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少しアクセントに不安がありそうなオランダ語で店員さんに聞いた男の人。
スーツをおしゃれに着崩していて、地元の人ではないことがすぐに分かった。
一体どこから来たのかと考えてると、店員さんはその置かれたユーロコインを受け取り、会計をしてしまったのだ。
〖ラテ、お待たせいたしました。ありがとうございます。〗
そう言って私にラテを差し出してきた店員さん。
でもお金を払ってない私が受け取ることなんでできるはずがない。
〖えっ・・・!?ちょ・・あのっ・・お金・・・!〗
差し出されたラテを受け取ることもできず、お金を返すこともできない私はどうしたらいいのか困りながら男の人を見た。
するとその男の人は穏やかな笑みを浮かべて私に言ったのだ。
〖英語は話せる?〗
〖え?〗
流暢な英語でそう聞かれ、私はオランダ語から英語に切り替えて話し始めた。
〖話せるけど・・・〗
〖なら英語で構わない?オランダ語はまだ不安があって・・・〗
アクセントが少しおかしいくらいであまり変には思わなかったけど、英語の方がいいというのならこちらが合わせるまでのこと。
私にとっては英語とオランダ語のどちらで会話しても別に気にならないことだった。
(・・・というか、日本語のほうがいいんじゃ・・・?)
そう思う私だったけど、『見た目の一部』が日本人には見えないだろうことから黙ってることにした。
〖さっき、迷子の女の子にお菓子を買ってあげたから手持ちが無いんだろう?〗
〖!!・・・どうしてそれを?〗
〖運河沿いを歩いてるときに見えたんだよ。で、俺もコーヒーを買いに行こうとしたらキミが先に店に入ったってわけ。〗
〖なるほど・・・。でもお金を払っていただく義理はないんだけど・・・?〗
〖それは俺が払いたかったから。迷子の女の子と一緒にいただろう?お礼だと思って受け取って?〗
〖・・・。〗
子育てに皆が寛容なこの国では、さっきのようなことは当たり前の光景だ。
でも日本人らしきこの男人にとってはそうじゃなく映ったのかもしれない。
〖・・・あなた、観光客?〗
不躾な質問ではあるものの、ここでは日本みたいに上下関係や年齢なんかを気にして話さなくてもいい。
『敬語』や『丁寧語』なんかも曖昧な表現になることから、私はそう聞いてみた。
〖一応仕事で来てるけど・・・10日ほどで帰るから観光客みたいなものかな?〗
その答えに、私はさらに問いを投げかける。
〖明日はまだいる?〗
〖いるけど・・・〗
〖なら明日のこの時間、この店に来て?今度は私がコーヒーを奢るから。〗
私がそう言うと、男の人はびっくりしたような顔を見せた。
でもそんな顔は一瞬で、すぐに声を出して笑い出したのだ。
〖ははっ・・・!いいよ?わかった。明日のこの時間だね?〗
〖?・・笑うことなの?まぁ、いいけど。忘れないでね?〗
〖了解。〗
そう言って軽く手を振りながら踵を返した男の人に、私は少し大きめの声でお礼を言った。
〖あ・・!ラテ、ありがとう!おいしくいただくわ!〗
〖どういたしまして。〗
男の人の背中が小さくなるまで見送り、私はラテに口をつけた。
そして私も踵を返し、運河を航行していた小さなボートに向かって手を振る。
〖おじさーん!少しの間、乗せてくれないーっ?〗
〖おや、ユリアじゃないか。家の近くまで乗せて行ってやるよ。〗
〖へへっ、ラッキー!〗
祖父母の知り合いのおじさんのボートに乗せてもらい、私は帰路についたのだった。
ーーーーー
その翌日、私は自分のお財布を持ってあのカフェに足を運んだ。
今日は懐がだいぶ温かい。
(何だったらご飯でも奢れるくらい持ってるし!)
