病気で療養生活を送っていたら親友と浮気されて婚約破棄を決意。私を捨てたあの人は――人生のどん底に落とします。

佐藤 美奈

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21話

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「突然婚約破棄を言い渡されたラウル様に同情いたしましたから、なにかしらの手助けをするのもやぶさかではございませんが?」
「なんだ?アイリス何か言いたそうだな?」

アイリスは脳裏に閃いたらしく口元を隠して悪そうな笑みをしてから言い出す。ラウルに哀憐あいれんのまなざしを送って涙ぐみながらラウルの手を握った。アイリスは心から同情していると悲しんで助力を申し出た。だがラウルはアイリスの口調の底に違和感を感じて問いかけた。

「ラウル様、ちょっとお耳をお貸しくださいませんか」
「うんうん、そんなことか……わかった僕も協力しよう」

アイリスは手招きをしてお耳を拝借したいんですがよろしいですか?と言いラウルの耳元に顔を寄せてひそひそと内緒話をしている。

アイリスは一つお願いがあるんですがと言い始め、ラウルはアイリスの話にうなずいては聞いていた。話を終えるとラウルは了解したと答えた。最初は何を言われるのか驚いていたが、アイリスの頼みはそれほど難しいことではなかったので二つ返事で引き受ける。

「ラウル様、ありがとうございます」
「アイリスその代わりナタリアのことは頼んだぞ?」

アイリスは願いが聞き入れられて、幸福が約束されたという思いでにこやかな笑顔を浮かべている。ラウルの方も笑っていますがアイリスと違って演技に不慣れで、何か下心がありそうないやらしい印象を与える笑顔を浮かべていた。

ラウルとアイリスは互いに全幅の信頼を寄せている感じで固い握手を交わした。アイリスのお願いはクラウドと自分が結ばれるように、ラウルに仲を取り持ってほしいと言うものだった。ラウルの方もナタリアとの関係改善に親友のアイリスが仲介役で手助けを頼んだ。

前の世界でナタリアを死に至らしめた当事者同士だとも知らずに、この時の二人は問題は解決したような気分で嬉しそうに笑顔を返し合っていた。

「ラウル様、ナタリアの親友である私に全てお任せして、大船に乗ったつもりでご安心ください。必ずやナタリアを説得して二人の結婚を約束いたします!」

アイリスは気品高い顔を作りラウルを元気づけるように堂々と胸を張って宣言した。彼女の透き通った声には説得力があり、ラウルは不思議な迫力に圧倒されていた。

「なんと心強い言葉なんだ。これが親友というものなのだな……アイリスが味方になってくれて感謝する」

ラウルの方もアイリスに感化を受けて、もっともらしい顔でうなずき親友とは素晴らしいものなのだとしみじみと理解しているのであった。ラウルはアイリスの言葉に泣きそうな顔をしたあと微笑んだ。支えてくれて本当にありがとうという思いで、どんなに感謝しても足りない気がして懐から何かを取り出した。

「アイリスこれはほんの気持ちだが受け取ってくれると嬉しい」
「ラウル様ありがとうございます」

ラウルの言葉にアイリスは期待するような顔で感謝して素直に手を差し出した。手の平の上に何か置かれたのを感じる。気になって見てみると、え?という様子でアイリスの顔は微妙な変化を見せた。

手には飴玉が一つポツンと置かれていた。アイリスは高価な貴金属でも貰えると思っていたのに、納得がいかないという思いで言いようのない悔しさが胸の奥にわいた。
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