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ぎゅっ。
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ーーーーー
ちとせside
ご飯を食べ終わった私は、陽平さんに促されてお風呂に入っていた。
食器の片づけは陽平さんがしてくれるそうで、『ゆっくり入っておいで』と言われたのだ。
「うちのお風呂より大きい・・・。」
物件の差だろうか、私の家のお風呂よりも一回り以上大きかったお風呂。
洗い場も広く、快適そうだった。
「陽平さん、体大きいもんねぇ・・・お風呂も大きくないと窮屈だよね。」
鍛え上げられた逞しい体は、私をすっぽり覆ってしまえるほど大きい。
エスカレーターに落ちたときも、陽平さんは軽々と私を抱っこしてくれたのだ。
「いやもう、ほんと恥ずかしい・・・。」
背中から落ちたからか、リュックがクッションになってケガはしなかった。
足と腕を少し擦りむいたくらいで済んでよかったけど、見事に背中がハマってしまった私は自力で抜け出せず、レスキューのお世話になってしまったのだ。
「しかもクッションになってくれたのが陽平さんへのクリスマスプレゼントなんて・・・はぁ・・。」
きれいな箱に入れてリボンまでかけもらったのに、箱はリュックの中で歪んでしまっていた。
ピシッとした角はへこみ、いろんなところがでこぼこになってしまってる。
リボンはたわんで外れていたし、プレゼントとして手渡すどころか見せることすらできない状態だ。
「次の休みにモールに行って、ラッピングしなおしてもらわなきゃ・・・。」
そう言って私は風呂場に持ち込んだリュックを見つめた。
陽平さんに見られたくないのもあって風呂場に持ち込んだけど、リュックを持ち込んだ一番の理由は他にある。
それは・・・
「・・・さすがに下着を借りるわけにいかないもんね。」
そう、コンビニで買った下着だった。
間に合わせの下着ならコンビニで手に入るのだ。
「歯ブラシは、最悪無くてもマウスウォッシュの使い切りが入ってるし、メイク落としもある。でも下着だけはないから・・・。」
『泊まる』となれば必要になってくる着替え。
借りることができない下着はリュックにいれてなかったのだ。
「これから泊まったりすることが増えるなら・・・置かせてもらう?いや、恥ずかしすぎる。」
いろいろ考えてるうちに体の芯まで温まった私は、お風呂から出た。
陽平さんが用意してくれてるタオルで全身を拭いて着替えていく。
「・・・おっきぃ。」
陽平さんが用意してくれていたのはスウェットだ。
上下黒いスウェットだけど・・・私にとってものすごく大きいサイズだったのだ。
首のところから肩が見えそうだし、手は全く出る気配がなく、おばけのようだ。
パンツも紐を最大限に引き絞って止めたはいいけど、足が全くでていない。
まるで『年の離れた兄弟からのお下がり状態』だ。
「うーん・・・まぁ、寝るだけだし大丈夫か。」
この格好でどこかに行くわけではない。
私はリュックを持って陽平さんのところに戻っていった。
「お風呂、ありがとう。」
もう片づけが終わってリビングに座っていた陽平さんは、私を見るなり驚いた顔をした。
「?・・・どうしたの?」
「あっ・・いや、そんなにデカかったかと・・・思って・・。」
「あー・・うん、大きかったねぇ。」
袖をぷらぷらさせてみせると、陽平さんは手を口にあてて笑っていた。
ちょっと小馬鹿にされたのかと思ってると、陽平さんはとんでもない言葉を言った。
「かわいすぎて困るな。」
「へっ・・!?」
「かわいいよ、ちとせ。俺のちとせ。」
「~~~~っ。」
赤くなる顔を手で押さえると、陽平さんは立ち上がった。
「俺も風呂入ってくる。歯磨きは一緒ににしよか。・・・で、ベッドでごろごろしよ?」
そう言って陽平さんはお風呂に行ってしまった。
「陽平さんって・・『かわいい』とか『好き』とかをものすごく言ってくれるんだよね・・。」
言われるたびに恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが入り交ざる。
ベッドの上で『好き』って全身で言ってくれるときも結構あるけど、私が応えきれないのだ。
いつも気を失うように眠ってしまって・・・申し訳ない。
「・・・車の中で『だめ』って言って見せなかったの・・・傷ついたよね・・。」
そう呟きながら私はリュックから陽平さんへのプレゼントを取り出した。
