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6話

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「本当なのか?死に至る病で絶望していると聞いていたが……」
「それは少し前の話よ」
「ちっ、助かりやがったのか。どこまでも悪運の強い奴だ」

重い病気になった婚約者が元気になれば普通なら嬉しく感じるはずなのに、ラウル王子は事もあろうに悪運に助けられていると理解に苦しむことを言う。陰湿な顔で気分が晴れない気持ちがうかがえる口ぶりだ。

(助かりやがったって……そこは喜ぶところじゃないの?)

悔しい――ナタリアはその感情だけでした。気楽に取り交わされる二人の会話はナタリアには耐え難いまでになっていた。恋人のラウルと親友のアイリスは看過できない存在で許されざる罪だと認識した。

「あなたたち!!!」

「え……?」

ナタリアの一喝でとつぜん静かになる。二人は最初何が起こったのか誰の声なのか分からなかった。ベッドの上で寝転がりながらきょとんと不思議そうな顔で見つめていた。

そしてドアのほうに気配が感じられて視線を向けたラウルとアイリスは驚くべき光景を見る事になった。ナタリアが激しい気性を帯びた顔で立っていた。

「な、なんで?」
「ナタリア!?ど、どうして君がいるんだ?」

二人は恐怖におびえる目で心の混乱と圧迫に苦しむばかりです。悪さをしていたら親に見つかった子供のような感じでした。言葉がしどろもどろになるのは当然。ラウルとアイリスの計画を知っているはずもなかったナタリアがいるのですから。

「ラウル!!」
「は、はい!」

ナタリアは弾力のある声で恋人の名を呼ぶと、ラウルはベッドからあわてて飛び起きてから叫ぶように返事をした。

「話していたことは本当なの?」
「え?そんなの冗談にきまっているだろ?僕はナタリアのことを誰よりも愛してるんだからね」
「ちょっと下着くらい身につけてください」
「あ!すまない……」

ナタリアは体は怒りでぶるぶると震えながら怒りのきわまった静かな声で言った。ラウルはそばへと駆け寄ってきた。心はほとんどパニック状態におちいっているのか衣服を身につけていない。ナタリアはラウルの姿を見て呆れ顔でたしなめた。

ナタリアに服を着るようにと言われるとラウルは自分が生まれた赤子の状態に気がついた。面目が立たない思いになり急いで床に落ちていた下着を手にとってバツが悪そうにはいた。
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