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『花鳥風月』を出た私と都築さんは車に乗り植物園に向かい始めた。
窓の外で流れ行く景色を見ながら、私はふと疑問に思ったことを聞いてみることにした。
お酒のせいか身体がふわふわしてて気持ちがよく、今ならなんでも聞けそうな勢いだ。
「都築さん、聞いてもいいですか?」
そう聞くと都築さんは顔だけ前を見ながら、少し私に近づいてくれた。
「ん?なに?」
「あの・・どうして都築さんは私のことを・・・?」
おこがましい気がしてならないけど、聞いておきたい気もしていたことだ。
「あぁ、言ってなかった?」
「たぶん・・・?」
「そっか。じゃあちょっと長くなるかもしれないけど・・・聞いてくれる?」
そう言って都築さんは私が勤める花屋に初めて来た時からのことを話してくれた。
最初は会社の花を取りに来たこと。
その時の私を見て・・・一目惚れをしたことなどを。
「それからまぁ・・通うようになったんだけど、毎日花を買いに行くわけにいかないでしょ?だから週に一度、会社の花を買うようなふりをして店に通ってたんだよ。」
そう言われ、私は一つ疑問が生まれた。
「え・・会社のお花じゃなかったら・・・お買い上げされた花たちはどうされてたんですか?」
いつも結構大きめなアレンジメントをお買い上げされてる都築さん。
1週間は持つだろうけど、会社のお花じゃなかったら一体どこに置いてるのか疑問に思った。
そんな私の質問に、都築さんは近づけていてくれてた身体を少し遠ざけながら言った。
「・・・会社の俺の机に飾ってる。」
照れるようにして言う都築さまに、私は小さく笑ってしまった。
「・・・ふふっ。」
「あ、今笑ったでしょ。ねぇ。」
「笑ってませんよ。」
すぐに平常を装い、私は前を向いた。
花たちが飾られてることは純粋に嬉しかったけど、ここでまた一つ新たな疑問が生まれる。
「あれ・・?いつもアレンジメントお買い上げされるとき、花の色とかバスケットの色とか指定されません?あれは・・・?」
明るめの色を指定されることが多い都築さんのご希望。
それは会社の用途に合わせてだと思っていたのに違うことになるのだ。
「!!・・・それは・・・・・」
「『それは』?」
明らかに『意図』があってのご希望の色だった。
「・・・ヒミツ。」
「えー・・。」
なんだか嬉しそうに笑う都築さん。
お花を大事にしてくれてるならいいかと思い、別の質問に変えてみる。
「そういえば・・都築さんっておいくつなんですか?」
「うーん・・・秋篠さんより結構上・・・かな。」
「結構上・・・ですか。」
いったいいくつなんだろうと考えてると、都築さんからの質問が来た。
「秋篠さんはさ、年上とか・・好き?」
その質問の真意は『自分のことはどうか』と聞かれてるような気がしてならない。
「えと・・そもそも彼氏がいたことないんでわかんないですけど・・年上の人に囲まれてたんでそのほうが安心するかも・・ですね。」
「それはよかった。他に好きなタイプとかある?」
「好きなタイプ・・・」
そう聞かれ、私はふと考えた。
自分自身、好きなタイプを考えたことがなかったからだ。
「そうですねー・・・うーん・・・」
いろいろ想像できるなかで悩みながら、私は妥協できないところを言葉にした。
「優しい人・・ですかね。」
私が知ってる『男の人』は、華道の世界にいた人たちと、4年前のストーカーくらいだ。
華道の世界にいた人たちは小さいころから仲良くしていただいた記憶しかない。
問題は・・・4年前のストーカーだった。
「優しい人?それだけ?」
「・・・。」
思い出したくないことだけど、忘れようと思えば思うほど忘れられないものだ。
思い出す度にかみ砕いて飲み込まないと、乗り越えることなんてできない。
