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第28話
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「ミリア・クラウディア。その告発、確かなる証拠があってのことだろうな。証拠を示せ」
王の声は、理性と威厳を重ねた重厚な旋律となって、大広間に静かに降り注いだ。それは命令ではなく、運命を告げる宣言のようだった。
「はっ」
私が静かに頷くと、それを合図に、エリザと彼女の兄であるアルフォンス伯爵がゆっくりと歩み出た。その手には、長らく闇に葬られていた真実を照らす証拠の品がしっかりと握られていた。場内の空気が一瞬にして張り詰め、誰もが息を呑む中、二人の姿はまるで正義の使者のように確信に満ちていた。
「これは、当時、カタリーナ嬢の侍女であった、サラ・レジットの宣誓供述書です。『あの日、カタリーナお嬢様は、私に、倉庫に火を放つ準備をするよう、はっきりと命じられました』そう、記されております」
アルフォンス伯爵は一歩進み出ると、懐から慎重に巻物を取り出した。彼は一礼ののち、王の御前に控える書記官の手へと、まるで言葉なき真実を語る聖なる文のように委ねた。静まり返る広間に、紙と皮の擦れる音だけが響いた。
次に、エリザが一通の手紙を掲げた。
「これは、カタリーナ嬢が私的にやり取りしていた相手に宛てて送った手紙の原本。そこには『邪魔なミリアを始末する計画は、うまくいきそう』彼女自身の筆跡で、そう書かれております」
「いや! 違うのよ……ちがう、こんなの嘘! 私を貶めようとして……!」
怒りとも恐れともつかない混乱の声を上げ、カタリーナは感情に押し流されるように叫んだ。声は鋭く広間に響き渡ったが、証人が姿を見せた瞬間、彼女の声は真実の重みに押し潰されるようにして、静かに場の空気にかき消された。まるで真実の到来が、偽りの叫びを静かに封じたかのようだった。
重々しく扉が開いた瞬間、場の視線が一斉に向けられた。騎士に寄り添われるようにして入ってきたのは、一人の若い女性――侍女サラだった。その細い肩はわずかに震えていたが、その眼差しには迷いがなかった。壇上へと向けた視線は、真実を語る覚悟そのものだった。
「サラ・レジット。証言台へ」
王の言葉に、サラは壇の前に進み出た。
「証言します。あの日、カタリーナお嬢様は、確かに、火を放つよう、私に命じられました。そして、事件の後、『このことを誰にも言うな』と、口止め料として、この金貨を……」
彼女の声は、わずかに震えていたが、その一言には鋭い意志が宿っていた。音量は小さくても、周囲の空気を変え、耳を傾けさせるだけの凛とした力を持っていた。その声を聞いた者は、誰もが心の中で思わず身を引き締めた。
サラは静かに手を差し出すと、その掌に輝く一枚の金貨を乗せた。それはただの貨幣ではなかった。その表面に刻まれた辺境伯家の紋章は、まるで運命の扉を開く鍵のように輝き、見つめる者に深い沈黙を与えた。
言い逃れの余地はもはや残されていなかった。カタリーナは立ち上がる力さえ失い、その場で膝を折りそうになった。彼女を支えるアーロンの手が、わずかに震えているのがわかる。
「アーロン。弁明を聞こう」
そんな二人の間に、王の視線が冷徹に注がれた。その眼差しは、まるで氷のように冷たく、息子アーロンを鋭く責め立てるかのように突き刺さった。
アーロンは、顔面蒼白のまま、必死に言葉を探していた。
「ち、違うんだ……っ! 俺は……ただ、カタリーナを守りたかっただけだ! 彼女は悪くない……いや、少なくとも、すべてを責められるほどのことはしていない! 未熟だっただけだ、若くて、少し判断を誤っただけで……! それを咎めるなんて、あまりにも酷だろう!? それに俺はミリアを脅したりなんて、してない……たぶん……」
