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ケルセン。

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「ふぁ・・・よく寝た・・・。」


目覚ましに起こされることも無く眠りにつけた私は、自然に目が覚めるまで寝ることができた。

すっきりした体に伸びをして体を起こす。


「んーっ・・・!」


窓から太陽の光が射しこんでることから、今は朝・・もしくは昼、もしくは昼過ぎらしい。

私は数時間寝ていたのかと思いながら、部屋の外に出た。

階段をゆっくり降りていくと、昨日の店員さんが私を見上げながらクスッと笑っていた。


「?」

「ははっ、よく寝てたじゃないか。」

「あー・・・はい、疲れてたみたいで・・・」


照れながら降りていくと、店員さんは驚く言葉を言った。


「丸二日寝てたよ?」

「・・・二日!?え・・一日じゃなくて!?」

「あぁ。夜にご飯をどうするか見に行ったら寝てて、次の日の朝も寝てて?夜も降りてこなくて、今。」

「ふぁ・・・」

「腹、減ってるだろう?すぐ用意するからそこに座ってな?」

「はい・・・」


顔が熱くなっていくのを感じながら、私は宿1階の端にあるテーブル席に座った。

少しするとパンとスープと水がトレイに乗せて持ってきてくれ、テーブルにコトンっと置かれた。


「まぁ、大丈夫だと思うけどゆっくり食べな?腹、壊すかもしれないからね。」

「はは・・・ありがとうございます・・・。」


気遣いに感謝しながら私はパンをちぎり、スープに浸して口に入れた。

優しい味が口の中に広がっていき、久しぶりのまともな食事に私の胃が満たされていくのがわかる。


「おいしい・・・・」

「そりゃよかったよ。晩はしっかりしたの用意してやるから外、いっぱい歩いて腹減らして来な?」

「ふふ。そうしますね。」


にこにこ笑いながら言ってくれた店員さんに好印象を抱いた私は、パンを食べながらこの町のことを聞くことにした。


「この町、何が有名なんですか?食べ物とか・・・」

「そりゃ隣国との境目だからね、いろんな食べ物があるよ?串焼きの種類も多いし、果物も珍しいものもある。あとは・・・そうだね、もう枯れちまってるけど大きな木があるよ。」

「・・・木?」

「あぁ、今から遥か昔、隣国との境目の印として植えられた木らしいけど、もう何百年か前に枯れちまったんだよ。」

「へぇー・・・。」


枯れた木がずっとあるっていうのが不思議だ。

枯れたのなら朽ちてぼろぼろになってしまってもいいのに、『まだある』というのだ。


(まだ生きてるのかな?)


