72 / 93
第二章 冒険出発の篇

46-1 冒険者ギルド

しおりを挟む
 次の日、みんなは誰かのうなり声で目を覚ました。

「…う~ん…う~ん…」

 アカリが声の主をさぶる。

アカリ「アイ、大丈夫?…」
アイ「…う~ん…身体が痛いの…ダメだ…」

 ナオがあわててアイのそばへ行く。

ナオ「どうしたの?…どこか痛むの?…」
アイ「いや…身体中が筋肉痛みたい…ちょっと『ヒール』かけてくんないかな…」

 ナオはホッとして、うつ伏せになったアイに『ヒール』をかけた。
 ナオが身体全体にしっかりと『ヒール』をしたおかげでアイも次第しだいに良くなってくる。

アイ「ありがとう…だいぶ楽になったよ…」
ツグミ「昨日は凄い闘いだったから…」
ルカ「そうだよ…あんなふうにジャンプしてクマを仕留しとめるなんて…」
ナオ「その後もみんなを代表して、話してくれたし…」

 アイは立ち上がると腕を突き上げて大きく伸びをした。
 他のみんなも毛布から起き上がるが、疲労で身体が重だるい。
 ソラは眠気を覚ますためか両掌で軽く顔を叩く。アユミとルカはもうパンと飲み物をストレージから出していた。

 全員で集まって朝食を取り出すが、昨日の疲れでみな口数が少ない。

ナオ「ねえ、今日はどうするの?…」
アイ「う~ん…あのね…」
ソラ「アイもお疲れだし、休みにしてもいいんじゃない?」
アユミ「休みって(笑)…」
モア「それ、賛成!」
アカリ「(笑)」

 ソラとモアが嬉々ききとして休みを主張するのに対して、ルカが真面目な顔で言う。

ルカ「でも…せっかく落ち着いたから…洗濯とかしたいけど…」
ソラ「その前に着替えたい…」
ツグミ「だったら、やっぱり洗濯だよー…」
モア(小声で)「…洗濯って…みんなで…するの…」

 話が休みから遠ざかりだしたのを感じて、モアは心配そうな表情になった。
 アカリは笑顔でそんなモアの肩を叩く。

アカリ「こんな世界にいたら、休みはないよ(笑)…」
ソラ「…だよね…」
アユミ「ガッカリしないでね(笑)…」
モア「…うん……」
全員「(笑)…」

 モアの明らかにガッカリした様子に、他のみんなが吹き出した。
 アイが笑いながら話を元に戻す。

アイ「(笑)…あのね、私が言おうと思ったのはもう一度村長さんに会って話が聞きたいってこと…」
アカリ「昨日、色々聞かなかった?」
アイ「でも、肝心かんじんのギルドのこととか聞けなかったでしょ…
 あと、この村から一番近い町までどれぐらいだとか、移動手段は歩くしかないのかとか…
 そういうことを聞かないとこれからのことが決められないから…」
アユミ「確かに…」

 人に会った、その次のことを考えないといけないことに、みんな今更いまさらながら気がついた。

ナオ「…で、私たち、これからどうすればいいんだろう…」
ルカ「ギルドにゴブリンを売りに行くだけ?…」
アカリ「RPGだとこれからどういう展開?」

 アカリは冗談半分で言ったのだが、ソラは真面目に考える。

ソラ「ゲームだとザコキャラを倒しながらレベル上げて、あとアイテムとかお金とか手に入れる…」
タクミ「えっ、ザコキャラってこっから戦いに行くの?」
アカリ「そこまですることはないだろうけど…」
アユミ「今に当てはめると、お金を手に入れないといけないみたい…」
ツグミ「100ゴールドって、どれぐらいの価値なのかなあ…」
アイ「お金を手に入れるって言っても、私たちだとソラが言うみたいに武術とか魔法を使って何かを倒して、っていうことになると思うけど…」

タクミ「…何かって、魔獣のことだし…ザコキャラってなるとゴブリンだけど…」
ソラ「…魔獣…結構ヤバいね…」
タクミ「いや、魔獣もオオカミも相当ヤバかったよ…」
モア「魔獣もオオカミはもうイヤだよー…」
ルカ「でも、魔獣を倒したら誰かからお金がもらえるのかな?…」
アカリ「確かにアイが言うように、そういうお金のことも聞かないとダメだね…」

 しなければならないことが次から次へと出てきて、みんな何から始めればいいのか、顔を見合わせたままになった。
 ナオがそんなみんなを落ち着かせるように言う。

ナオ「アイが言ったように、まずは情報収集だね。私たち、この世界のこと、何も知らないわけだから…」
ソラ「そうか、RPGでもまずは村人たちに話を聞く、だった。」

 ソラが真剣に言うので、何人かがクスクス笑う。

ソラ「えー?、何で笑うのー…」
アカリ「いや、ゲームのことを真剣マジに言ったから(笑)…」
ソラ「ダメ?役に立たない?…」
ナオ「いや、そんなことないよ(笑)…レベル上げに出る前に、出来るだけ色んな話を聞かないとダメだね…」
ルカ「ゲームのことだからって、笑うことじゃないよ…」
ソラ「でしょー(笑)…」
アイ「(笑)…」
アユミ「(笑)…」

 話しているうちに全員が朝食を食べ終わり、ナオとルカが片付け始めた。その間にアユミが小屋の奥を見に行く。

アユミ「この奥、土間になっててかまども三つぐらいあるよ…
 それにその奥は外につながってるけど板張りの床があって、壁も天井もあるから水浴びしたり、洗濯したりできる…外に溝もあるし…」
ルカ「じゃあ、とりあえずコップ洗ってくる…」
ツグミ「私も手伝うよ…」