アーロンの口から絞り出されたのは、真実ではなく、追い詰められた者の無様な逃げ口上だった。彼が絞り出す言葉の一つ一つが、かえってカタリーナの罪を浮き彫りにしていく。
王の声は、理性と威厳を重ねた重厚な旋律となって、大広間に静かに降り注いだ。それは命令ではなく、運命を告げる宣言のようだった。
「はっ」
私が静かに頷くと、それを合図に、エリザと彼女の兄であるアルフォンス伯爵がゆっくりと歩み出た。その手には、長らく闇に葬られていた真実を照らす証拠の品がしっかりと握られていた。場内の空気が一瞬にして張り詰め、誰もが息を呑む中、二人の姿はまるで正義の使者のように確信に満ちていた。
「これは、当時、カタリーナ嬢の侍女であった、サラ・レジットの宣誓供述書です。『あの日、カタリーナお嬢様は、私に、倉庫に火を放つ準備をするよう、はっきりと命じられました』そう、記されております」
アルフォンス伯爵は一歩進み出ると、懐から慎重に巻物を取り出した。彼は一礼ののち、王の御前に控える書記官の手へと、まるで言葉なき真実を語る聖なる文のように委ねた。静まり返る広間に、紙と皮の擦れる音だけが響いた。
次に、エリザが一通の手紙を掲げた。
「これは、カタリーナ嬢が私的にやり取りしていた相手に宛てて送った手紙の原本。そこには『邪魔なミリアを始末する計画は、うまくいきそう』彼女自身の筆跡で、そう書かれております」
「いや! 違うのよ……ちがう、こんなの嘘! 私を貶めようとして……!」
怒りとも恐れともつかない混乱の声を上げ、カタリーナは感情に押し流されるように叫んだ。声は鋭く広間に響き渡ったが、証人が姿を見せた瞬間、彼女の声は真実の重みに押し潰されるようにして、静かに場の空気にかき消された。まるで真実の到来が、偽りの叫びを静かに封じたかのようだった。
重々しく扉が開いた瞬間、場の視線が一斉に向けられた。騎士に寄り添われるようにして入ってきたのは、一人の若い女性――侍女サラだった。その細い肩はわずかに震えていたが、その眼差しには迷いがなかった。壇上へと向けた視線は、真実を語る覚悟そのものだった。
「サラ・レジット。証言台へ」
王の言葉に、サラは壇の前に進み出た。
「証言します。あの日、カタリーナお嬢様は、確かに、火を放つよう、私に命じられました。そして、事件の後、『このことを誰にも言うな』と、口止め料として、この金貨を……」
彼女の声は、わずかに震えていたが、その一言には鋭い意志が宿っていた。音量は小さくても、周囲の空気を変え、耳を傾けさせるだけの凛とした力を持っていた。その声を聞いた者は、誰もが心の中で思わず身を引き締めた。
サラは静かに手を差し出すと、その掌に輝く一枚の金貨を乗せた。それはただの貨幣ではなかった。その表面に刻まれた辺境伯家の紋章は、まるで運命の扉を開く鍵のように輝き、見つめる者に深い沈黙を与えた。
言い逃れの余地はもはや残されていなかった。カタリーナは立ち上がる力さえ失い、その場で膝を折りそうになった。彼女を支えるアーロンの手が、わずかに震えているのがわかる。
「アーロン。弁明を聞こう」
そんな二人の間に、王の視線が冷徹に注がれた。その眼差しは、まるで氷のように冷たく、息子アーロンを鋭く責め立てるかのように突き刺さった。
アーロンは、顔面蒼白のまま、必死に言葉を探していた。
「ち、違うんだ……っ! 俺は……ただ、カタリーナを守りたかっただけだ! 彼女は悪くない……いや、少なくとも、すべてを責められるほどのことはしていない! 未熟だっただけだ、若くて、少し判断を誤っただけで……! それを咎めるなんて、あまりにも酷だろう!? それに俺はミリアを脅したりなんて、してない……たぶん……」
アーロンの口から絞り出されたのは、真実ではなく、追い詰められた者の無様な逃げ口上だった。彼が絞り出す言葉の一つ一つが、かえってカタリーナの罪を浮き彫りにしていく。
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