プロビデンスは見ていた

深月珂冶

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アメジストの涙

アメジストの涙20 完

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  その後、楠田が逮捕されたことは、大々的に報道された。

  楠田に刺されたのは全員で4人。

  いずれも若い女性だった。重症を負ったものの、一命を取り留めた。
  楠田の生い立ちから、江波親子を襲い、スーパーでの襲撃までをマスコミは報道した。

  楠田の生い立ちは壮絶なものだった。

 楠田くすだ弘輝こうきを生んだ母親は男を作り家出。父親は完全に育児放棄。

  父親は楠田を自分の兄に預ける。

  つまり、楠田にとっての叔父だ。
  そこで楠田は疎外されていた。マスコミはそこをクローズした。

  楠田を預けていた叔父がインタビューを受けた。

【あいつは気味の悪い子だ。いつか何かやると思ってた】

  インタビュアーが質問する。

『貴方は関係ないのですか?』
【私たちは他人だ。関係ない】

  そのVTRを見たテレビのコメンテーターは不愉快な表情を浮かべた。

  世論も楠田の生い立ちに同情的だった。

  楠田は犯行動機を一切、黙秘した。

  少年犯罪心理学者は、【自分の存在を肯定してくれない周りと思春期特有の何者でもない自分への鬱憤】と分析。

  私は楠田が犯罪に手を染めたのは、【物に触れると過去が見える】が大きな引き金となったと思えた。

  本当の親が自分を捨てたことを見てしまったのだろう。

  更には人の嫌な部分まで見てしまった。

  何を信じて何を生き甲斐にすればいいのか。

  そこである時、楠田は江波えなみ梨々香りりかが実父から虐待を受けていることを知った。


  同じ仲間だと楠田は思ったのだろう。

  孤独な楠田は、江波に近づく。けれど、江波はそれを拒否。

  ヤケクソになった楠田は、江波を襲おうとしたのだろう。

  何もかもめちゃくちゃになり、スーパーで襲撃。

  私は楠田の行動を勝手に推測した。全ては解らない。

  おおよそはそんな感じだろう。

  私は楠田を憐れに思った。

  もし、違う人たちに出会っていたら?

  楠田は違った行動に出ただろう。

  もやもやとした気分になり、私は少年院送りになった楠田の更正を願った。


   楠田の事件から、学校にマスコミが殺到したのは言うまでもなかった。

  安全のため、引き続き、学校側は生徒及び、保護者にマスコミの取材を受けないようにと注意喚起ちゅういかんきがされた。

  注意喚起をしてもそれを破る人はいた。

  楠田のフルネームはネット上に上がり、野次馬が学校にしばらくはびこった。

  幸い、私のこと、江波と水山のことまでは流出することは無かった。

  楠田は精神鑑定の末、責任能力があると認定された。

  楠田の精神は錯乱さくらんしている様子もなく、正常であると認定。

  少年院に二年の後、少年刑務所に送致されるらしい。

  何年か後には社会に復帰しているだろう。
  私は、その時に楠田が【物に触れると過去が見える】能力を乗り越えることを願った。

  その後、江波の意識は戻った。

  中学の卒業式には間に合わなかったが、卒業後に退院したことを笹山ささやま幾子いくこから聞いた。

  退院後、事件のトラウマから、祖父の三島みしま重雄しげおと共に県外に引っ越したらしい。

  その知らせのハガキを高校二年の時に貰った。

  あれから13年が経過した今でも江波とはやり取りをしている。

  元気でやっているだろうか。あの時の決意を私は決して忘れないだろう。

  私は店を閉める準備を始めた。

  準備を始めた際、一人のお客さんが来た。その人は杖を突いていた。

「すいません。もう終わりなんで」

  私はその人の顔を見た。その人は私の顔を見て笑う。

「川本さん」

「もしかして、江波さん?」

  江波は首を縦に振った。江波は昔と変わらなかった。

  ただ違うのは、足を悪くしていたことだけだ。
  江波は刺されたことで、足を悪くした。

「元気そうだね」
「うん。江波さんも。良かったら入って」
「うん。ありがとう」

  私は江波を店の中に招き入れた。

  その後、私と江波は昔の話や、これまであったことの話に花を咲かせた。
  江波は結婚し、幸せにやっているようだった。
  結婚の報告を私に直接したかったらしい。

   私は江波が幸せそうで、心の底から嬉しくなった。


「もう江波さんじゃなくて、津山さんだね」

「うん。でも、名前で呼んでほしい」

   江波は結婚して津山つやま梨々香りりかになった。津山は笑う。

「わかった。梨々香さん。そうだ。レプリカのアメジストのネックレスはどうしている?」

「あれ、実はまだ持っているの」

「え!!!」

  私は驚いた。

「だってそれが私とリカコを結びつけてくれたから」

  梨々香の表情は穏やかだった。

「なんか恥ずかしくなってくるね」

「フフフフフ」

「あ、そうだ。私が渡したのはレプリカだけど、アメジストには癒しの効果や、マイナスのエネルギーをプラスに変える力があるんだよ」

  私はアメジストの効力を思い出した。

  もしかしたら、このレプリカのアメジストのネックレスが力くれたのじゃないかと思えてきた。

「そっか。じゃあ、感謝しないとね。今持ってきているよ」

「うそ!マジで!」

「うん、見る?」

「見る!」

  梨々香は嬉しそうに自分のカバンからアメジストのネックレスを出すのだった。

アメジストの涙  完
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