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空を満たす何か
魔王爆誕まで残り…③
しおりを挟む次に我々のすべきことは、同胞をきちんと弔う事だ。
土にも還れないまま冷たい水の中に漂い続けるのは哀れで、何とかしてあげたかった。
独り善がり?
縁もゆかりもない異世界で、異世界から来た私達が身を削り続ける必要はないと思う。
淀み?どーにかなるっしょ。魔法が無いなら無いで、無い環境に勝手に適応していくでしょ。
異世界式のお葬式?全く知らない。お坊さんは存在しないしお経無しでも良いかな…。宗教どころか冠婚葬祭の知識皆無だから、取り敢えず火葬して土に埋めるくらいしか分からない。ちなみに、火葬用の火は異世界らしく、アノーリオン産のドラゴンブレスの予定だ。
私達がこっそり弔いに行く間に、ラヴァルさんに浄化に効果のある妖精族の組み合わせを見つけておくように伝えておく。勿論、弔いに行くことは秘密だ。ラヴァルさんが知ったら止められるからね。
鈴が駄目なら、鈴の代わりになる楽器ってないかな?という私の発想のもと、ラヴァルさんがどーにか考えてくれるらしい。スピリチュアル的なやつだと、水晶と塩?あと良く分からないハーブ?よく見るイメージあるんだけどなぁ。(偏見)
後日会う事を約束して、ラヴァルさんとは別れた。ギルミアさん放置したけど、まぁいいか。
ドラゴンの里に帰ってまた作戦会議だ。
◇◇◇◇◇
例によって、また私が借りている小屋に集まった。
「ギルミアって湖の傍の館にいるの?何でかしら?」
カーミラさんに報告をすると、驚いた声を上げた。
「少し前までは自分の里に居たのよ?攫われた人達は自殺してしまったけれど、愛玩奴隷に狙われるのは見た目の美しさだけではなくて、妊娠率の低さも原因だからって妊娠率を上げる実験をしていたもの。怪しい薬をいくつも作っていたのよ。」
何それ、素晴らしいじゃん。妊娠率が上がる魔法とかポーションが地球にもあったら、子どもが欲しいのに中々授からない人達が救われたのになぁ…。ままならないもんだね。妊娠しにくいからこそ愛玩奴隷として使い捨てられてしまうなんて。
「ギルミアさんが館にいると、確実にバレますね。どうしましょうか?アノーリオンは葬式係じゃないと駄目だけど、目立つし…。ツニートも目立つし、カーミラさんは迂闊に動けないだろうし…。」
私の言葉に、皆で知恵を絞る。
「ララちゃんにギルミアの足止めをお願い出来ないかしら?」
カーミラさんが私を見て言った。
「同胞として、守の最期を見届けたいという気持ちは良く分かるわ。それでも、この面子の中だとララちゃんしか頼めないの…。」
それはそうだと私も思ったので頷いた。最期を見届けたかったが、面識もないので仕方ない。
「何も最後までではない。儂が火を吐くまでで良い。火さえ吹ければもう止めることは出来んからのぅ。母の御胸に帰るまで10分とかからん。」
「守さんを……ご家族のもとまで届ける事は出来ませんか?私が手紙を届けたみたいに。」
私の言葉にカーミラさんが悲痛な面持ちで言った。
「ごめんねララちゃん……。異世界の家族の元へ導くのに必要なのは、その家族との縁と執着なの。縁は血縁でもあり、巡り合わせでもあるのだけれど、今は細かい話は省くわね。その縁と執着を辿って力技で異世界への扉をこじ開けるから、守の家族との縁を持たないララちゃんでは異世界には届けられても、家族の元までは届けられないのよぉ……。力不足でごめんね……。」
カーミラさんの言葉に皆で項垂れる。
「それならば無念ではありますが仕方ありません…。湖の底にいつまでも沈んでいるよりは良いと考えましょう…。いつか必ず家族の元に帰す方法を見つけます。」
『移動は、明日。俺、アノーリオン、決行役。
ララ、足止め。カーミラ、連絡役と、カエデの、サポート。館着いたら、様子みながら、決行する。決行の、合図は……………どうする?』
「館にはバンシーがいるはずじゃ。久々に泣いてもらうとするかのぅ。」
「あぁ、嫌だけれど仕方ないわねぇ。適役ではあるしバンシーの力を借りるのも賛成だけれど。バンシーの泣き声って甲高いから頭に響いて、癇に障るのよねぇ…。子守りどころか子も一緒に泣き出しそうな声よ。伝わるかしら?バンシーの泣き声は、家の住人に家人の死を伝えてくれるから、響くのは当たり前なのだけれど。」
そういえばバンシーの声って聞いたことなかったな。家中に響く声か…。しかもただの大声じゃなく泣き声。確かに嫌がる人も多そうだ。
ギルミアさん、元からいけ好かない人だったけど、まともな精神状態だったら良いなぁ。血走った目でいきなり飛び掛かられたら嫌だな。ハンマーでも隠し持っておく?さすがに物騒か。
兎にも角にも弔いに向けて意気込んだ。
身体を細切れにされる心配をせずに、のんびりできる未来を手に入れたい。そのためにも、ラヴァルさんには頑張ってもらわないといけない。
応援ありがとうございます!
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