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必然な出会いたち
出会い2
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この人は私に頭を下げたとき、身体が少しよろめいていた。
体調が悪そうに見えたのは間違いがなさそうだ。
「どうして私が必要なんですか?」
体調が悪いながら行くべきところは病院だ。
一木さんの患者なら尚更病院にいくべきだと、私は思った。
単なる中学生の私ができることなんて何もないんだから・・・。
「あの日・・お前が弾いてた音に、俺は惹かれた。今まで一木先生のところに通って仕事の息抜きをしてたけど・・・お前の音がいい。」
そう言われ、私はあの時のことを思い出していた。
おもちゃのピアノの音が聞きたくて、鍵盤を叩いたことを。
(私もあの音にすごく感激したけど・・・この人は私とは違うよねぇ・・・。)
あの時の私は、施設から出たばかりで右も左もわからないことだらけだった。
憧れていたピアノの生の音を初めて聞いて、身体が震えるくらい感動したことは今も鮮明に覚えてる。
でもこの人は・・・一木さんの患者さんだ。
『心療内科』の医師である一木さんは、患者さんの心の『重さ』を少し取る仕事をしてると教えてくれたことがあった。
一人で解決できない心の痛みを、一木さんが少し負担することで患者さんの痛みが減るのだ。
(調子悪そうだけど・・・私のピアノを聴けば元気になるの?)
決していいとは言えない顔色に、よろめく身体。
ピアノとは違う方法で治したほうがいいと思うものの、話をしてるうちに放っておけなくなってしまっていた。
「じゃ・・じゃあ、そこのピアノで・・いいですか?」
そう言ってさっきのピアノの方を指差した。
私が歩いて来た道だ。
「!!・・・助かる。」
私は踵を返して歩き出した。
私のすぐ後ろを『伊織』さんがふらつきながらついてくる。
(うーん・・・。)
体格のいい身体に、すこし長めの黒い髪の毛。
年は・・・私よりは遥かに上に見えた。
『仕事の息抜き』と言ってたことからお仕事をされてる年齢なのは読み取れていた。
伊織さんの回りにいる人たちも同じようなスーツを着ていて、どうもお仕事の途中のように見えた。
(お仕事って、お兄ちゃんやお父さんのしか知らないからわからないけど・・・この人は何の仕事をしてるんだろう。)
そんなことを考えながら、私はさっきのピアノのところに戻って来た。
まだ列に並んでる人数は減ってなく、どう見てもあと数時間は待ちそうだ。
(うーん・・・今日、私は予定無いけど何時間もここにいるのはちょっと・・・。)
そう思いながら伊織さんを見た時だった。
彼は私の腕をぐぃっと引っ張ったのだ。
「ふぇっ・・!?」
「悪い、仕事の都合があって長くは待てないんだ。ちゃんと家に送るから・・・来てくれ。」
そう言って伊織さんは私の腕を掴んで歩き出してしまった。
「へっ・・!?あのっ・・・」
どうしたいいのかわからずにいると、どこからともなく真っ黒の車が現れた。
伊織さんの回りにいた人達がその車のドアを開け、伊織さんは私をその車の中に押し入れた。
「10分くらいで着く。」
そう言って伊織さんも車に乗り込んできた。
ドアを閉めると同時に車が走り出し、私は行き先も告げられないままどこかに向かうことになってしまった。
ーーーーー
「着いたぞ。」
車が走り出して10分ほど経った時、車は大きな門をくぐった。
ゆっくり開いた門は木でできていて、その分厚さに壁かと思うほどだ。