「来週渡すけど・・・できればきれいなラッピングのほうがいいんだけど・・・」
陽平さんにつけてしまった傷を治すのは早いほうがいい。
喧嘩してしまったときとかもそうだけど、早いほうが仲直りがしやすいのだ。
日を置けば置くほど修復は困難になっていく。
「今日渡したほうが・・・いや、事情だけ言ってラッピングしなおしてもらうって説明して・・・」
どう説明するかを一人でぶつぶつ言ってるとき、私の目の前に陽平さんが現れた。
「何うなってんの?」
「ひゃあっ・・!?」
驚いた私は視線を上げた。
でも陽平さんの視線は私の目ではなく、手にあるプレゼントを見てる。
「それなに?」
「え!?あっ・・えーっと・・・」
「あ、リュックの中身見て驚いたのそれ?背中から落ちたみたいだから無傷じゃなかったみたいだな・・。」
「う・・あ・・・。」
「どした?」
タオルで髪の毛をガシガシ拭きながら、陽平さんは笑顔を向けてくれていた。
その笑顔が申し訳なくて・・・私はぼろぼろになってるプレゼントの箱を陽平さんに差し出した。
「これ・・・陽平さんに買ったの・・。」
そう言うと陽平さんは髪の毛を拭いていた手をぴたっと止めた。
「え!?」
「今日、来週のクリスマスデートに渡すプレゼントを買いに行ってて・・・リュックに入れてたらこんなことに・・。あ、でもラッピングしなおしてもらってから渡したいから待っててくれる?これを見られたくなくてさっき隠したの。・・・ごめんね。」
そう言ってプレゼントの箱をリュックにしまおうとした時、陽平さんが私の手を掴んだ。
「待って。今・・もらってもいい?」
「へっ・・!?いや、箱がぐちゃぐちゃだし、ちゃんとラッピングしなおしてもらってからのほうが・・・」
プレゼントをもらう側からしたらきれいなほうがいいに決まってる。
だから今度の休みの日にラッピングしなおしてもらおうと思ったのに、陽平さんは首を横に振ったのだ。
「俺はこっちのほうがいい。ちとせを守った証だし、何よりちとせが俺のことを考えて選んでくれたんだろ?ラッピングしなおす必要なんてどこにもないよ。」
「う・・・。」
真剣な優しいまなざしに、私はそっとプレゼントの箱を差し出した。
陽平さんは嬉しそうな顔で歪な形になってしまった箱を受け取ってくれ、私の頭を撫でた。
「ありがとう。開けていい?」
「・・・どうぞ。」
プレゼントの箱の中身は、ぐちゃっとなることはあっても壊れることはない。
だから陽平さんが箱を開ける姿を安心して見ていられた。
歪な箱を開け、中を見た陽平さんは中身を広げながら取り出した。
「!!・・・マフラー!」
「うん、寒くなるし、陽平さん、その色が似合いそうだったから・・・。」
取り出したマフラーを、陽平さんはくるっと首に巻き付けた。
想像よりもはるかに似合ってる姿に、自然と笑みがこぼれる。
「わ・・!よく似合ってる・・!」
「ありがとな、ちとせ。」
「ふふっ。」
陽平さんはマフラーを気に入ってくれたのか、ずっと首に巻いてくれていた。
少し話をしたあと二人で一緒に歯磨きをし、2階の寝室に向かう。
(一緒に暮らすようになったら・・・こんな感じなのかな。)
そんなことを思いながら階段を上がっていく。
憧れがないわけではない『結婚』は『想像』だけはたくさんしたことがあった。
小さい頃は、父と母のような夫婦に憧れ、高校に入った時にはお互いに支え合えるような夫婦像に憧れた。
実際、彼氏ができたときは『結婚』というものが現実味を帯びた瞬間があったけど、『幸せ』と結びつくものかと問われたら疑問符が浮かぶものだったのだ。
(『お前が必要だ』って言われたけど・・・『家政婦として』必要だったんだよね。)
陽平さんみたいに『好き』とか『かわいい』とかの言葉は聞いた記憶がなかった。
その言葉がすべてだとも思わないけど、今考えたら私はいいように使われていただけだったのだ。
元カレの身の回りの世話をし、向こうが欲情したら相手をする。
痛いだけの行為は好きになんてなれるハズもなく、断り続けるとあっさり振られてしまったのだ。
(陽平さんは・・・違うよね・・?)
そんなことを考えてるうちに、私は寝室に足を踏み入れていた。
陽平さんに何度も抱かれたベッドが目に入る。
「ちとせ、ちょっと座ってて?俺、忘れ物したから取ってくる。」
「うん・・・。」
そう言って陽平さんは軽い足音を立てて階段を下りて行った。
(何忘れたんだろ?・・・ゴムとか言わない・・よね?)
