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第20話

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「それでな、セリーヌ様はそろそろ帰らなくては行けないと言い別れの言葉を伝えられたが、われは彼女と離れるのがさびしくてな……」
「どんな時も別れは悲しいですからね」

セリーヌは子供の頃に家族で旅行に行った。その近くに竜の住処すみかがあって二人は運命的な出会いをげて、竜は彼女に一目惚れをしたと話した。

アランは平静をよそおって竜と普通に会話をしていますが、心の中ではあり得ないだろう……という思いで収拾しゅうしゅうのつかぬ混乱ぶりであった。

そしてセリーヌはヴァレンティノ王国に帰ると竜に告げた。竜は別れがたい思いがあった。だが、妻と娘と暮らした思い出の地を離れたくもない。

「だから我はセリーヌ様に能力をさずけて、いつでも我と会話ができるようにしたのだ」
「テレパシーのような感じで、遠くにいてもセリーヌ様と日常的に会話をしていたというわけですか?」
「その通りだ。彼女はいつも楽しい会話を笑いながらしてくれて、我は幸せな気分でいられたのだ」

(な、なんだってー!?)

アランはとても心中穏やかではいられない状態だった。竜はセリーヌと離れるのが辛くて能力を与えて、ほとんど毎日のように二人は気持ちのやり取りをしていた。

アランは聞いているうちに、明らかに竜に与えられた力で彼女が《覚醒かくせい》したのだろうと強く感じた。傷ついていた心が、彼女と話していると癒されていくような気がしたと言うのです。

「それはいつ頃から……?」
「セリーヌ様がまだ5歳くらいの時からだな」
「そんな昔からお二人は仲良くされていたのですね……」

竜と人という境遇きょうぐうが異なりますが、長年の会話を通じてきずなを深めることができて親友同士だった。

「その後も我は、人間の姿でこっそり国に行って彼女の様子を遠くから見守っていたりしていたな……」
「それからもセリーヌ様に何か能力を授けたのですか?」
「……話はできるが彼女のことが心配でな。人族は体がもろいから事故にあったりしたら大変であろう?」

竜はセリーヌに会いたくて、わざわざ国に来て何週間も陰ながら様子をうかがって見守り続けたりしていたようだ。さらに竜は一途な愛情を注ぎこむ。一緒に話はできても人間は自分と比べて体が弱いから世話を焼かずにはいられなかった。

「私たち人間はドラゴン様みたいに丈夫じょうぶで強くありませんからね」
「だからな、彼女の体を守るために我の色々な能力を与えたのだ。今は我と変わらないほどの能力と力を持っておる」

(おそらくセリーヌは騎士団長の俺よりも数倍強いだろうな……)

アランは腰を抜かすほど驚いた。竜はセリーヌの体がとても心配になって、自分の持っている能力を彼女に分け与えた。彼は幼馴染としてずっと一緒にいたのに彼女の変化に全く気がつかなかった。
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