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必然な出会いたち
友達。
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「・・・いいな。」
私がピアノを弾いてる間、伊織さんは目を閉じて壁にもたれていた。
時折一言二言、つぶやくようにして言葉を漏らすことはあったけど、ただずっと目を閉じていた。
私は20分ほどピアノを弾き続け、鍵盤から手を離した。
伊織さんを見ると、目を閉じたまま、微かに笑みを溢してる。
「あの・・まだ弾きますか?」
あまりレパートリーがない私は、これ以上暗譜で弾けるものが無かった。
音源があれば弾くことはできるけど、今日、私は音源を持ってない。
だからもっと弾くには伊織さんに聞くしかないのだ。
「や、いい。ありがとな。」
そう言ってくれた伊織さんの表情は、さっきより明るくなっていた。
顔色も良くなってるように見える。
(ほんとにピアノの音で体調がよくなったの?)
疑いながら見てると、伊織さんが私に言った。
「また弾きに来てくれるか?」
「・・・。」
その言葉に私は悩んだ。
ピアノを弾かせてもらえるのは嬉しいけど、この人は知らない人だ。
いや、一木さんの知り合いだから、知り合いの知り合いにあたるから・・・知ってる人と言えなくもない。
でも言うほど話したこともない人の家に来るのは・・・どうなのかと思ったのだ。
「うーん・・・お父さんに聞いてみます。」
「お父さん?」
「友達の家に行くのはいいんですけど、友達でもない人の家に行くのは・・・許可がいると思うので。」
そう言うと伊織さんは驚いた顔をしていた。
「許可?そんなに家が厳しいのか?」
「いえ、厳しくはない・・と思うんですけど・・・まだ半年くらいしか一緒に住んでないのでわからないことも多いんです。」
伊織さんは私の言葉が理解できないのか、手で自分の頭を押さえ始めた。
「待て待て待て。『家族』だろ?なんで半年?」
「あー・・・ちょっと事情があるんです。」
「・・・。」
「・・・。」
友達にでさえ話してないことを、この人に話す意味はない。
そう思って私は全てを話さなかった。
そんな私の意志を汲み取ってくれたのか、伊織さんは手を広げて左右に振った。
「いい、言えないなら言わなくていい。」
「ありがとうございます。」
このまま家に帰ろうと、私はピアノの椅子から立ち上がった。
その時、伊織さんがとんでもないことを私に言ったのだ。
「なら俺と友達になろうか。」
「・・・へっ?」
突然何を言い出すのだろうと、私は口をぽかんと開けて伊織さんを見た。
いたずらっぽく笑いながら、私に手を差し出してる。
「友達なら来てくれるんだろ?」
「そう・・ですけど・・・年が離れてません?」
「そうか?亜子はいくつだ?」
「14・・ですけど・・。」
「俺は24。10くらい離れてるうちに入らないな。」
「それを決めるのは私では・・・」
よくわからない問答を繰り返してるとき、伊織さんはピアノを指差した。
「そのピアノ、珍しいデザインだろ?また弾きたくないか?」
「!!」
確かに初めて見たカラフルな黒鍵のピアノ。
弾きながら気がついたけど、このピアノは私が好きなベーゼンドルファーだったのだ。
そんなの・・・弾きたいに決まってる。
「・・・ずるい。」
「ははっ。・・・ほら。」
そう言って伊織さんは出してた手を更に私に近づけて来た。
「・・・。」
仕方なく私は手を差し出し、伊織さんの手を取った。
思ってた以上に大きい手に、私の手がきゅっと掴まれる。
(握手って・・・ちゃんとしたの初めてかも・・。)
温かくて大きな手は所々に傷が見えた。
それは最近のものじゃなくて、古そうなものだ。
(私と一緒・・・。)
背中や足、二の腕に数えきれないくらいの傷が、私の身体に残ってる。
恭介お兄ちゃんの話では、この傷は薄くはなっていくだろうけど完全に消えることは難しいと言っていた。
伊織さんも昔、何かの理由でこの傷を作ってしまったのかもしれない。
そう思ったら少し親近感が湧いたのだ。
「よろしく・・お願いします、伊織さん。」
「あぁ、こちらこそ。」
その後、私は伊織さんの部下の人にさっきの場所まで送ってもらっていた。
伊織さんはお仕事らしくて別の車に乗って行ってしまったのだ。
(そういえば・・誰も私の眼のこと言わなかった・・・。)
何人かいた伊織さんの部下の人。
その全員が私を見たけど何も言わなかったのだ。
大人といえど、私の赤い眼を見た人はひそひそと何かを話すことが多い。
それはいい意味のこともあれば悪い意味のひそひそもある。
大抵は悪いほうだ。
(ちょっと・・聞いてみてもいいかな。)
私は車を運転してる伊織さんの部下の人に声をかけた。
「あの、すみません。」
「どうしましたか?」
「私の眼・・結構気持ち悪いって言われるんですけど・・気になりますか?」
どう聞くのがいいのかわからなかった私はストレートに聞いてしまった。
「変なこと聞いてすみません・・。」
俯き加減で車の椅子に座り直したとき、部下の人は車のミラー越しに話しかけてくれた。
「・・・珍しい眼の色だとは思いますけど・・・他には何も思いませんよ?」
私がピアノを弾いてる間、伊織さんは目を閉じて壁にもたれていた。
時折一言二言、つぶやくようにして言葉を漏らすことはあったけど、ただずっと目を閉じていた。
私は20分ほどピアノを弾き続け、鍵盤から手を離した。
伊織さんを見ると、目を閉じたまま、微かに笑みを溢してる。
「あの・・まだ弾きますか?」
あまりレパートリーがない私は、これ以上暗譜で弾けるものが無かった。
音源があれば弾くことはできるけど、今日、私は音源を持ってない。
だからもっと弾くには伊織さんに聞くしかないのだ。
「や、いい。ありがとな。」
そう言ってくれた伊織さんの表情は、さっきより明るくなっていた。
顔色も良くなってるように見える。
(ほんとにピアノの音で体調がよくなったの?)