泊まりとなると夜は長い。
ドキドキしながら陽平さんを待ってると、また軽い足音を立てて陽平さんが上がってきた。
手に何か・・・細長い箱を持ってるのが見える。
「?」
「俺も来週渡す予定だったんだけど・・・。」
そう言って陽平さんは私の前に膝をついて屈んだ。
両手で細長い箱を持って、私に差し出してきた。
「クリスマスプレゼント。喜んでくれたら・・・嬉しい。」
陽平さんは箱についてたリボンを解き、箱の蓋をゆっくり開けた。
その中に・・・しずく型のネックレスが入っていたのだ。
「え!?」
「俺がつけてもいい?」
陽平さんはネックレスを取り出し、状況が分からない私の首につけてくれた。
冷たいチェーンが首にあたるけど、すぐに体温を吸収して温かくなる。
「え!?え!?・・私に!?」
「そう。指輪とか腕時計は衛生上つけないかなと思って・・・ネックレスならつけれるんじゃない?ダメなときは外せばいいし。」
私はネックレスのトップを手ですくった。
金色のしずく型に、ピンクの宝石が入ってる。
きらきら輝いていてすごくかわいい。
「かわいい・・・。え、もらっていいの!?」
「もちろん。ちとせもこのマフラー、ありがとな。俺、めっちゃ嬉しい。」
そう言って陽平さんは私の体を軽く抱えてベッドの真ん中に連れて行ってくれた。
そのまま私は寝かされ、陽平さんが隣に寝転ぶ。
温かい布団をかけてくれ・・・陽平さんは私の体をぎゅっと抱きしめてくれたのだ。
「ふぁっ・・・。」
「今日は怖かったな。もう大丈夫だからゆっくり寝な?」
陽平さんは私の頭を自分の腕に乗せ、腕枕をしてくれた。
ぎゅっと体を引き寄せてくれ、背中を擦ってくれてる。
「・・・好き。」
陽平さんの優しさに、私は顔を摺り寄せながら言った。
すると陽平さんは笑いながら『俺も好きだよ』と言って頭を撫でてくれたのだ。
(ふふ・・・。)
私は幸せな気持ちに浸りながら、いつの間にか目を閉じていた。
逞しい体に抱きしめられたまま、ゆっくり眠りについていった・・・。
ちとせside
ご飯を食べ終わった私は、陽平さんに促されてお風呂に入っていた。
食器の片づけは陽平さんがしてくれるそうで、『ゆっくり入っておいで』と言われたのだ。
「うちのお風呂より大きい・・・。」
物件の差だろうか、私の家のお風呂よりも一回り以上大きかったお風呂。
洗い場も広く、快適そうだった。
「陽平さん、体大きいもんねぇ・・・お風呂も大きくないと窮屈だよね。」
鍛え上げられた逞しい体は、私をすっぽり覆ってしまえるほど大きい。
エスカレーターに落ちたときも、陽平さんは軽々と私を抱っこしてくれたのだ。
「いやもう、ほんと恥ずかしい・・・。」
背中から落ちたからか、リュックがクッションになってケガはしなかった。
足と腕を少し擦りむいたくらいで済んでよかったけど、見事に背中がハマってしまった私は自力で抜け出せず、レスキューのお世話になってしまったのだ。
「しかもクッションになってくれたのが陽平さんへのクリスマスプレゼントなんて・・・はぁ・・。」
きれいな箱に入れてリボンまでかけもらったのに、箱はリュックの中で歪んでしまっていた。
ピシッとした角はへこみ、いろんなところがでこぼこになってしまってる。
リボンはたわんで外れていたし、プレゼントとして手渡すどころか見せることすらできない状態だ。
「次の休みにモールに行って、ラッピングしなおしてもらわなきゃ・・・。」
そう言って私は風呂場に持ち込んだリュックを見つめた。
陽平さんに見られたくないのもあって風呂場に持ち込んだけど、リュックを持ち込んだ一番の理由は他にある。
それは・・・
「・・・さすがに下着を借りるわけにいかないもんね。」
そう、コンビニで買った下着だった。
間に合わせの下着ならコンビニで手に入るのだ。
「歯ブラシは、最悪無くてもマウスウォッシュの使い切りが入ってるし、メイク落としもある。でも下着だけはないから・・・。」
『泊まる』となれば必要になってくる着替え。
借りることができない下着はリュックにいれてなかったのだ。
「これから泊まったりすることが増えるなら・・・置かせてもらう?いや、恥ずかしすぎる。」
いろいろ考えてるうちに体の芯まで温まった私は、お風呂から出た。
陽平さんが用意してくれてるタオルで全身を拭いて着替えていく。
