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第55話

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「アラーーーーーン!」

二人の戦いを見ていたフレッドが遠吠えのように叫んで、一目散にアランの元へと駆け寄った。声をかけても反応はなくアランは両手で頭を抱えてうずくまっていた。人並み外れたセリーヌとの圧倒的な力の差を肌で感じて、よほど大きなショックだったらしく挫折感を味わう。

「アラン立ってくれ!」
「……俺はもうダメだ……」
「お前らしくないぞ元気出せよ!」

フレッドは気持ちが沈み込んだアランの背中を叩いて大声で励ました。不意にアランは小さな声でつぶやくように言う。しょぼくれている感じで泣きごとを口にした。セリーヌがこんなに強いとは思わなかった。誇り高い戦士であるアランの心は粉々に砕け散りました。

いつものお前らしく自信に満ちた得意顔を見せてくれよ。フレッドはアランの手をグッと握ってしっかりしろと勇気づける。アランの傷心を癒そうとフレッドは熱くなっていた。

「だから言ったのに」

近寄って来たセリーヌが呆れ顔で眺めていった。あれだけ忠告したのに真剣勝負を挑んできたのはアランの方でしょ?という思いがあるので気の毒だけど身から出たさびというものです。

「セリーヌこれ以上アランを苦しめないでくれ!」
「そんなつもりありません」
「ならアランに優しい言葉をかけてやってほしい」

フレッドは怒った口調で意味のわからない言葉を発した。別に苦しめることを言ったつもりはなかったので、困った感じで申し訳なさそうな表情で言う。フレッドはアランをいたわるように声をかけたが、セリーヌには慰めの言葉なんて一つも思い浮かばない。

「――アラン思ったより強かったよ?さすがの騎士団長だね!」

セリーヌはしばらく無言のままじっとアランを見つめていた。しゃがみ込んで頭を抱えたアランを見ていたら脳裏をかすめて意識せず口にする。正直もっと弱いと思ったら拳の威力はまあまあ強いと感じた。セリーヌの嘘偽りのない本音でした。

国の守り神という存在のセリーヌを追放したことで、国全体を覆っていた防御結界は弱まり竜と魔物の集団によって事実上崩壊してしまったヴァレンティノ王国。竜に様々な能力を付与されたセリーヌに比べたら、アランは吹けば飛ぶような存在の雑魚キャラクター。

とは言ってもにしては十分強いので、アランの事をいざという時には頼りになる男だと思った。さすが王国最強の騎士だと感心するように言う。セリーヌはいつもの温和な自然体で明るく純粋な笑顔を見せた。

※※※
新作【婚約破棄した王子は年下の幼馴染を溺愛「彼女を本気で愛してる結婚したい」国王「許さん!一緒に国外追放する」】を投稿しました。お手数をおかけいたしますがお力添えのほどよろしくお願い申し上げます。
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