昨日のお返しをしようと意気込みながらカフェの前で待ってると、昨日と同じ時間にあの男の人が姿を現したのだ。
昨日のスーツ姿とは打って変わって、今日はオーバーサイズ長袖のシャツにチノパン姿だ。
〖待った?〗
〖----っ。〗
まるで『デート』かと思わせるような言葉に、一瞬言葉を詰まらせた私だったけど軽く咳ばらいをしてカフェに手を向けた。
〖えー・・好きなの注文してね?〗
〖ははっ、ありがとう。〗
私とこの男の人は一緒にお店の中に入り、持ち帰りでコーヒーを注文した。
私は昨日と同じ『ラテ』で、男の人は『ブラックコーヒー』だ。
〖あ、そういえば名前を聞いてもいい?〗
コーヒーの支払いを済ませてお店の外に出た時、男の人がそう聞いてきたのだ。
〖あ、『ユリア』よ。『ユリア・マイヤー』。〗
〖ユリアか。かわいい名前だね。〗
〖ふふ、ありがとう。・・・あなたの名前は?〗
きっと日本人だと思いながらそう聞くと、この男の人は少し変わった名前を言ったのだ。
〖俺は・・・『さく』。〗
〖サク?変わった名前ね?日本人じゃないの?〗
黒い髪の毛にアジア人の顔つきをしてる彼は、話し方も優しくて落ち着いた雰囲気があった。
そこから中国系ではないと推測したのだ。
〖日本人だよ?ユリアも日系っぽいけど・・・この村に住んでるの?〗
そう聞かれ、私は手を振った。
〖住んでないわよ?実家はアムステルダム。ここには10歳まで住んでたの。〗
〖車で二時間くらいか。〗
〖そうそう。仕事のショートバケーションを利用して遊びに来てるの。友達の家に泊らせてもらったり、親戚の家に泊らせてもらってる。〗
そう言って私は近くにある茅葺き屋根の家を指さした。
〖あそこはフィンの家で、その向こうがオリビアの家。逆にあっちにはエマの家があって、ボートでよく遊びに行ってたのよ?〗
〖へぇー・・・この村の住人はボートで移動するんだろう?それか自転車?〗
〖あとは徒歩くらいね、車は禁止だから。〗
景観を守るために禁止されているけど、特に不便だと思ったことは無かった。
『無い生活』が染みついてるのだ。
〖いいところだよな、景色もいいし、村の人たちもいい人ばっかりだし。〗
そう言ってサクはコーヒーを口に含みながら歩き始めた。
その隣を一緒に歩きながら、私もラテを口に含む。
〖昨日も思ったけど・・・ユリアは背が高いんだな。俺とあんまり差がないんじゃない?〗
少しだけ視線を上げれば見えるサクの顔。
日本人女性は小柄な人も多いけど、私は父親がオランダ人だからか背だけは大きくなったのだ。
〖そう?〗
〖身長いくつ?〗
〖174。サクは?〗
〖俺は188。まるでモデルみたいだな。〗
『モデル』という言葉を聞き、私は口元に手をあてて思わず笑ってしまった。
〖あははっ。〗
〖?・・どした?〗
『何故笑ってるのかわからない』というような顔で私を見るサクに、私は腰に手をあててポーズを取るようにして見せた。
〖その通りよ?私、アムステルダムでモデルしてるの。〗
そう言うとサクは驚いた顔を見せたのだ。
〖え!?本当に!?〗
〖本当よ?本業は別にあるけど、仕事が来た時だけ受けてるから・・真面目ではないけどね?〗
モデルの仕事はオランダに来てるときだけ受けてる仕事だ。
大それたものではなく、雑誌に小さく載る程度のもの。
(基本的には日本で生活してるし、モデルの仕事はボランティアみたいなものだし。)
こっちでの友達がカメラマンの仕事をしてることから引き受けてることだった。
副業と呼べるほどの収入もないし、副業がOKな企業に勤めてるからバレても平気なのだ。
もちろん、バレることなんてないと思ってるんだけど。
〖じゃあ・・そんなモデルのユリアにこの町の案内をお願いしても?〗
サクにそう聞かれ、私はまた口元に手をあてて笑ってしまった。
〖ふふっ・・・。私の案内でよければ?〗
〖!!・・『ユリア』がいいんだよ、よろしく。〗
