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第一部 第一章 異世界転移の篇

25-1 アイと… ♡

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 誰もがもうアイはタクミとはしないだろうと思っていたので、アイが姿を見せたことに皆びっくりして黙ってしまう。
 アイも立ったまま何も言わなかった。

アカリ「………アイ、どうしたの?……」

 長い沈黙にえ切れず、アカリがアイに言葉をかけた。

アイ「……うん……今から……タクミとヤルから……」
アユミ「えっ?………」
ルカ「……アイちゃん……」
アカリ「……アイ、無理に…」

 アイはアカリが何かを言いかけたのをさえぎって、言葉を重ねる。

アイ「いいの、無理にじゃないから……だから……」
ナオ「……アイ……」
アイ「……だから、みんな……ちょっと向こうへ行っててほしいの……」
アカリ「…アイ、大丈夫?……」
アイ「……ありがとう、でも……ちょっと、2人だけにして欲しいの……」

 女の子たちはお互いに顔を見合わせるが、アイの言う通りにタクミとアイだけにしようと全員が立ち上がった。

アカリ「…ねえ、何かあったら、呼んでね……」
アユミ「…ここにティッシュとタオルと、置いておくから……」
アイ「……ゴメンね、ありがとう……」

 みんな2人のことが気になるが、それでも部屋の向こうへ行った。

 アイはみんなが向こうへ行っても、まだ机のところでブレザーのポケットに手を入れて立ったままだった。
 タクミの顔を少し見たと思うと、部屋のあちこちを見るようにしてどこか落ち着かない。

 絨毯じゅうたんの上に座ったままのタクミは沈黙と緊張感にいたたまれなくなって、アイに声をかける。

タクミ「……あの~……こっちへ来る?……」

 アイはタクミに言われてくつを脱いで絨毯の上に来るが、まだ立ったままタクミを見下ろしている。
 しばらくアイが黙っているので、タクミもひざを抱えてじっとしている。
 すると突然、アイが言った。

アイ「私は…本当は……あんたなんかと……ヤリたくないんだからね!!!」

 それはものすごく大きな声で、恐らく部屋の向こうにいるみんなにも聞こえたはずだ。
 アイはそれだけ言うと急にしゃがみ込み、膝を抱えて大きな声で泣き出した。
 まるでタクミなどそこにいないかのように、アイは激しく泣きじゃくる。

 これまでアイに色々言われても正直な気持ちを表に出さないようにしてきたタクミも、このアイの様子にはさすがに腹が立ってきた。

 そんなに泣くほど嫌ならば、無理にするなど言わなきゃいい。
 別にタクミが無理強むりじいしたわけじゃないし、他の女の子も無理にしたわけじゃない。

 それにそんなに嫌だと思ってるなら、タクミとしようとしてもうまくいかないだろう。
 アイのあそこも濡れてこないはずだ。いや、嫌がっている女の子とはタクミもやりたくない。

 タクミは思い切って正直な気持ちを言おうと、アイと話すために彼女のそばへ近づいた。

 だが、そんなタイミングでタクミの鼻の奥がむずむずしてきた。

 今までは裸でいてもすぐに女の子と互いに触り合ったり、抱き合ったりしたので問題なかったが、あまりにずっと裸で放っておかれたので身体がすっかり冷えてしまったのだ。
 こんな時にくしゃみなんて、とタクミは思うが、生理現象はおさえきれない。

 「我慢だ…我慢だ…」、そう思っていたが……。

「ハクション‼」

 我慢できずにくしゃみがアイのすぐそばで出てしまう。

タクミ(なんて間が悪いんだ、どうしてオレはいつも…)