「・・・おっきぃ。」
陽平さんが用意してくれていたのはスウェットだ。
上下黒いスウェットだけど・・・私にとってものすごく大きいサイズだったのだ。
首のところから肩が見えそうだし、手は全く出る気配がなく、おばけのようだ。
パンツも紐を最大限に引き絞って止めたはいいけど、足が全くでていない。
まるで『年の離れた兄弟からのお下がり状態』だ。
「うーん・・・まぁ、寝るだけだし大丈夫か。」
この格好でどこかに行くわけではない。
私はリュックを持って陽平さんのところに戻っていった。
「お風呂、ありがとう。」
もう片づけが終わってリビングに座っていた陽平さんは、私を見るなり驚いた顔をした。
「?・・・どうしたの?」
「あっ・・いや、そんなにデカかったかと・・・思って・・。」
「あー・・うん、大きかったねぇ。」
袖をぷらぷらさせてみせると、陽平さんは手を口にあてて笑っていた。
ちょっと小馬鹿にされたのかと思ってると、陽平さんはとんでもない言葉を言った。
「かわいすぎて困るな。」
「へっ・・!?」
「かわいいよ、ちとせ。俺のちとせ。」
「~~~~っ。」
赤くなる顔を手で押さえると、陽平さんは立ち上がった。
「俺も風呂入ってくる。歯磨きは一緒ににしよか。・・・で、ベッドでごろごろしよ?」
そう言って陽平さんはお風呂に行ってしまった。
「陽平さんって・・『かわいい』とか『好き』とかをものすごく言ってくれるんだよね・・。」
言われるたびに恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが入り交ざる。
ベッドの上で『好き』って全身で言ってくれるときも結構あるけど、私が応えきれないのだ。
いつも気を失うように眠ってしまって・・・申し訳ない。
「・・・車の中で『だめ』って言って見せなかったの・・・傷ついたよね・・。」
そう呟きながら私はリュックから陽平さんへのプレゼントを取り出した。
「来週渡すけど・・・できればきれいなラッピングのほうがいいんだけど・・・」
陽平さんにつけてしまった傷を治すのは早いほうがいい。
喧嘩してしまったときとかもそうだけど、早いほうが仲直りがしやすいのだ。
日を置けば置くほど修復は困難になっていく。
「今日渡したほうが・・・いや、事情だけ言ってラッピングしなおしてもらうって説明して・・・」
どう説明するかを一人でぶつぶつ言ってるとき、私の目の前に陽平さんが現れた。
「何うなってんの?」
「ひゃあっ・・!?」
驚いた私は視線を上げた。
でも陽平さんの視線は私の目ではなく、手にあるプレゼントを見てる。
「それなに?」
「え!?あっ・・えーっと・・・」
「あ、リュックの中身見て驚いたのそれ?背中から落ちたみたいだから無傷じゃなかったみたいだな・・。」
「う・・あ・・・。」
「どした?」
タオルで髪の毛をガシガシ拭きながら、陽平さんは笑顔を向けてくれていた。
その笑顔が申し訳なくて・・・私はぼろぼろになってるプレゼントの箱を陽平さんに差し出した。
「これ・・・陽平さんに買ったの・・。」
そう言うと陽平さんは髪の毛を拭いていた手をぴたっと止めた。
「え!?」
「今日、来週のクリスマスデートに渡すプレゼントを買いに行ってて・・・リュックに入れてたらこんなことに・・。あ、でもラッピングしなおしてもらってから渡したいから待っててくれる?これを見られたくなくてさっき隠したの。・・・ごめんね。」
そう言ってプレゼントの箱をリュックにしまおうとした時、陽平さんが私の手を掴んだ。
「待って。今・・もらってもいい?」
「へっ・・!?いや、箱がぐちゃぐちゃだし、ちゃんとラッピングしなおしてもらってからのほうが・・・」
プレゼントをもらう側からしたらきれいなほうがいいに決まってる。
だから今度の休みの日にラッピングしなおしてもらおうと思ったのに、陽平さんは首を横に振ったのだ。
「俺はこっちのほうがいい。ちとせを守った証だし、何よりちとせが俺のことを考えて選んでくれたんだろ?ラッピングしなおす必要なんてどこにもないよ。」
「う・・・。」
真剣な優しいまなざしに、私はそっとプレゼントの箱を差し出した。
陽平さんは嬉しそうな顔で歪な形になってしまった箱を受け取ってくれ、私の頭を撫でた。