こうして私とサクは村の中を歩き始めた。
観光客用のボートに乗ったり、パパっと食べれる軽食を買って食べたりしながらお互いのことを話していく。
〖サクは仕事、何してるの?日本でしてるの?〗
〖そうだよ?ネット関係の仕事。〗
〖へぇー!〗
〖ユリアの本業は?〗
〖私は受付をしてるの。企業の受付業務。〗
〖アムステルダムで?〗
〖ううん?違うとこ。一人暮らししてるんだけど、実家がアムステルダムなの。〗
〖へぇー。〗
〖サクは日本のどこの地域にいるの?東京?大阪?〗
〖東京。知ってる?〗
〖知ってるよ?お金を貯めていろんな国に旅行に行くのが好きだし。〗
〖どこの国?〗
そんな話をしながら水鳥の生息場や教会、見晴らしがいいところなんかを案内し、私たちは楽しんだ。
日本語で話せたらもっと違うのかもしれないけど、二度と会うこともないだろうからこれでいいと思ったのだ。
この短い期間だけの友達も・・・悪くない。
〖あ、そろそろ帰らないと。〗
気がつけば辺りは暗くなってきていた。
人の姿もまばらになっていて、みんな家に帰り始めてるのが見える。
〖ユリアはいつまでこの村にいる?〗
〖え?あー・・明日の朝のバスでアムステルダムに帰るの。もう少しでショートバケーションも終わるしね。〗
お盆休みが終わるのに合わせて日本に帰国しないといけない私は一度、アムステルダムに帰ってから日本に帰ることにしていた。
会社の人へのお土産なんかが実家にあるのだ。
〖そっか・・・。帰ってから少しゆっくりするの?〗
〖うん。仕事が始まる前に行きたいところがあるからそこに行こうかなって。〗
〖それ、どこ?〗
サクの問いに、私は指をぴんっと立てた。
〖ゴッホ美術館よ。サクは行ったことある?〗
ゴッホ美術館には門外不出の『ひまわり』が展示されている。
ゴッホと同時代に活躍したモネやゴーギャンの絵も展示されていて、見どころがたくさんあるのだ。
〖ゴッホ美術館は行ったことないな。〗
〖そうなの?いいところだからアムステルダムに来たときは是非行ってみて?〗
観光で来てるのなら是非行ってもらいたい場所のひとつだ。
ゴッホの絵をモチーフにしたマグネットなんかのお土産も売っていて、集めるのも楽しい。
〖・・・ユリアは明日、ゴッホ美術館に行くの?〗
〖え?・・・あぁ、そうね。お昼くらいにアムステルダムに着くから、少ししてから行こうかな?〗
いつも行く場所だから見る時間はさほどかからない。
ゆっくり見たかったらまた今度見ればいいだけのこと。
そう思った私だけど、サクはとんでもないことを私に言ったのだ。
〖・・・俺が昼過ぎにアムステルダムに行ったら・・・ユリアはゴッホ美術館を案内してくれる?〗
〖へ・・・?〗
〖だから、明日アムステルダムに行ったらユリアは俺と会ってくれるかってこと。〗
サクはオランダがよっぽど気に入ったのか、案内を求めてきたのだ。
〖それは別に構わないけど・・・〗
〖本当に!?〗
〖う・・うん・・。あ、でも閉館時間が午後6時だからそれまでに行きたいけど・・・サクは仕事大丈夫?〗
オランダには仕事で来てると言っていたサク。
観光客みたいなものとも言っていたけど、滞在日数が決まっているのなら仕事を優先すべきだ。
〖大丈夫!〗
〖そう?ならお昼・・・15時あたりに美術館の前でもいい?〗
〖もちろん!・・お礼に晩御飯、どうかな?〗
〖いいの?なら是非。〗
サクとは気が合うのか、いつまでも話が尽きなさそうな感じがしていた。
それは同じ日本人だからなのかもしれない。
〖じゃあまた明日ね?〗
そう言って手を振ると、サクは私の手を取り、甲に唇を落としたのだ。
〖ふぁっ・・!?〗
〖今日はありがとう。おやすみ。〗
にこっと笑ったサクは、歩いて行ってしまった。
きっとこの村の入り口付近にあるホテルに向かったのだろう。
(日本人の男の人ってあまり積極的なイメージなかったんだけど・・・・?)