疑いながら見てると、伊織さんが私に言った。
「また弾きに来てくれるか?」
「・・・。」
その言葉に私は悩んだ。
ピアノを弾かせてもらえるのは嬉しいけど、この人は知らない人だ。
いや、一木さんの知り合いだから、知り合いの知り合いにあたるから・・・知ってる人と言えなくもない。
でも言うほど話したこともない人の家に来るのは・・・どうなのかと思ったのだ。
「うーん・・・お父さんに聞いてみます。」
「お父さん?」
「友達の家に行くのはいいんですけど、友達でもない人の家に行くのは・・・許可がいると思うので。」
そう言うと伊織さんは驚いた顔をしていた。
「許可?そんなに家が厳しいのか?」
「いえ、厳しくはない・・と思うんですけど・・・まだ半年くらいしか一緒に住んでないのでわからないことも多いんです。」
伊織さんは私の言葉が理解できないのか、手で自分の頭を押さえ始めた。
「待て待て待て。『家族』だろ?なんで半年?」
「あー・・・ちょっと事情があるんです。」
「・・・。」
「・・・。」
友達にでさえ話してないことを、この人に話す意味はない。
そう思って私は全てを話さなかった。
そんな私の意志を汲み取ってくれたのか、伊織さんは手を広げて左右に振った。
「いい、言えないなら言わなくていい。」
「ありがとうございます。」
このまま家に帰ろうと、私はピアノの椅子から立ち上がった。
その時、伊織さんがとんでもないことを私に言ったのだ。
「なら俺と友達になろうか。」
「・・・へっ?」
突然何を言い出すのだろうと、私は口をぽかんと開けて伊織さんを見た。
いたずらっぽく笑いながら、私に手を差し出してる。
「友達なら来てくれるんだろ?」
「そう・・ですけど・・・年が離れてません?」
「そうか?亜子はいくつだ?」
「14・・ですけど・・。」
「俺は24。10くらい離れてるうちに入らないな。」
「それを決めるのは私では・・・」
よくわからない問答を繰り返してるとき、伊織さんはピアノを指差した。
「そのピアノ、珍しいデザインだろ?また弾きたくないか?」
「!!」
確かに初めて見たカラフルな黒鍵のピアノ。
弾きながら気がついたけど、このピアノは私が好きなベーゼンドルファーだったのだ。
そんなの・・・弾きたいに決まってる。
「・・・ずるい。」
「ははっ。・・・ほら。」
そう言って伊織さんは出してた手を更に私に近づけて来た。
「・・・。」
仕方なく私は手を差し出し、伊織さんの手を取った。
思ってた以上に大きい手に、私の手がきゅっと掴まれる。
(握手って・・・ちゃんとしたの初めてかも・・。)
温かくて大きな手は所々に傷が見えた。
それは最近のものじゃなくて、古そうなものだ。
(私と一緒・・・。)
背中や足、二の腕に数えきれないくらいの傷が、私の身体に残ってる。
恭介お兄ちゃんの話では、この傷は薄くはなっていくだろうけど完全に消えることは難しいと言っていた。
伊織さんも昔、何かの理由でこの傷を作ってしまったのかもしれない。
そう思ったら少し親近感が湧いたのだ。
「よろしく・・お願いします、伊織さん。」
「あぁ、こちらこそ。」
その後、私は伊織さんの部下の人にさっきの場所まで送ってもらっていた。
伊織さんはお仕事らしくて別の車に乗って行ってしまったのだ。
(そういえば・・誰も私の眼のこと言わなかった・・・。)
何人かいた伊織さんの部下の人。
その全員が私を見たけど何も言わなかったのだ。
大人といえど、私の赤い眼を見た人はひそひそと何かを話すことが多い。
それはいい意味のこともあれば悪い意味のひそひそもある。
大抵は悪いほうだ。
(ちょっと・・聞いてみてもいいかな。)
私は車を運転してる伊織さんの部下の人に声をかけた。
「あの、すみません。」
「どうしましたか?」
「私の眼・・結構気持ち悪いって言われるんですけど・・気になりますか?」
どう聞くのがいいのかわからなかった私はストレートに聞いてしまった。
「変なこと聞いてすみません・・。」
俯き加減で車の椅子に座り直したとき、部下の人は車のミラー越しに話しかけてくれた。
「・・・珍しい眼の色だとは思いますけど・・・他には何も思いませんよ?」
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