 タクミは情けなくなって下を向くが、それでも仕方なくアイの方へと向き直る。
 タクミが顔を上げると、アイは半泣きになりながらタクミの顔を見ていた。

アイ「……ゴメン……私のせいで…身体、冷えちゃったんだ……」
タクミ「……へっ?……」

 タクミはアイの意外な言葉に返事ができない。
 そんなタクミにアイは怒るでもなく、自分のストレージから出したタオルをタクミの肩にける。

タクミ「……河合さん……」
アイ「……ゴメンね、ひどいこと言って……ゴメンね……」

 タクミはその言葉で、初めてアイが自分をいやがって泣いているわけじゃないとさとった。だが、それならなぜ泣いているんだろう。

 アイは何も言わずにタクミの肩に頭を乗せてまた泣き出した。
 タクミはそれでも最初に言おうと思っていたことを口にする。

タクミ「……河合さん……あの…嫌なら……無理にしなくても…」
アイ「違うの、そうじゃないの……ゴメン…ごめんなさい……」

 タクミは自分の腕にすがりついて泣くアイの頭をでて、その横顔を見る。その瞬間、タクミはドキッとした。

 確かにネット上で話題になるずっと前から、学内でも学外でもアイは美少女だと言われていた。
 いや、中学校から一緒だったタクミはその頃から彼女が美少女だとうわさになっていたのを知っていた。
 高校生になっても学内で可愛い子の話題が出れば、女の子でも必ずアイの名前を出すほどだった。

 だが、タクミは今まで一度もアイを可愛いと思ったことが無かった。

 中学校はもともと共学で男女はほぼ半々だったので、アイから露骨ろこつに命令をされるようなことはなかった。
 だが、それでも正直に物を言うアイは何かと男子のグループと言い争いになったし、その時にタクミが名指しされることも少なくなかった。

 そしてS学園に入ると、男女比の差の中でアイはタクミに色々なことを指図さしずするようになったし、たくさんの女子の前ではタクミもそれを断りにくかった。
 そのせいでいつの間にかタクミはアイのパシリのようになってしまっていた。
 そんな命令するような女の子のことを可愛いとは、タクミもさすがに思うことなど出来なかったし、実際アイに女の子らしさのようなものを全く感じたことがなかった。

 だが今目の前で泣いている女の子は、今まで見たことない姿をしている。
 普段の男っぽい雰囲気はどこにもなく、どこか可憐かれんで弱々しく、抱きしめて守ってあげたい。
 そんな感じですっかり泣きはらしている彼女の顔を見て、タクミはなぜかどんなアイドルよりもずっと美少女だ、と感じた。

 タクミはアイが肩に掛けてくれたタオルを取ると、そのタオルで彼女の泣き濡れた顔をく。

アイ「……タクミ……」
タクミ「…河合さん…いいよ、そんな無理しないで…別にしなくても…オレ、何とも思わないから…」
アイ「…ううん…違うの、そうじゃないの……わからないの……どう言ったらいいのか…どうしたらいいのか…」
タクミ「…河合さん…」

 いつの間にかアイはタクミの肩に腕を回して、タクミの顔をジッと見ていた。
 タクミは彼女と目が合って、なぜかドキドキしてくる。
 アイのことを初めて可愛いと思ったのに、美人って、こんなに泣きはらしても美人なんだ、などという場違いなことを考えたりする。

 そんなことを思っているとアイが不意に顔を近づけてきて、いつの間にか唇にキスをしていた。







*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、「いいね」や「お気に入り」をいただければ励みになります。
 また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。

 2025年10月1日。
 読みやすさ改善のため、文章を大幅に変更しました。
 一部の語句や文章の修正も行っていますが、内容は変更していません。
 今後も文章の改変を随時行っていきます。ゆっくりマイペースで行いますので、どうかご理解下さい。

 2025年11月25日
 文字数がかなり多いエピソードが増えてきましたので、エピソードを分割して読みやすくしていきます。
 現状では文字数で機械的に分割を行っていますので、単純にページが増えているという感じでお読み下さい。
 こちらもマイペースで進行いたしますので、ご容赦ください。
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