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第11話
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「ロザミア、甘えるばかりでは、お前の価値が下がるだけだ。立派な女性を目指すべきだ」
「イリアのことばかり考えているから、私に八つ当たりしているのね!」
「黙れ!」
「図星でしょう? どうせ、またあの女のところに謝りに行くんでしょう! 往生際が悪いわ!」
「もう我慢の限界だ!」
エリックの怒りは、今や頂点に達していた。心の中で何度も押さえつけようとした感情が、限界を超えて爆発しそうになっていた。すべてが許せなくて腹立たしい。冷静さを保とうと必死になっていたが、その努力も虚しく怒りが体中に広がり心を支配していった。
「ロザミアは品格を持て! 王子妃になるというのなら、イリアを見習って、それにふさわしい教養や立ち居振る舞いを身につけろ! 公務や雑務を学べ! この数ヶ月、お前は一体何をしていたんだ!」
「自分だって馬鹿で無能なくせに、どうしてそんなことを言うの?」
「なんだと!?」
「イリアに公務のお手伝いをさせておいて、私に偉そうに説教するなんて滑稽ね」
「本当に口の減らない女だな……」
エリックの言うことは、確かに妥当な意見だった。だが、父と母に怒られたそのイライラを、無意識のうちにロザミアにぶつけているようにも感じられた。
(イリアは、僕が気づかないところでも、常に学び、自分を磨き続けていた。それに対して、ロザミアはどうだろう? ただ甘えて、ねだって、華やかなドレスに身を包むことしか考えていないじゃないか)
エリックは心の中で、イリアを思い浮かべる。彼女は、いつもひたむきに学び成長している。その姿に、彼は尊敬と少しの嫉妬を感じていた。一方で、ロザミアには苛立ちを覚える。彼女はただ、華やかな衣装を着て、甘えることしか考えていない。イリアのように自分を磨くことなく、ただ美しさに頼るその姿が、彼には物足りなく映った。
「お前がこんなに甘えてばかりいるから、全てが台無しになるんだ!」
「私のせいだっていうの!? 私があなたを誘惑したとでも言いたいの!?」
「そうだと言ったらどうする!」
売り言葉に買い言葉。もはや、どちらも感情を抑えることができなくなっていた。過去に交わした甘い言葉や、情熱的なひとときは夢のように消え失せていた。あの頃、心が弾んだ瞬間や、胸がきゅんとするような思い出は、今では全く思い出すことさえできない。今、目の前にあるのは、ただ醜い罵り合いと、互いに対する深い失望だけだった。
「ロザミア、頼むから少しは考えて行動しろ! お前のせいで全てが狂っているんだ!」
「なんですって! 私だって一生懸命やっているのよ!」
「口答えするな!」
ロザミアがヒステリックに叫び返すその顔は、憎しみで歪んでいた。彼女の目からは、今までの冷静さや優雅さは消え失せ、ただ怒りと憎悪があふれていた。その瞬間、エリックの心の中で、何かがぷつりと音を立てて切れたような感覚がした。
――パァン!