どんな状態なのか想像つかなくて首を傾げてると、店主さんはニコッと笑ってみせた。


「まっ、そんな枯れた木より美味しいもののほうがいいだろう?露店は数も多いし、楽しんできな?」


そう言ってくれたと同時に食べ終わったスープとパン。

お店の人はトレイを下げてくれた。


「ごちそうさまでした。・・・じゃあ、行ってきますっ。」

「はいよ、気をつけてな。」


私は一旦部屋に戻り、お金の入ったカバンを斜めがけして宿を出た。

この町に来たときは寝ることしか考えてなかった私だけど、改めて見る町に目が輝く。

中心部らしい場所は円状の広場になっていて、円に沿うようにして露店が並んでいた。

食べ物や、服、雑貨に野菜、果物・・・

一つとして同じような店は無く、全部が違う店だった。


「うわぁ・・・!」


どこから見て行ったらいいのかわからずに足を止めてると、城下町の時のような呼び込みの声が聞こえ始めてきた。


「お嬢ちゃん!串焼きはどうだい!いろんな肉があるよ!!」

「ジュースはどうかな?甘くておいしいよ?」

「何言ってんだい、きれいな腕輪がいいよねぇ。どうだい?」


呼び込みにつられるようにして私は足を進めた。

少し遠巻きに見るものの、どれもこれも物珍しくてじっと見てしまう。


「こっちの世界のジュース・・・初めて見たかも・・。」


竹のコップに入れられて売られていたジュース。

どんな味がするのかと思って私はそのお店に近づいていった。


「らっしゃい!!」

「えと・・・一杯ください。」

「はいよ!」


お店の人はジュースが入っていた竹のコップを取り、その上にさらにジュースを足していった。

コップすれすれになるまで入れてくれ、それを私に手渡してくる。


「10リルだよ!」

「あ、はい・・・。」


私はポケットの中から銅貨を取り出して10リル支払った。


「入れ物はあとで返してくれるかい?」

「あ、わかりましたー。」


リサイクルはいいことだと思いながらも、周りにゴミ箱なんてものはない。

なんでもかんでも捨てることができた前の世界とは違うのだ。


(そういえば空気もきれいな気がする。やっぱ工場とかないからかなぁ・・・。)


そんなことを考えながら、私はジュースを一口飲んでみた。

どうやらリンゴをすり潰して作ったリンゴジュースのようだけど、すり潰した果肉が豪快に入っていて、なんだか笑ってしまう。


「!・・・ふふっ、でもおいしい。」


久しぶりに飲んだ水以外の飲み物。

喉を潤しながら私はいろんなお店を覗いていったのだった。




ーーーーー




ーーーーー



一方、万桜がケルセンの町に着いた頃、お城ではカーマインたちが万桜の行方を捜していた。

万桜が作ったくるみボタンが聖女の力を持ってるかもしれないと、一部の騎士たちの間で話題になっていたからだ。


「でも聖女はキララだって第二王子と神官が言ってただろう?」


万桜が閉じ込められていた物置部屋で手掛かりを探すカーマインに、トープが聞いた。


「そうだけど・・・気にならないか?二人も召喚されたことも気になるけど・・・マオから飾りをもらったあの侍女、『運がいい』で済ませられる範囲を超えてるくらいのことが起こったぞ?」


庭師が撒く水から逃れられた侍女は、あのあとから運のいいことが続いていた。

最初は些細なことだったけど、日を追うごとその運がデカくなっていったのだ。

周りが『おかしい』と思うくらいに。


「あの侍女、結局隣町の領主の落とし物を拾って見初められて?嫁に行ったんだよな?」

「そう。普通そんなこと起こらないだろ?」

「まぁ・・・。でも起こるかもしれないだろ?」

「・・・。」


確かに起こらない話ではないことだった。

偶然街に買い物に出て、偶然隣町の領主が城下町に来ていて、偶然落とし物をして、偶然侍女が拾えば起こることかもしれない。

でもその確率がかなり低いのが気になるところだった。


「あの侍女、話を聞いたら『自分は買い物係じゃなかった』って言ってたんだよ。」

「え?」

「本当は違う侍女が買い物に行く予定だったけど、その侍女が階段で転んで足を挫いたらしくてさ・・・代わりに行くことになったらしいんだ。」

「それ・・本当か?」

「あぁ。」


侍女が領主に見初められることは必然だったのか、運が影響したのかはわからない。

でもマオと関わってから運が良くなったことは本人も認めてることだった。


「俺はキララが聖女だとは思えない。でもマオも聖女かどうかわからない。・・・だから確かめたいんだ、この目で。」

「カーマイン・・・。」

「この国を・・この国の干ばつを救ってくれる人につきたい。それが護衛騎士の務めだ。」


カーマインがそう言ったとき、物置部屋に誰かが走り込んできた。


「はぁっ・・!はぁっ・・!カーマイン!トープ!マオの行き先を知ってる奴を見つけたぞ・・!!」


息を切らしながら物置部屋に飛び込んできたのは『セラドン』。

カーマインやトープと違って身長が低く、万桜より少し大きいくらいだ。


「どこだ!?」


カーマインは急いでセラドンに駆け寄った。


「城下町の髪飾り屋だ!マオはケルセンに向かった!!」

「ケルセン・・・!?境の町か!?」

「そうだ!出発したのは1ヶ月前だ!」


セラドンの言葉を聞いたカーマインは歩いて部屋の扉に向かって行った。


「話を聞いてくる。」





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