キスをされた手の甲が熱を帯びてるような気がしながら、私も帰路についたのだった。
スーツをおしゃれに着崩していて、地元の人ではないことがすぐに分かった。
一体どこから来たのかと考えてると、店員さんはその置かれたユーロコインを受け取り、会計をしてしまったのだ。
〖ラテ、お待たせいたしました。ありがとうございます。〗
そう言って私にラテを差し出してきた店員さん。
でもお金を払ってない私が受け取ることなんでできるはずがない。
〖えっ・・・!?ちょ・・あのっ・・お金・・・!〗
差し出されたラテを受け取ることもできず、お金を返すこともできない私はどうしたらいいのか困りながら男の人を見た。
するとその男の人は穏やかな笑みを浮かべて私に言ったのだ。
〖英語は話せる?〗
〖え?〗
流暢な英語でそう聞かれ、私はオランダ語から英語に切り替えて話し始めた。
〖話せるけど・・・〗
〖なら英語で構わない?オランダ語はまだ不安があって・・・〗
アクセントが少しおかしいくらいであまり変には思わなかったけど、英語の方がいいというのならこちらが合わせるまでのこと。
私にとっては英語とオランダ語のどちらで会話しても別に気にならないことだった。
(・・・というか、日本語のほうがいいんじゃ・・・?)
そう思う私だったけど、『見た目の一部』が日本人には見えないだろうことから黙ってることにした。
〖さっき、迷子の女の子にお菓子を買ってあげたから手持ちが無いんだろう?〗
〖!!・・・どうしてそれを?〗
〖運河沿いを歩いてるときに見えたんだよ。で、俺もコーヒーを買いに行こうとしたらキミが先に店に入ったってわけ。〗
〖なるほど・・・。でもお金を払っていただく義理はないんだけど・・・?〗
〖それは俺が払いたかったから。迷子の女の子と一緒にいただろう?お礼だと思って受け取って?〗
〖・・・。〗
子育てに皆が寛容なこの国では、さっきのようなことは当たり前の光景だ。
でも日本人らしきこの男人にとってはそうじゃなく映ったのかもしれない。
〖・・・あなた、観光客?〗
不躾な質問ではあるものの、ここでは日本みたいに上下関係や年齢なんかを気にして話さなくてもいい。
『敬語』や『丁寧語』なんかも曖昧な表現になることから、私はそう聞いてみた。
〖一応仕事で来てるけど・・・10日ほどで帰るから観光客みたいなものかな?〗
その答えに、私はさらに問いを投げかける。
〖明日はまだいる?〗
〖いるけど・・・〗
〖なら明日のこの時間、この店に来て?今度は私がコーヒーを奢るから。〗
私がそう言うと、男の人はびっくりしたような顔を見せた。
でもそんな顔は一瞬で、すぐに声を出して笑い出したのだ。
〖ははっ・・・!いいよ?わかった。明日のこの時間だね?〗
〖?・・笑うことなの?まぁ、いいけど。忘れないでね?〗
〖了解。〗
そう言って軽く手を振りながら踵を返した男の人に、私は少し大きめの声でお礼を言った。
〖あ・・!ラテ、ありがとう!おいしくいただくわ!〗
〖どういたしまして。〗
男の人の背中が小さくなるまで見送り、私はラテに口をつけた。
そして私も踵を返し、運河を航行していた小さなボートに向かって手を振る。
〖おじさーん!少しの間、乗せてくれないーっ?〗
〖おや、ユリアじゃないか。家の近くまで乗せて行ってやるよ。〗
〖へへっ、ラッキー!〗
祖父母の知り合いのおじさんのボートに乗せてもらい、私は帰路についたのだった。
ーーーーー
その翌日、私は自分のお財布を持ってあのカフェに足を運んだ。
今日は懐がだいぶ温かい。
(何だったらご飯でも奢れるくらい持ってるし!)
