田舎娘、マヤ・パラディール! 深淵を覗きこむ!

島倉大大主

文字の大きさ
20 / 62
第二章

その三 ソドム:ごうかなおへや

しおりを挟む
「こ、これがあたしの部屋ぁ!?」
 マヤの声に鞄をクローゼットに入れていたヨハンセンは、顔を上げた。
「お気に召しませんか? では、もう少し良いお部屋を――あ、お父様からのプレゼントはこちらです」
 ヨハンセンが恭しくクローゼットを指し示す。マヤは恐る恐る覗くと固まった。
「な……なんだこの、ひらひらのたくさんついた、たかそうなおめしものは……」
「はて、夜会用のドレスですが? 私は詳しくありませんが、高級品でしょうな」
 マヤは自分が質屋で買ったドレスを思い出していた。あれだって結構な値段だった。
 ところが、今目の前には見たことが無いくらい上等なドレスがぶら下がっている! しかも、それは自分の物だ! これを着たらホントに淑女に見えるんじゃなかろうか……。

「ふーむ、これと釣り合うジャンの服を用意せにゃ……」
「……はいっ!?」
 ヨハンセンの呟きに、マヤは驚いた声を出した。
「な、なんの話ですか?」
「へ? いや、お客様とジャンが並んで歩くのに、釣り合わんでしょう? それに舞踏会も毎夜開かれておりますし、参加するとなれば――」
「い、いや、あたしこれ着ないし! あと踊れないし! だ、大体、これって本当にあたしのものなわけ? 親父ってそんなに金持ちなの? なら、なんであたしと母さんを捨てたのさ?」
 ヨハンセンは口をすぼめた。
「お客様、僭越ながら、個人情報をそう簡単に喋ってしまいますのは……」
 マヤはへどもどしながら、すいませんと謝った。ヨハンセンは慌てて頭を下げた。
「失礼いたしました。私は何も聞かなかった……ということです。ちなみにドレスの件ですが、ふむ、ロビーでレンタルもしておりますが、こちらを御覧ください」
 ヨハンセンは奥の金庫を鍵で開けた。マヤは息を飲んだ。

「……ぎっしり詰まってるそれって――もしかして――お、お金でございますか?」
「ござ? ……ま、まあ、そのようですな。
 はい、鍵をお渡しします。ところで――あぁ、これは失礼いたしました。ジャンと一緒の部屋の方がよろしかったですか? でしたら可能ですので、どうかお気になさらずに! どれ、あいつを呼んできて相部屋に――」
「いやいやいやいや! 最初に驚いたのは、そう言う意味じゃなくて……あたしがこんなとこに泊まっていいのかな~って。あと、そのお客様ってのは、堅苦しいんで、他の呼び方に変えてもらっても大丈夫ですか?」
 はあ、と間抜けな声をだし、ヨハンセンはついで笑い出した。
「では、二人だけの時はお嬢さん、外ではマヤ様とお呼びしましょう。お嬢さん、ご心配なさりませんよう。招待状にありますように、普通のお客様でも、宿泊や飲食は無料なのです。
 まあ、私共の希望としましては、お土産や娯楽などにバンバンお金を使ってほしいですなあ」
「はあ……でも、その、バンバン使うほどのお金……あるな」

 ヨハンセンは肩を竦めて小走りに寄ってくると、ひそひそと囁いた。
「老婆心ながら……バンバンお金を使うのは止めた方がよろしいですぞ!
 若いかたは特にそういうので身を崩す! ここだけのお話ですが、ソドムには大きなカジノがありましてね、そこで各国の要人が使うお金で向こう百年はやっていけるのですよ! 
 ま、富くじが当たったようなものと思って、貯金なさるがよろしいでしょうな!」
「富くじ、ねぇ……。でも、これって、その……合法的なお金なのかな」
 ヨハンセンは頭を捻る。
「それはお父様に会ってみないことには、なんとも……。
 それまでは金庫をお閉めになっておく……というのは、いかがでしょうか?」
 マヤはそれだ、と小さく呟くと屈み、ちょっと考えてから数枚の札を取り出して金庫を閉めた。そのうち一枚をヨハンセンに渡す。
「えっと……チップって、こういう感じに渡すの?」
 ヨハンセンは微笑むと、頷いて素早く札をポケットにねじ込んだ。

 マヤは改めて部屋を見渡した。
 調度品は何もかも大きく豪華だった。ベッドには羅紗の天蓋。その横には白メノウを所々に埋め込んだ大きな姿見が置かれている。部屋の中央には大理石のテーブルに木でできた安楽椅子。ヨハンセンの説明によるとインドの名匠の作らしい。ドアの反対側は全て窓で、その向こうは広いベランダになっていた。天井には大きなシャンデリアが釣り下がっている。

 ……さっき、これよりも豪華な部屋があるって言ってたよな。ここが一般の客室なら、あたしの部屋は穀物の貯蔵庫だな……。

 そんなマヤの表情を読み取ってか、ヨハンセンは苦笑した。
「はは、いずれ慣れますよ。ここは上流階級の人が主ですが、時々一般の方もいらっしゃいましてね、皆さん、お嬢さんと同じ反応をなさいます。
 ですが、一日経てば、普通に暮らせるようになりますから。
 なんでしたら、落ち着いた雰囲気のサロンやカフェ、図書館もありますのでご紹介しましょう」
 マヤは、ほへぇと間の抜けた声を出し、なんとか調子を取り戻せないかと思案した。
「……なんか面白い――いや! 格闘技見せる場所、とかあります?」
「ありますあります! ローマの剣闘士に扮した男達の闘いを見ながら、食事できますぞ! ああ、変わったところではサムライ同士の闘いを見ながら食事を――」

 サムライ!?

 マヤは食いついた。
「それは凄い! ヨハンセンさん、それどこ! ぜひ行きたい!」
 ヨハンセンはマヤの勢いに、ほうと目を丸くし、ニコニコしながらポケットを探ると、何枚かの紙を出した。どうやら店のパンフレットらしい。
「ええっと……これだこれだ! 日本料理『まねき』。アメリカの店の二号店でしたかな」
「日本の店じゃないんだ?」
「店主は日本人でしたが、詳しい事は判りかねますな」
 ヨハンセンはコホンと小さく咳をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...