門をくぐった車はそのままゆっくりと走り、一軒の大きな家の前で止まった。
そして伊織さんはドアを開けて車から下り、私に向かって手を差し出して来た。
「下りれるか?」
「は・・はい・・・。」
その手を取り、車から下りたとき、耳をつんざくような声が私を襲った。
「お帰りなさいませ!!若!!」
「ひゃあっ・・!?」
あまりの声の大きさに思わず耳を塞ぐ。
すると、そんな私に気がついたのか、伊織さんが私を覗き込んできた。
「どうした?大丈夫か?」
「あ・・ちょっと大きい声が苦手で・・・」
施設で身についてしまったのか、小さい音を拾うのが得意だった私は、施設を出てから大きい音が苦手になってしまっていた。
街中ではたくさんの音が溢れてるからそんなに驚きはしないけど、今みたいな急に現れる大きな音は苦手なのだ。
「悪い。」
伊織さんはそう言うと、大きな声を出した人を睨みつけていた。
睨まれた人は委縮したように身を小さく縮めてる。
「こっちだ。」
そう言って伊織さんは歩き始めた。
家の中に入り、土足のまま進んで行く。
その姿を見て、私も靴を脱がずについていった。
家の中は広々とした玄関があり、長くて幅の広い廊下が左右と真正面に伸びてる。
その左側の廊下を歩きながら、私は目に入る中庭をずっと見ていた。
『庭』のハズなのに、屋根付きの休憩所みたいなところがあり、大きな池のようなものも見える。
遠くを見ようとしても壁のようなものは見えず、庭じゃなくて大きい公園じゃないかと錯覚してしまいそうだ。
「亜子、これ弾けるか?」
その言葉に視線を前に向けると、伊織さんが一つの扉に手をかけて私を見ていた。
伊織さんは扉をゆっくりと開け、手を部屋の中に差し出した。
まるで『入れ』と言われてるようで私はその部屋に足を向けた。
中に入るとそこに・・・グランドピアノがあったのだ。
「すごい・・・。」
私が驚いたのはグランドピアノ本体ではなかった。
驚いたのは・・・ピアノの黒鍵部分だ。
見えた鍵盤の黒鍵部分がカラフルに塗り替えられていて、赤にピンク、ブルーに紫、黄色にグレー、それに金と、様々な色になってる。
そんな珍しい配色をしたグランドピアノを初めて見た私は、思わず笑みを溢した。
「かわいくて・・・面白い。」
私は伊織さんの許可も得ず、ピアノ前にあった椅子に座った。
そして私が弾ける曲の中で、このピアノに一番似合いそうな曲を選び、鍵盤に手を置いた。
♪~・・・!
体調が悪そうに見えたのは間違いがなさそうだ。
「どうして私が必要なんですか?」
体調が悪いながら行くべきところは病院だ。
一木さんの患者なら尚更病院にいくべきだと、私は思った。
単なる中学生の私ができることなんて何もないんだから・・・。
「あの日・・お前が弾いてた音に、俺は惹かれた。今まで一木先生のところに通って仕事の息抜きをしてたけど・・・お前の音がいい。」
そう言われ、私はあの時のことを思い出していた。
おもちゃのピアノの音が聞きたくて、鍵盤を叩いたことを。
(私もあの音にすごく感激したけど・・・この人は私とは違うよねぇ・・・。)
あの時の私は、施設から出たばかりで右も左もわからないことだらけだった。
憧れていたピアノの生の音を初めて聞いて、身体が震えるくらい感動したことは今も鮮明に覚えてる。
でもこの人は・・・一木さんの患者さんだ。
『心療内科』の医師である一木さんは、患者さんの心の『重さ』を少し取る仕事をしてると教えてくれたことがあった。
一人で解決できない心の痛みを、一木さんが少し負担することで患者さんの痛みが減るのだ。
(調子悪そうだけど・・・私のピアノを聴けば元気になるの?)