乾いた音が部屋に響き渡った。エリックの手のひらが、ロザミアの頬を打った。その瞬間、ロザミアは信じられないというように目を見開き、言葉を失ったまま固まった。
そして、しばらくしてから、彼女の瞳から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ち、頬を伝いながら静かに流れた。彼女はただその場に立ち尽くし、何も言えずに涙だけを流していた。
「……ひどい……」
泣きじゃくる彼女の姿を見ても、彼の胸の中は不思議なほど冷たくなっていた。涙を流すロザミアの顔を見ても、かつての優しさや愛情は微塵も湧いてこない。心の奥底から温もりが一瞬で消え去り、無機質な冷気だけが残されたかのようだ。
「もう、ロザミアとは終わりだ」
その言葉を口にした瞬間、エリックは何も感じなかった。冷徹にそう言い放ち、振り返ることなく部屋を出た。もう、一刻の猶予もない。イリアの元へ行かねばならない。そう強く決意して足を踏み出した。
「イリアのことばかり考えているから、私に八つ当たりしているのね!」
「黙れ!」
「図星でしょう? どうせ、またあの女のところに謝りに行くんでしょう! 往生際が悪いわ!」
「もう我慢の限界だ!」
エリックの怒りは、今や頂点に達していた。心の中で何度も押さえつけようとした感情が、限界を超えて爆発しそうになっていた。すべてが許せなくて腹立たしい。冷静さを保とうと必死になっていたが、その努力も虚しく怒りが体中に広がり心を支配していった。
「ロザミアは品格を持て! 王子妃になるというのなら、イリアを見習って、それにふさわしい教養や立ち居振る舞いを身につけろ! 公務や雑務を学べ! この数ヶ月、お前は一体何をしていたんだ!」
「自分だって馬鹿で無能なくせに、どうしてそんなことを言うの?」
「なんだと!?」
「イリアに公務のお手伝いをさせておいて、私に偉そうに説教するなんて滑稽ね」
「本当に口の減らない女だな……」
エリックの言うことは、確かに妥当な意見だった。だが、父と母に怒られたそのイライラを、無意識のうちにロザミアにぶつけているようにも感じられた。
(イリアは、僕が気づかないところでも、常に学び、自分を磨き続けていた。それに対して、ロザミアはどうだろう? ただ甘えて、ねだって、華やかなドレスに身を包むことしか考えていないじゃないか)
エリックは心の中で、イリアを思い浮かべる。彼女は、いつもひたむきに学び成長している。その姿に、彼は尊敬と少しの嫉妬を感じていた。一方で、ロザミアには苛立ちを覚える。彼女はただ、華やかな衣装を着て、甘えることしか考えていない。イリアのように自分を磨くことなく、ただ美しさに頼るその姿が、彼には物足りなく映った。
「お前がこんなに甘えてばかりいるから、全てが台無しになるんだ!」
「私のせいだっていうの!? 私があなたを誘惑したとでも言いたいの!?」
「そうだと言ったらどうする!」
売り言葉に買い言葉。もはや、どちらも感情を抑えることができなくなっていた。過去に交わした甘い言葉や、情熱的なひとときは夢のように消え失せていた。あの頃、心が弾んだ瞬間や、胸がきゅんとするような思い出は、今では全く思い出すことさえできない。今、目の前にあるのは、ただ醜い罵り合いと、互いに対する深い失望だけだった。
「ロザミア、頼むから少しは考えて行動しろ! お前のせいで全てが狂っているんだ!」
「なんですって! 私だって一生懸命やっているのよ!」
「口答えするな!」
ロザミアがヒステリックに叫び返すその顔は、憎しみで歪んでいた。彼女の目からは、今までの冷静さや優雅さは消え失せ、ただ怒りと憎悪があふれていた。その瞬間、エリックの心の中で、何かがぷつりと音を立てて切れたような感覚がした。
――パァン!
乾いた音が部屋に響き渡った。エリックの手のひらが、ロザミアの頬を打った。その瞬間、ロザミアは信じられないというように目を見開き、言葉を失ったまま固まった。
そして、しばらくしてから、彼女の瞳から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ち、頬を伝いながら静かに流れた。彼女はただその場に立ち尽くし、何も言えずに涙だけを流していた。
「……ひどい……」
泣きじゃくる彼女の姿を見ても、彼の胸の中は不思議なほど冷たくなっていた。涙を流すロザミアの顔を見ても、かつての優しさや愛情は微塵も湧いてこない。心の奥底から温もりが一瞬で消え去り、無機質な冷気だけが残されたかのようだ。
「もう、ロザミアとは終わりだ」
その言葉を口にした瞬間、エリックは何も感じなかった。冷徹にそう言い放ち、振り返ることなく部屋を出た。もう、一刻の猶予もない。イリアの元へ行かねばならない。そう強く決意して足を踏み出した。
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