昨日のお返しをしようと意気込みながらカフェの前で待ってると、昨日と同じ時間にあの男の人が姿を現したのだ。
昨日のスーツ姿とは打って変わって、今日はオーバーサイズ長袖のシャツにチノパン姿だ。
〖待った?〗
〖----っ。〗
まるで『デート』かと思わせるような言葉に、一瞬言葉を詰まらせた私だったけど軽く咳ばらいをしてカフェに手を向けた。
〖えー・・好きなの注文してね?〗
〖ははっ、ありがとう。〗
私とこの男の人は一緒にお店の中に入り、持ち帰りでコーヒーを注文した。
私は昨日と同じ『ラテ』で、男の人は『ブラックコーヒー』だ。
〖あ、そういえば名前を聞いてもいい?〗
コーヒーの支払いを済ませてお店の外に出た時、男の人がそう聞いてきたのだ。
〖あ、『ユリア』よ。『ユリア・マイヤー』。〗
〖ユリアか。かわいい名前だね。〗
〖ふふ、ありがとう。・・・あなたの名前は?〗
きっと日本人だと思いながらそう聞くと、この男の人は少し変わった名前を言ったのだ。
〖俺は・・・『さく』。〗
〖サク?変わった名前ね?日本人じゃないの?〗
黒い髪の毛にアジア人の顔つきをしてる彼は、話し方も優しくて落ち着いた雰囲気があった。
そこから中国系ではないと推測したのだ。
〖日本人だよ?ユリアも日系っぽいけど・・・この村に住んでるの?〗
そう聞かれ、私は手を振った。
〖住んでないわよ?実家はアムステルダム。ここには10歳まで住んでたの。〗
〖車で二時間くらいか。〗
〖そうそう。仕事のショートバケーションを利用して遊びに来てるの。友達の家に泊らせてもらったり、親戚の家に泊らせてもらってる。〗
そう言って私は近くにある茅葺き屋根の家を指さした。
〖あそこはフィンの家で、その向こうがオリビアの家。逆にあっちにはエマの家があって、ボートでよく遊びに行ってたのよ?〗
〖へぇー・・・この村の住人はボートで移動するんだろう?それか自転車?〗
〖あとは徒歩くらいね、車は禁止だから。〗
景観を守るために禁止されているけど、特に不便だと思ったことは無かった。
『無い生活』が染みついてるのだ。
〖いいところだよな、景色もいいし、村の人たちもいい人ばっかりだし。〗
そう言ってサクはコーヒーを口に含みながら歩き始めた。
その隣を一緒に歩きながら、私もラテを口に含む。
〖昨日も思ったけど・・・ユリアは背が高いんだな。俺とあんまり差がないんじゃない?〗
少しだけ視線を上げれば見えるサクの顔。
日本人女性は小柄な人も多いけど、私は父親がオランダ人だからか背だけは大きくなったのだ。
〖そう?〗
〖身長いくつ?〗
〖174。サクは?〗
〖俺は188。まるでモデルみたいだな。〗
『モデル』という言葉を聞き、私は口元に手をあてて思わず笑ってしまった。
〖あははっ。〗
〖?・・どした?〗
『何故笑ってるのかわからない』というような顔で私を見るサクに、私は腰に手をあててポーズを取るようにして見せた。
〖その通りよ?私、アムステルダムでモデルしてるの。〗
そう言うとサクは驚いた顔を見せたのだ。
〖え!?本当に!?〗
〖本当よ?本業は別にあるけど、仕事が来た時だけ受けてるから・・真面目ではないけどね?〗
モデルの仕事はオランダに来てるときだけ受けてる仕事だ。
大それたものではなく、雑誌に小さく載る程度のもの。
(基本的には日本で生活してるし、モデルの仕事はボランティアみたいなものだし。)
こっちでの友達がカメラマンの仕事をしてることから引き受けてることだった。
副業と呼べるほどの収入もないし、副業がOKな企業に勤めてるからバレても平気なのだ。
もちろん、バレることなんてないと思ってるんだけど。
〖じゃあ・・そんなモデルのユリアにこの町の案内をお願いしても?〗
サクにそう聞かれ、私はまた口元に手をあてて笑ってしまった。
〖ふふっ・・・。私の案内でよければ?〗
〖!!・・『ユリア』がいいんだよ、よろしく。〗
こうして私とサクは村の中を歩き始めた。
観光客用のボートに乗ったり、パパっと食べれる軽食を買って食べたりしながらお互いのことを話していく。
