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第一部 第一章 異世界転移の篇

33-2 道具を使って…

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 アユミとナオは、タクミが石を組んでかまどを造っている横で机を並べて野菜やハムを切っている。

アユミ「この包丁、かなりよく切れるね…」
ナオ「トマトの皮も気にならないからね。気をつけないと…」
アユミ「でも、作業がはかどるよ。ねえ見て、もうキュウリこんなにいっぱい切れたよ。」

 2人は以前水が入っていた大きなうつわに薄く切ったキュウリとトマトを入れていく。 
 野菜を切り終わると、ナオがちょっと神妙な顔で手元を見つめる。と、大きなハムのかたまりが彼女の両手の上に現れた。

ナオ「大きいー…」
アユミ「こんなのが出てくるんだ…」
ナオ「でも、塊としては大きいけど、幅としては食パン半分ぐらいじゃない?」
アユミ「じゃあ食パンをあぶって、このハムは厚めに切ってフライパンで炙って、野菜といっしょにはさむっていう感じでどう?」
ナオ「オーケー、それでいこう。」

 ナオはハムの端っこをちょっとだけ切って口に運ぶ。

ナオ「うまっ!ちょっとアユミも食べてごらん。」
アユミ「どれどれ…確かに!これは美味おいしい。」
ナオ「パンといい、このハムといい、すごく美味しいんだけど…」
アユミ「なんか私たち、不便なわりに贅沢ぜいたくになってないかな(笑)…」
ナオ「(笑)。」

 タクミは2人のそばで、黙って石を組んでいた。横に焼き網ともう一つ、ワイヤーが並んだ道具でかまどの幅を確認している。ナオがそんなタクミの作業をしばらくジッと見ていた。

ナオ「ねえタクミ、その焼き網じゃない方の道具、それって何?」

 タクミは一瞬、何をたずねられているのか分からず、キョトンとした顔をする。

ナオ「だから今、その右手に持ってるものだって…」
タクミ「これ?」

 タクミは焼き網ではない道具を持ち上げてみせた。

ナオ「そう、それ。」
タクミ「これって、五徳ごとくとかスタンドとか言ってるけど…」
アユミ「それって、何に使うの?」
タクミ「これってかまどの火の上に乗せて、この上にフライパンとかポットとか置くの。キャンプ、あんまりしたことない?」

 タクミに聞かれてアユミとナオはお互いに顔を見合わせて、それぞれに思い出そうと首をひねる。

ナオ「私はほとんど…」
アユミ「私はしたことあるけど、自分でかまど組んだりはしたことないから…あの、炭入れてバーベキューするのは使ったことあるけど…」
タクミ「バーベキュースタンドね…こういう道具使うと、本格的なアウトドアっていう感じになるから…」
ナオ「アウトドアっていうか、これが日常生活になってきてる…」

 タクミは2人と話をしながら、いつの間にかコの字型のかまどを二つ組んでいた。

タクミ「ナオさん、アユミさん、こんな感じに出来たけど、どうかな?」

 アユミとナオが立ち上がってタクミが造ったかまどを見ると、焼き網とスタンドをそれぞれ並べて使えるようになっている。

アユミ「すご~い…ありがとう、これだと食パンとハムと一度に焼けるね…」 
ナオ「ホントだ…ありがたいよ…どっちも暖かいのが食べれそうだよ…」
タクミ「そんなに大したことじゃないけど…じゃあオレ、こっちの仕事は終わったから、焚き木作りを手伝ってくるよ。」
ナオ「おつかれさま。私たちもあと、ハムとパンと切ったら洗濯を手伝いにいくよ。」

 それぞれが下ごしらえやかまど造り、焚き木作りや洗濯を終わらせると、久しぶりに一日のほとんどで作業をした疲れのせいか、みんな小屋で昼寝をする。
 みんなが目を覚ますと陽がかたむき始めていた。

アイ「ちょっと寝過ぎたかな…」
ナオ「もう起きて準備しないと……」
タクミ「陽が暮れる前に火を起こさないとダメだね。」
モア「今日は疲れたよ~…」
ソラ「あんた、洗濯の時にはしゃぎすぎだよ(笑)…」
ルカ「そうだよー(笑)。」
アイ「さあ、食事の準備しちゃおう!」

 タクミ、アイ、ソラ、モアが木を組んで火を起こしている間にアカリやツグミは食器を並べて、アユミとナオ、ルカが用意していた食材を準備する。

 焚き木に火がくとかまどに焼き網とスタンドが置かれる。
 ルカはスタンドの上にポットを二つ置き、アユミとナオは焼き網に切ってあった食パンを3,4枚並べた。

ルカ「ポットはコーヒーと紅茶を温めてるから。牛乳もあるし、カフェオレでもミルクティーでも出来るよ。」
アユミ「そこに菜箸さいばしがいくつかあるから、誰か食パン見ててね。げないようにひっくり返して。」
アカリ「オーケー、こっちは任せて。」
ツグミ「食パン、こっちへちょうだい。残りのもあぶっとくから。」
ナオ「ありがとう。お願いね。」