「4年前のストーカーが怖かったんですよ。だから優しい人がいいですね。あと暴力を振るわない人・・・」
そう言いながら私は右手で自分の左側の二の腕を触った。
実は私には4年前にストーカーから受けた傷があったのだ。
傷は痕となって、私の身体に残ってる。
そしてその傷のせいで私は・・・日常生活に支障が出る時があるのだ。
「・・・そっか。」
そんな話をしてるうちに、車は植物園の駐車場に入った。
慣れた手つきで駐車場に車を止めた都築さんは、運転席から下りて助手席のドアを開けに来てくれたのだ。
「どうぞ?」
「あ・・ありがとうございます・・・。」
私たちは植物園の入り口で入場料を払い、中に入った。
お会計は・・都築さんがすべて持ってくれてる。
「ほんとにお支払いいいんですか?」
歩きながらそう聞くと、都築さんは手を軽く振った。
「いいよ、俺が誘ったんだし。・・・それよりほら、あっちに花咲いてるけどあれは何の花?」
そう言って話をそらすように花を指差した。
「あ、あれはゲラニウムですよ、ピンクと紫と白があってーーーーー」
花の説明をすると、都築さんは喜んで聞いてくれた。
植物園の中を歩いて行くと現れる花たち。
その花全てを指差しながら、都築さんは私に聞いてくる。
「これは?あ、これは知ってる!バラでしょ?これは・・知らないなぁ。」
「それはチョウジソウですよ。冬になると枯れたみたいになっちゃうんですけど、剪定して土の上を保護してあげるんです。」
そんな話をしながら歩き進めていくと、一軒の東屋が現れた。
中に木でできたベンチがあるのが見える。
「ちょっと座る?」
「そうですね。休憩しましょうか。」
私たちはその東屋に入り、ベンチに腰かけた。
時々吹く風に乗って、花の匂いが鼻をかすめる。
「ふふ、いい匂い・・・。」
目を閉じてその匂いを感じてると、都築さんが小さい声で言った。
「俺じゃダメかな?」
窓の外で流れ行く景色を見ながら、私はふと疑問に思ったことを聞いてみることにした。
お酒のせいか身体がふわふわしてて気持ちがよく、今ならなんでも聞けそうな勢いだ。
「都築さん、聞いてもいいですか?」
そう聞くと都築さんは顔だけ前を見ながら、少し私に近づいてくれた。
「ん?なに?」
「あの・・どうして都築さんは私のことを・・・?」
おこがましい気がしてならないけど、聞いておきたい気もしていたことだ。
「あぁ、言ってなかった?」
「たぶん・・・?」
「そっか。じゃあちょっと長くなるかもしれないけど・・・聞いてくれる?」
そう言って都築さんは私が勤める花屋に初めて来た時からのことを話してくれた。
最初は会社の花を取りに来たこと。
その時の私を見て・・・一目惚れをしたことなどを。
「それからまぁ・・通うようになったんだけど、毎日花を買いに行くわけにいかないでしょ?だから週に一度、会社の花を買うようなふりをして店に通ってたんだよ。」
そう言われ、私は一つ疑問が生まれた。
「え・・会社のお花じゃなかったら・・・お買い上げされた花たちはどうされてたんですか?」
いつも結構大きめなアレンジメントをお買い上げされてる都築さん。
1週間は持つだろうけど、会社のお花じゃなかったら一体どこに置いてるのか疑問に思った。
そんな私の質問に、都築さんは近づけていてくれてた身体を少し遠ざけながら言った。
「・・・会社の俺の机に飾ってる。」
照れるようにして言う都築さまに、私は小さく笑ってしまった。
「・・・ふふっ。」
「あ、今笑ったでしょ。ねぇ。」
「笑ってませんよ。」
すぐに平常を装い、私は前を向いた。
花たちが飾られてることは純粋に嬉しかったけど、ここでまた一つ新たな疑問が生まれる。
「あれ・・?いつもアレンジメントお買い上げされるとき、花の色とかバスケットの色とか指定されません?あれは・・・?」