「ありがとう。開けていい?」
「・・・どうぞ。」
プレゼントの箱の中身は、ぐちゃっとなることはあっても壊れることはない。
だから陽平さんが箱を開ける姿を安心して見ていられた。
歪な箱を開け、中を見た陽平さんは中身を広げながら取り出した。
「!!・・・マフラー!」
「うん、寒くなるし、陽平さん、その色が似合いそうだったから・・・。」
取り出したマフラーを、陽平さんはくるっと首に巻き付けた。
想像よりもはるかに似合ってる姿に、自然と笑みがこぼれる。
「わ・・!よく似合ってる・・!」
「ありがとな、ちとせ。」
「ふふっ。」
陽平さんはマフラーを気に入ってくれたのか、ずっと首に巻いてくれていた。
少し話をしたあと二人で一緒に歯磨きをし、2階の寝室に向かう。
(一緒に暮らすようになったら・・・こんな感じなのかな。)
そんなことを思いながら階段を上がっていく。
憧れがないわけではない『結婚』は『想像』だけはたくさんしたことがあった。
小さい頃は、父と母のような夫婦に憧れ、高校に入った時にはお互いに支え合えるような夫婦像に憧れた。
実際、彼氏ができたときは『結婚』というものが現実味を帯びた瞬間があったけど、『幸せ』と結びつくものかと問われたら疑問符が浮かぶものだったのだ。
(『お前が必要だ』って言われたけど・・・『家政婦として』必要だったんだよね。)
陽平さんみたいに『好き』とか『かわいい』とかの言葉は聞いた記憶がなかった。
その言葉がすべてだとも思わないけど、今考えたら私はいいように使われていただけだったのだ。
元カレの身の回りの世話をし、向こうが欲情したら相手をする。
痛いだけの行為は好きになんてなれるハズもなく、断り続けるとあっさり振られてしまったのだ。
(陽平さんは・・・違うよね・・?)
そんなことを考えてるうちに、私は寝室に足を踏み入れていた。
陽平さんに何度も抱かれたベッドが目に入る。
「ちとせ、ちょっと座ってて?俺、忘れ物したから取ってくる。」
「うん・・・。」
そう言って陽平さんは軽い足音を立てて階段を下りて行った。
(何忘れたんだろ?・・・ゴムとか言わない・・よね?)
泊まりとなると夜は長い。
ドキドキしながら陽平さんを待ってると、また軽い足音を立てて陽平さんが上がってきた。
手に何か・・・細長い箱を持ってるのが見える。
「?」
「俺も来週渡す予定だったんだけど・・・。」
そう言って陽平さんは私の前に膝をついて屈んだ。
両手で細長い箱を持って、私に差し出してきた。
「クリスマスプレゼント。喜んでくれたら・・・嬉しい。」
陽平さんは箱についてたリボンを解き、箱の蓋をゆっくり開けた。
その中に・・・しずく型のネックレスが入っていたのだ。
「え!?」
「俺がつけてもいい?」
陽平さんはネックレスを取り出し、状況が分からない私の首につけてくれた。
冷たいチェーンが首にあたるけど、すぐに体温を吸収して温かくなる。
「え!?え!?・・私に!?」
「そう。指輪とか腕時計は衛生上つけないかなと思って・・・ネックレスならつけれるんじゃない?ダメなときは外せばいいし。」
私はネックレスのトップを手ですくった。
金色のしずく型に、ピンクの宝石が入ってる。
きらきら輝いていてすごくかわいい。
「かわいい・・・。え、もらっていいの!?」
「もちろん。ちとせもこのマフラー、ありがとな。俺、めっちゃ嬉しい。」
そう言って陽平さんは私の体を軽く抱えてベッドの真ん中に連れて行ってくれた。
そのまま私は寝かされ、陽平さんが隣に寝転ぶ。
温かい布団をかけてくれ・・・陽平さんは私の体をぎゅっと抱きしめてくれたのだ。
「ふぁっ・・・。」
「今日は怖かったな。もう大丈夫だからゆっくり寝な?」
陽平さんは私の頭を自分の腕に乗せ、腕枕をしてくれた。
ぎゅっと体を引き寄せてくれ、背中を擦ってくれてる。
「・・・好き。」
陽平さんの優しさに、私は顔を摺り寄せながら言った。
すると陽平さんは笑いながら『俺も好きだよ』と言って頭を撫でてくれたのだ。
(ふふ・・・。)
私は幸せな気持ちに浸りながら、いつの間にか目を閉じていた。
逞しい体に抱きしめられたまま、ゆっくり眠りについていった・・・。
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