に、建前や思惑があるとは疑わない。いや、今は建前も思惑もないんだけど。それにさっきのはアノーリオンの引退の時の言葉を借用させてもらっただけだし。
「救われるななんて誰が言ったの?救われたいなら救われたっていいじゃん。求めよ!さらば与えられん!だから大志を抱くのだ!」
偉大な先達の言葉をちゃんぽんしたが、いい感じにカーミラさんを味方に引き入れられたのではないだろうか。
後は勘違い野郎達に現実を味わってもらうだけだ。
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