 アユミはポットの横にフライパンを置いて、熱くなってくるとハムを焼き始めた。

ソラ「久しぶりの肉のにおいだ~。」
モア「お腹すいたよ~。」

 ナオは昼間に切った野菜を入れていた器をストレージから取り出す。

ナオ「この器にキュウリとトマトの薄切りが入ってるから。」
アイ「で、これをどうすんの?」
ナオ「炙った食パンに焼いたハムを乗せて、少しコショウをかけてから野菜を乗せて、塩をしたら半分に折ってサンドウィッチにして食べて。」
モア「やったー!」
アユミ「さあ、ハム焼けたよ~。パンはどう?」
ツグミ「パンもどんどん焼けてるよ~。」
ナオ「このお皿、向こうへ渡してあげて。」

 ナオが焼けたハムをソラたちに回す。

アユミ「さあ、どんどんハムも焼けてくからね~。」
ソラ「お塩とコショウ、ちょうだい。」
ルカ「はい、どうぞ。」
モア「早く早く!」
アイ「そんなに慌てなくても大丈夫だよ(笑)。」
タクミ「あの~、パンをください…」
アカリ「ハイ、どうぞ。」
ルカ「これ野菜で、こっちがハムだよ…」
タクミ「ありがとう…」

アユミ「私のことはいいから、みんな、先に食べてね。」
アカリ「そんな~。」
ナオ「いいよ。野菜も足らなそうなら言ってね。また切ればいいから…」
モア「ねえ、もう食べていい?」
アユミ「いいよ。」
アイ「仕方ないなー(笑)…」
モア「いただきまぁ~す。」
ソラ「私も…いただきまーす。」

アカリ「私もいいかな?…」
ツグミ「いいよ。私が食パン、見てるから…」
アカリ「ゴメンね…」
アイ「一つ食べた人は食べてない人と交代ね。」
ソラ「これっていくつ当たるの?」
ナオ「一応二つずつだけど、足りなかったらパンもハムも切るから。」
ルカ「アユミちゃん、私、代わるよ。」
アユミ「ありがとう…でも、切ってある分だけでも焼いてしまうから…」

 モアがさっそく出来上がったサンドウィッチにかぶりつく。
 ソラがモアの食べっぷりを見て、自分もサンドウィッチをかじった。

モア「おいしー‼すごく美味しいよ~!」
ソラ「ホントだー。なに、このハム?すごい美味い。」
ツグミ「タクミ君、食べ物回ってる?」
タクミ「大丈夫…今、サンドウィッチを作ってる…」

ナオ「飲み物、何がいい?コーヒー?紅茶?」
アイ「私、ミルクティー。」
ソラ「私も。」
モア「私も!」
ルカ「…これ、牛乳とお砂糖ね(笑)…」
アカリ「私、コーヒーちょうだい。カフェオレ、作るから…」
タクミ「これ、スゲーうめぇ。こんなの食ったことないよ!」
ソラ「でしょー!」

 ハムを一通り焼き終わったアユミに、ナオが作っておいたサンドウィッチを差し出す。

ナオ「アユミ、終わったでしょ。ご苦労さま。これ、アユミのサンドウィッチね。こっちはミルクティー。」
アユミ「え~、ゴメンね…ナオ、先に食べてくれてよかったのに。」
ナオ「ううん…私もルカもいただいてるから…」
ルカ「大丈夫だよ。みんな食べてるから。」
アイ「なんか、肉とか野菜とか食べるとホッとするね…」
ツグミ「パンも美味しかったけど…なんか、久しぶりに食事した感じ……」
ソラ「分かる。いろんなもの食べて、「食べた!」って感じだね…」

 アユミもサンドウィッチを一口かじる。

アユミ「いただきます……あっ、これホントに美味しいね。」
アイ「自分でも初めてなんだ。」
ナオ「これって、つまみ食いできないからね(笑)。」
アユミ「確かに(笑)。でも、ハムは2人で味見したじゃん。」
ナオ「え~っ、そうだっけ?(笑)」
全員「(笑)…」

 久しぶりの充実した食事に、みんな笑顔が絶えなかった。







*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、「いいね」や「お気に入り」をいただければ励みになります。
 また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。

 2025年12月3日
 文字数がかなり多いエピソードが増えてきましたので、エピソードを分割して読みやすくしていきます。
 現状では文字数で機械的に分割を行っていますので、単純にページが増えているという感じでお読み下さい。
 こちらもマイペースで進行いたしますので、ご容赦ください。
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