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第7話

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「ハァハァ……ハァハァ……もう駄目だ……胸が苦しくて息ができない」

手を振り回してただひたすらに駆ける。人目を忍ぶ恋だったが、大恋愛の末に結ばれたとアルベルトは思っている。

やっぱり彼女を失いたくない。切ないほど好きなクローディアと見知らぬ男性が乗り込んだ馬車を見つめながら、心臓が破裂しそうなほど全力の限りを尽くす。

だが、無慈悲にも馬車と彼の距離は徐々に離されていく。そもそも熱が高く体のだるさを感じて仕事を早退したのに、今の身体の弱い彼に全力疾走はあまりにも無謀なことであった。

「うわっ!」

走っていたら突然に段差があるところにつまずいて足元がふらつく。本気で走っていたので滑るように転んだ。

気の毒に思うほど恥ずかしくみっともない姿で倒れている。アルベルトが転ぶと思った時には、膝と太ももに衝撃が走り体が回転した。頭も打ったかもしれない。瞬間、後頭部が締めつけられるように痛む。


「やっと着いた……」

普段なら数分もかからない距離を数時間かけて帰って来た。酔っぱらっているみたいに心もとない足取りで右に左に体を揺らす。

彼は倒れてからしばらく体中が痛くて石ころのように動けなかった。顔をゆがめて耐え抜いてどうにか立ち上がる。生々しい傷を見て自分が惨めすぎて涙も枯れていた。

妻のことも気になる。精神的にも悲しくてやるせない思いで苦痛そのものしかない。立ち上がっても足がもつれてうまく進めなくて何度も尻もちをついた。王子は全身に傷を負って生きる気力を失ったくたばりかけの状態。

「赤ん坊の泣き声ってすごいな……」

家に帰って来てもゆっくりできない。幼子がギャーギャー喚き散らしている。家に近づくにつれて本能的に助けを求める悲鳴が、耳の中に入り込んできた。

風が音をつれてきてくれて泣き声はかなり遠くからでも聞こえた。それで彼は生きる気力を取り戻す。この子のためにも自分は死ねない。

どうやらクローディアは子供を家に残して出かけたらしい。最近では近所の人達とも多少は仲良くなって、子供を預かってもらうこともありました。しかし今日は無理だったみたいです。

「よしよし、いい子だねえ……さびしかったかい……パパは心も体もボロボロだよ」

アルベルトはかわいい赤ちゃんを抱きながら、自分の怪我も忘れてひょうきんな顔で語りかけて、かけがえのないものを授かったことに喜んでいる。

クローディアが元気な赤ちゃんを産んでくれたことには感謝して、涙が出るほどありがたい。

最初は赤ちゃんがなかなか泣き止まなかったが、今は上手にあやしている。まだ赤ちゃん言葉も話せないので王子は一人で喋り続けていた。

青あざと傷だらけの体の彼は、今後きちんとした治療を受けることはないだろう。
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