決していいとは言えない顔色に、よろめく身体。
ピアノとは違う方法で治したほうがいいと思うものの、話をしてるうちに放っておけなくなってしまっていた。
「じゃ・・じゃあ、そこのピアノで・・いいですか?」
そう言ってさっきのピアノの方を指差した。
私が歩いて来た道だ。
「!!・・・助かる。」
私は踵を返して歩き出した。
私のすぐ後ろを『伊織』さんがふらつきながらついてくる。
(うーん・・・。)
体格のいい身体に、すこし長めの黒い髪の毛。
年は・・・私よりは遥かに上に見えた。
『仕事の息抜き』と言ってたことからお仕事をされてる年齢なのは読み取れていた。
伊織さんの回りにいる人たちも同じようなスーツを着ていて、どうもお仕事の途中のように見えた。
(お仕事って、お兄ちゃんやお父さんのしか知らないからわからないけど・・・この人は何の仕事をしてるんだろう。)
そんなことを考えながら、私はさっきのピアノのところに戻って来た。
まだ列に並んでる人数は減ってなく、どう見てもあと数時間は待ちそうだ。
(うーん・・・今日、私は予定無いけど何時間もここにいるのはちょっと・・・。)
そう思いながら伊織さんを見た時だった。
彼は私の腕をぐぃっと引っ張ったのだ。
「ふぇっ・・!?」
「悪い、仕事の都合があって長くは待てないんだ。ちゃんと家に送るから・・・来てくれ。」
そう言って伊織さんは私の腕を掴んで歩き出してしまった。
「へっ・・!?あのっ・・・」
どうしたいいのかわからずにいると、どこからともなく真っ黒の車が現れた。
伊織さんの回りにいた人達がその車のドアを開け、伊織さんは私をその車の中に押し入れた。
「10分くらいで着く。」
そう言って伊織さんも車に乗り込んできた。
ドアを閉めると同時に車が走り出し、私は行き先も告げられないままどこかに向かうことになってしまった。
ーーーーー
「着いたぞ。」
車が走り出して10分ほど経った時、車は大きな門をくぐった。
ゆっくり開いた門は木でできていて、その分厚さに壁かと思うほどだ。
門をくぐった車はそのままゆっくりと走り、一軒の大きな家の前で止まった。
そして伊織さんはドアを開けて車から下り、私に向かって手を差し出して来た。
「下りれるか?」
「は・・はい・・・。」
その手を取り、車から下りたとき、耳をつんざくような声が私を襲った。
「お帰りなさいませ!!若!!」
「ひゃあっ・・!?」
あまりの声の大きさに思わず耳を塞ぐ。
すると、そんな私に気がついたのか、伊織さんが私を覗き込んできた。
「どうした?大丈夫か?」
「あ・・ちょっと大きい声が苦手で・・・」
施設で身についてしまったのか、小さい音を拾うのが得意だった私は、施設を出てから大きい音が苦手になってしまっていた。
街中ではたくさんの音が溢れてるからそんなに驚きはしないけど、今みたいな急に現れる大きな音は苦手なのだ。
「悪い。」
伊織さんはそう言うと、大きな声を出した人を睨みつけていた。
睨まれた人は委縮したように身を小さく縮めてる。
「こっちだ。」
そう言って伊織さんは歩き始めた。
家の中に入り、土足のまま進んで行く。
その姿を見て、私も靴を脱がずについていった。
家の中は広々とした玄関があり、長くて幅の広い廊下が左右と真正面に伸びてる。
その左側の廊下を歩きながら、私は目に入る中庭をずっと見ていた。
『庭』のハズなのに、屋根付きの休憩所みたいなところがあり、大きな池のようなものも見える。
遠くを見ようとしても壁のようなものは見えず、庭じゃなくて大きい公園じゃないかと錯覚してしまいそうだ。
「亜子、これ弾けるか?」
その言葉に視線を前に向けると、伊織さんが一つの扉に手をかけて私を見ていた。
伊織さんは扉をゆっくりと開け、手を部屋の中に差し出した。
まるで『入れ』と言われてるようで私はその部屋に足を向けた。
中に入るとそこに・・・グランドピアノがあったのだ。
「すごい・・・。」
私が驚いたのはグランドピアノ本体ではなかった。
驚いたのは・・・ピアノの黒鍵部分だ。
見えた鍵盤の黒鍵部分がカラフルに塗り替えられていて、赤にピンク、ブルーに紫、黄色にグレー、それに金と、様々な色になってる。
そんな珍しい配色をしたグランドピアノを初めて見た私は、思わず笑みを溢した。
「かわいくて・・・面白い。」
私は伊織さんの許可も得ず、ピアノ前にあった椅子に座った。
そして私が弾ける曲の中で、このピアノに一番似合いそうな曲を選び、鍵盤に手を置いた。
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