異世界トリップだって楽じゃない！

空を満たす何か

作戦立てるのってこんなに難しいんだね。見て、難航してるよ。

ザナさんとカーミラさんの話では、ラヴァルさん達は賛同者を募っているところだそう。
日本風に言うと、新しい政党を作って内閣総理大臣を目指そうとしてるってことね。何が問題かって？賛同者を募るには、賛同者の魔族の皆さんに今までのことを水に流して貰わなきゃいけないのだ。困難を極めて当然だ。そんな困難もラヴァルさんは予想してたのか、少しでも簡単にしようと感情をある程度操作できる人達の勧誘を優先しているみたいだけど。

「それにしても、嘘の精霊とは厄介だのぅ。」
とアノーリオン。

『元々ある、感情、増幅される。行動、感情に邪魔、される。戦いにくい。』
と眉間にシワを寄せるツニートは、嘘の精霊とイザコザでもあったのだろうか…。元々ある感情だからこそ増幅されても気付けないのか。姑息だが効果は抜群なところが厭らしい。

「これだから感情を司る概念系の精霊は面倒なのよね…。やりにくいったら！」
カーミラさんは頭を抱えている。

「嘘の精霊が苦手にする精霊さんはいないの？」
色んな精霊がいるなら、苦手にする精霊もいるはず。そこから突き崩せないだろうか。

「居るには居る…。だが……。じいちゃん苦手。」
かわいこぶって私の後ろに頭を隠す引退爺竜。

「わたしも、出来るなら関わりたくないわね…。」
カーミラさんもげんなりした顔をしている。そんなに面倒くさい相手なの？

『嘘、諍いを好む。だから、正直者、争いを鎮める裁定者、冷静沈着な者、苦手。正義の精霊、希望の精霊、秤裁定の精霊、他にもいる。でも…。』
ここでツニートも口籠った。

「正直者と争いを鎮める者…？まさか…、希望的観測に基づく根拠のない自信に溢れ、無駄な正義感を理不尽に翳す無神経な者のことではないよね…？」
嫌な予感がした。皆が口籠る理由に、これ以上聞いてはいけないセンサーが働く。ちらりと後ろに隠れたアノーリオンを見た。

「そのまさかじゃ……。」
「うわぁ……。どれにも会いたくない……。」
相性的には嘘の精霊に対抗できるのだろうが、それではこちらが心労で倒れるだろう。

「思い込みが激しいから、話が通じないのよね……。しかも善意100%で無神経な事言ってくるから余計に腹が立つ……。特に希望は最悪よ！希望のと正義の精霊とはうちの一族も一切取引しないもの。ザナも正義の精霊とは因縁があるから助力は期待できないわ。それに秤の精霊はきっちり両者半分にしたがるから、味方には出来ないし。あとは、頑固で偏屈者の石の精霊とかかしら？」
カーミラさんはかなりげんなりうんざりした様子だ。石の精霊と聞くだけで頑固そうで味方にするにはこちらも手間取りそう。

「嘘の精霊を味方につけることって出来ない？」
皆が疑わしげな顔で私を見る。

「いや、その…。」
私はそこで人狼ゲームの説明をした。誰が嘘をついているか当てるゲームは、中々にスリルもあって楽しい。
「ゲームだから嘘をついても誰も傷付かないし、当たっても外しても楽しいから嘘の精霊でも楽しめるんじゃないかなって。」

「「『天才』ね！」じゃな！」

「ただし、失敗は出来ん。ラヴァル達にも勿論知れることになるじゃろう。チャンスは一度しかないぞ。」

「それにあいつらがララちゃんは味方だと思っている今がチャンスよ。精霊さえいなければ、後はどうとでもなるもの。」

『遊び。きっと、引っ掛かる。好奇心、身を滅ぼす、知るべき。他人にしたこと、いつか必ず、自分に還る。』
そう話すツニートの瞳はもう以前のように凝り固まった憎しみではなく、静かな湖面のように落ち着いて信念のようなものを感じる。自分の気持ちに折り合いが付いたのだろう。いつの間にか頼もしくなったな、と笑みが溢れた。

「精霊はお互いに呼び合えるから、嘘の精霊一匹捕まえられればそれでいいわ。誰が捕まえる？」
カーミラさんが周りを見渡すと、私以外と視線が合わない事に憤慨した。
「ちょっとツニート、アノーリオン!!やる気あるのかしら!?今やらなかったら次いつやれると思ってるのよ!!私がまた契約に縛られたらどーしてくれるの!!嫌よそんなの!!今より複雑で面倒な事態になったらどーするのよ!!今でさえ面倒なのに!!私は!!引退!!したのよ!!老後!!」
カーミラさんが髪を振り乱して地団駄を踏む。下半身の蜘蛛の部分が大変に荒ぶり、足元には地割れが出来ている。
カーミラさん、前の族長さんの真似してない素だと、こんなにはっきり言う人だったのね。

「……言い出しっぺは私なので、私がやります、ね…？」
そっと挙手してみる。


決してカーミラさんが怖かった訳ではない。決して。