私よりも幼馴染を選んだ王子の末路

佐藤 美奈

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第30話

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カタリーナは泣きながらアーロンにしがみつき、必死にその胸にすがりつく。しかし、王の眼差しは変わることなく、冷徹に不動の意志を示すように再びその姿を起こした。

その姿からは、父としての温もりを感じることはできなかった。彼の顔には、王としての鋼のような決意――理屈ではなく、王としての冷徹さが浮かんでいる。その目には、一片の情もなければ迷いも見当たらない。

息子に対しても、父としての愛情が感じられるどころか、国を守るために決断を下さねばならないという圧倒的な責任感があった。彼はただ王として、運命に抗わず進む道を選ぼうとしていた。

王は、深く息を吸い込み全身に集まる力を感じ取った。杖を握りしめ、その身を高く引き上げる。その動作一つ一つが、彼の意思を具現化するかのように威厳と力強さを放った。まるで王の手が、運命そのものを動かすかのような壮大な瞬間に息を止めて見守った。

カンッ!!!

「判決を、言い渡す!」

その声が空気を震わせたとき、後戻りはできないことを誰もが理解した。

「辺境伯ジェンキンス家は、本日をもって爵位を剥奪。全財産を没収の上、一族全員を、王都から永久追放とする! 王子アーロン・シュトラウス! お前は、王位継承権を、ただちに放棄せよ! そして、北の辺境駐屯地への、無期限の左遷を命ずる!」

会場の空気が一変し、耳をつんざくような激しい衝撃が広がった。王子の王位継承権が剥奪された。その瞬間、会場は地鳴りのようなどよめきに包まれ誰もが息を呑んだ。

その言葉は、ただの権利の剥奪ではなかった。それは、王族としての誇りを根こそぎ奪う宣告。王子の未来を完全に閉ざす決定であり、彼にとっては王家からの厳然たる追放宣言そのものだった。

突然、貴族たちの頭が一斉に下がった。まるで一つの大きな力に引き寄せられるかのように、その場にひれ伏した。王家の決定が示す厳粛さに対し、貴族たちはただ頭を下げることで、自らの無力さと忠誠を示さざるを得なかった。その静かな場面に、王家の存在がいかに絶対的なものであるかを感じさせる。

(――これが、王という存在の力。誰一人として抗えず、頭を垂れるしかない。だけど私は……この目で、最後まで見届けなければならない)

私は、ひれ伏す人々の波を前に、ただ一人、沈黙の中に立ち尽くしていた。

やがて、ひれ伏す者たちに静かに頭を下げる。だがそれは、支配への服従ではなく、自らの信念を認めるための一礼だった。

そして私は、顔の傷に手をやることもなく、まっすぐにエリザのもとへと進む。この傷は、隠すべきものではない。私がここにいる理由そのものであり、真実の姿なのだから。その時だった――

「あなたが壊したのは、ただの王子ではないの!」

沈黙が支配するその場に、彼女の声が鋭く走り空気を真っ二つに裂いた。アーロンにすがって泣き崩れていたカタリーナだ。廃人になった彼と違って、彼女の心はいまだ折れてなかった。

ざわ……と、まるで風のない場所に何かが走ったように空気が揺れた。
ひれ伏していた貴族たちが、一斉に顔を上げる。異変の中心には、ひとりの令嬢。怒りと絶望の狭間に立つ彼女がいた。

「アーロン様。私の、たった一人の希望だった人を……!」

理性では止められなかった。礼儀も、血筋も、頭の中から霧のように消えた。カタリーナの心と身体は、ただ一つの衝動に突き動かされていた。瞳に映るのはただ一人、王太后の姿のみ。

衛兵たちは動いた。しかし、その場にいる誰もが理解した。間に合わない。衛兵の鎧が軋む音が聞こえる前に、彼女の身体は風と一体となって駆けた。

次の瞬間、袖に秘めていた細身の短剣が、滑るように抜き放たれる。その瞬間のためだけに研がれてきたかのように美しく。カタリーナにとっては運命を断ち切るための刃だった。

キィン――。空気が裂けるような金属の歌声。白銀の刃が、天井のシャンデリアの光を反射し、ひとすじの光線のように鋭く放たれた。

そして、それは実質の女帝の喉元へ、そっと触れた。

息を飲むような静寂が広がり、場の空気が一瞬で異質なものに変わった。王の肩がかすかに揺れ、表情がわずかに強張り、空気が研ぎ澄まされていく。

それは、砕けた心の奥底に残された最後のひとかけら――
愛ゆえに壊れ、なおも伝えたかったものを形にした命がけの“訴え”だった。

「あなたのような人間が、アーロン様の運命を握るなんて許せない!」
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