明るめの色を指定されることが多い都築さんのご希望。
それは会社の用途に合わせてだと思っていたのに違うことになるのだ。
「!!・・・それは・・・・・」
「『それは』?」
明らかに『意図』があってのご希望の色だった。
「・・・ヒミツ。」
「えー・・。」
なんだか嬉しそうに笑う都築さん。
お花を大事にしてくれてるならいいかと思い、別の質問に変えてみる。
「そういえば・・都築さんっておいくつなんですか?」
「うーん・・・秋篠さんより結構上・・・かな。」
「結構上・・・ですか。」
いったいいくつなんだろうと考えてると、都築さんからの質問が来た。
「秋篠さんはさ、年上とか・・好き?」
その質問の真意は『自分のことはどうか』と聞かれてるような気がしてならない。
「えと・・そもそも彼氏がいたことないんでわかんないですけど・・年上の人に囲まれてたんでそのほうが安心するかも・・ですね。」
「それはよかった。他に好きなタイプとかある?」
「好きなタイプ・・・」
そう聞かれ、私はふと考えた。
自分自身、好きなタイプを考えたことがなかったからだ。
「そうですねー・・・うーん・・・」
いろいろ想像できるなかで悩みながら、私は妥協できないところを言葉にした。
「優しい人・・ですかね。」
私が知ってる『男の人』は、華道の世界にいた人たちと、4年前のストーカーくらいだ。
華道の世界にいた人たちは小さいころから仲良くしていただいた記憶しかない。
問題は・・・4年前のストーカーだった。
「優しい人?それだけ?」
「・・・。」
思い出したくないことだけど、忘れようと思えば思うほど忘れられないものだ。
思い出す度にかみ砕いて飲み込まないと、乗り越えることなんてできない。
「4年前のストーカーが怖かったんですよ。だから優しい人がいいですね。あと暴力を振るわない人・・・」
そう言いながら私は右手で自分の左側の二の腕を触った。
実は私には4年前にストーカーから受けた傷があったのだ。
傷は痕となって、私の身体に残ってる。
そしてその傷のせいで私は・・・日常生活に支障が出る時があるのだ。
「・・・そっか。」
そんな話をしてるうちに、車は植物園の駐車場に入った。
慣れた手つきで駐車場に車を止めた都築さんは、運転席から下りて助手席のドアを開けに来てくれたのだ。
「どうぞ?」
「あ・・ありがとうございます・・・。」
私たちは植物園の入り口で入場料を払い、中に入った。
お会計は・・都築さんがすべて持ってくれてる。
「ほんとにお支払いいいんですか?」
歩きながらそう聞くと、都築さんは手を軽く振った。
「いいよ、俺が誘ったんだし。・・・それよりほら、あっちに花咲いてるけどあれは何の花?」
そう言って話をそらすように花を指差した。
「あ、あれはゲラニウムですよ、ピンクと紫と白があってーーーーー」
花の説明をすると、都築さんは喜んで聞いてくれた。
植物園の中を歩いて行くと現れる花たち。
その花全てを指差しながら、都築さんは私に聞いてくる。
「これは?あ、これは知ってる!バラでしょ?これは・・知らないなぁ。」
「それはチョウジソウですよ。冬になると枯れたみたいになっちゃうんですけど、剪定して土の上を保護してあげるんです。」
そんな話をしながら歩き進めていくと、一軒の東屋が現れた。
中に木でできたベンチがあるのが見える。
「ちょっと座る?」
「そうですね。休憩しましょうか。」
私たちはその東屋に入り、ベンチに腰かけた。
時々吹く風に乗って、花の匂いが鼻をかすめる。
「ふふ、いい匂い・・・。」
目を閉じてその匂いを感じてると、都築さんが小さい声で言った。
「俺じゃダメかな?」
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