〖サクは仕事、何してるの?日本でしてるの?〗
〖そうだよ?ネット関係の仕事。〗
〖へぇー!〗
〖ユリアの本業は?〗
〖私は受付をしてるの。企業の受付業務。〗
〖アムステルダムで?〗
〖ううん?違うとこ。一人暮らししてるんだけど、実家がアムステルダムなの。〗
〖へぇー。〗
〖サクは日本のどこの地域にいるの?東京?大阪?〗
〖東京。知ってる?〗
〖知ってるよ?お金を貯めていろんな国に旅行に行くのが好きだし。〗
〖どこの国?〗
そんな話をしながら水鳥の生息場や教会、見晴らしがいいところなんかを案内し、私たちは楽しんだ。
日本語で話せたらもっと違うのかもしれないけど、二度と会うこともないだろうからこれでいいと思ったのだ。
この短い期間だけの友達も・・・悪くない。
〖あ、そろそろ帰らないと。〗
気がつけば辺りは暗くなってきていた。
人の姿もまばらになっていて、みんな家に帰り始めてるのが見える。
〖ユリアはいつまでこの村にいる?〗
〖え?あー・・明日の朝のバスでアムステルダムに帰るの。もう少しでショートバケーションも終わるしね。〗
お盆休みが終わるのに合わせて日本に帰国しないといけない私は一度、アムステルダムに帰ってから日本に帰ることにしていた。
会社の人へのお土産なんかが実家にあるのだ。
〖そっか・・・。帰ってから少しゆっくりするの?〗
〖うん。仕事が始まる前に行きたいところがあるからそこに行こうかなって。〗
〖それ、どこ?〗
サクの問いに、私は指をぴんっと立てた。
〖ゴッホ美術館よ。サクは行ったことある?〗
ゴッホ美術館には門外不出の『ひまわり』が展示されている。
ゴッホと同時代に活躍したモネやゴーギャンの絵も展示されていて、見どころがたくさんあるのだ。
〖ゴッホ美術館は行ったことないな。〗
〖そうなの?いいところだからアムステルダムに来たときは是非行ってみて?〗
観光で来てるのなら是非行ってもらいたい場所のひとつだ。
ゴッホの絵をモチーフにしたマグネットなんかのお土産も売っていて、集めるのも楽しい。
〖・・・ユリアは明日、ゴッホ美術館に行くの?〗
〖え?・・・あぁ、そうね。お昼くらいにアムステルダムに着くから、少ししてから行こうかな?〗
いつも行く場所だから見る時間はさほどかからない。
ゆっくり見たかったらまた今度見ればいいだけのこと。
そう思った私だけど、サクはとんでもないことを私に言ったのだ。
〖・・・俺が昼過ぎにアムステルダムに行ったら・・・ユリアはゴッホ美術館を案内してくれる?〗
〖へ・・・?〗
〖だから、明日アムステルダムに行ったらユリアは俺と会ってくれるかってこと。〗
サクはオランダがよっぽど気に入ったのか、案内を求めてきたのだ。
〖それは別に構わないけど・・・〗
〖本当に!?〗
〖う・・うん・・。あ、でも閉館時間が午後6時だからそれまでに行きたいけど・・・サクは仕事大丈夫?〗
オランダには仕事で来てると言っていたサク。
観光客みたいなものとも言っていたけど、滞在日数が決まっているのなら仕事を優先すべきだ。
〖大丈夫!〗
〖そう?ならお昼・・・15時あたりに美術館の前でもいい?〗
〖もちろん!・・お礼に晩御飯、どうかな?〗
〖いいの?なら是非。〗
サクとは気が合うのか、いつまでも話が尽きなさそうな感じがしていた。
それは同じ日本人だからなのかもしれない。
〖じゃあまた明日ね?〗
そう言って手を振ると、サクは私の手を取り、甲に唇を落としたのだ。
〖ふぁっ・・!?〗
〖今日はありがとう。おやすみ。〗
にこっと笑ったサクは、歩いて行ってしまった。
きっとこの村の入り口付近にあるホテルに向かったのだろう。
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キスをされた手の甲が熱を帯びてるような気がしながら、私も帰路についたのだった。
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