 それぞれが作業を始めようとすると、ナオがアイの顔を見て聞く。

ナオ「村長のところって、全員で行かなきゃダメかな…」
アカリ「何人か、ここに残るってこと?」
アユミ「その間に洗濯とかできるけど…」

 アイは腕を組んで少しの間考えてから顔を上げた。

アイ「やっぱり大事なことだから、みんなで聞きに行った方がいいよ。
 昨日のツグミみたいに、他のみんなが思ってなかったことを思い出す人もいるかもしれないし…」
ナオ「それぞれ考えてることがちょっとずつ違うから…」
アユミ「そういうのって、意外と大事だよね…」
アカリ「それに全員の意思統一っていうのができるから…」
ツグミ「じゃあ、みんなでルカちゃんやアユミちゃんを手伝って、それから行こうよ」
アイ「オーケー。ツグミの言う通りだね。」

アカリ「それじゃあ、何をすればいいかな…」
ルカ「洗ってないままのコップが結構いっぱいあるから、それから片付けよう。」
ソラ「り(了解)!…行こう!」
アイ「ハイハイ、タクミも行って手伝いなよ、ヤッてるだけじゃダメなんだから。」
タクミ「…ハイ…」
ルカ「(笑)…」
アユミ「その前に、みんな、着替えてね。ここに来るまでの間、ずっとそのままだったでしょ。」
全員「了解しました(笑)。」

 アユミにうながされるまま、メンバーはそれぞれ旅の間着た切りだった衣服を着替える。
 そして、着替えた順から裏に行って食器洗いを片付けていく。ルカとツグミに、ソラとアカリが手伝う。

 アイとナオはその間に村長にどんな話をするのか相談をして、アユミはタクミとモアに手伝わせ全員の洗濯物を整理してどの順番で洗っていくのかを考えていた。

モア「9人分って、すごくいっぱい…」
アユミ「洗濯のために、4,5日、ここに居続けたいね…」

 それでもルカたちがコップやお皿を洗い終わると、みんなは村長の家へ行く準備をした。

アイ「村長の家って、どっちか分かる?」
アユミ「ギリアさんの家に寄ってから来たから…」
ルカ「それにもう、暗くなってきてたし…」
ナオ「みんな分からない?」
ソラ「村の誰かに聞くしかないよ…」

 村長の家へどうやって行けばいいのか、分からないまま全員がぞろぞろと小屋を出ると、ちょうどそこにニコがやって来た。

ニコ「おはようございます。今日はどうされますか?」

 こちらから何も言ってないのにニコが現れたことに皆、少し驚く。

アイ「おはようございます。」
ニコ「おはようございます。村長からお客様に何か御用がないか聞いてくるようにと言われましたので…」
アイ「よかった…実は改めて村長さんに伺いたいことがあって、それで村長さんの家へお邪魔しようと思っていました。」

 ニコは微笑んで「ではご案内いたしましょう」と言うと、すぐに歩き始めた。アイたちもその後についていく。

 村ではあちこちで女たちが洗濯をしたり、柴を切ったりと家事に精を出していた。
 子供は子供だけで集まって遊んでいる。アイたちが村の女たちのそばを通ると、彼女らは会釈をしてくれるが、子供たちは何となく遠巻きにしてアイたちのことを見ているだけだ。

 村長の家へ行くと、彼はすでにひと仕事終えたような様子で現れた。

村長「おはようございます。豚や牛の様子を見てこなければならなかったので、このような格好かっこうで申し訳ございません。」
ニコ「皆様は村長にお聞きしたいことがあるそうです。」
村長「おー、昨日はうたげのこともあって十分にお話できませんでしたから、どうぞ何なりとおうかがい下さい。」

 村長は家族らしき女性たちに何か言いつけると、彼女らはすぐに外へ出ていった。
 アイたちは頭を下げて礼をする。

アイ「お仕事のところ、朝からお邪魔して申し訳ありません。実はギルドのこととかを伺いたくて…」

 アイが話を始めたところにさっき出ていった女性たちが椅子をいくつもかかえて戻ってきた。
 昨日思った通り、椅子のほとんどは周りの家からの借り物のようだ。
 女性たちは椅子を並べると、アイたちに座るようにすすめる。

村長「申し訳ありません。私の家だけでは椅子が足りないもので…借り物ですが、どうぞお座り下さい。」

 彼女らが昨日と同じように飲み物も用意しようとするのを見て、アイが丁重ていちょうに断る。

アイ「私たちも食事をしてきたので…飲み物は大丈夫です。」







*楽しんでくださった方や今後が気になるという方は、「いいね」や「お気に入り」をいただければ励みになります。
 また、面白かったところや気になったところなどの感想もいただければ幸いです。よろしくお願いします。

*2025年10月16日
 読みやすさ改善のため、文章を大幅に変更しました。
 一部の語句や文章の修正も行っていますが、内容は変更していません。
 今後も文章の改変を随時行っていきます。ゆっくりマイペースで行いますので、どうかご理解下さい。

 2025年12月18日。
 文字数がかなり多いエピソードが増えてきましたので、エピソードを分割して読みやすくしていきます。
 現状では文字数で機械的に分割を行っていますので、単純にページが増えているという感じでお読み下さい。
 こちらもマイペースで進行いたしますので、ご容赦ください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。 ↓ PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

処理中です...