「幼馴染が妊娠したから結婚は無理」彼に嘘をつかれ、婚約破棄の責任を押しつけられた

第22話

足元が不安定で呼吸が荒くなる中で、彼はただひたすらにその視線をイリアとアランに向けていた。周りの人々が驚き声をかけようとしたが、エリックの目にはそれが届かない。彼の視界に映るのは、幸せそうに寄り添う二人だけだった。

その瞬間、心の中に湧き上がるものが爆発した。エリックは無意識にその手を前に出し、イリアの方へと歩み寄った。彼の胸は激しく鼓動し、何かを取り戻さなければならないという焦りに駆られているかのようだった。

アランの顔を見ると、彼に対する憎しみが一層深まるのを感じた。過去の自分がどれほど愚かだったのか、今さら後悔しても遅いことは分かっていた。それでも、彼の中で渦巻く感情は理性を圧倒し、もう一歩も退くことはできなかった。

「イリア！　僕だ！　エリックだ！」
　
悪臭を放ち、ぼろぼろの衣服に身を包んだ男が現れた瞬間、イリアは目を見開き驚きを隠せなかった。しかし、その反応はすぐに冷淡な顔に変わり、何事もなかったかのように無関心を装った。

そんな彼女を守るかのように、アランが一歩前に出て鋭い視線で男を睨みつけた。イリアとアランの間には、ただならぬ緊張感が立ち込めているのが感じ取れる。

「君は……エリック元王子か」

「どけ！　邪魔だ！　イリアに用があるんだ！」
　
「何のようだ」

「お前ごときが、僕のイリアに手を出すなんて、許さない！！」

エリックは怒りのあまり、アランを力任せに突き飛ばすと、すぐさまイリアに手を伸ばし彼女の腕を無理やり掴んだ。まるで彼女を自分の物であるかのように支配しようとするかのようだった。

「イリア、頼む！　やり直してくれ！」

イリアはその突然の行動に驚き、すぐにその腕を引き抜こうと必死に抵抗した。しかし、エリックの手は強く離す気配すら見せない。その瞬間、空気が張り詰め緊迫した空間が広がった。

「……離してください」

「僕には、君が必要なんだ！」

彼は、突如として地面に膝をつけ、イリアの足元にしがみつくように泣き崩れた。その姿は、自尊心をすべて捨て去ったかのように、ただひたすらに惨めで哀れだった。イリアはその光景を一瞬見つめた後、冷たい沈黙の中で一歩も動かず彼を見下ろす。

路端の小石を見下ろすかのような冷たい眼差しだった。彼の無様な姿に対して、イリアの心には一切の同情も湧かず、ただひたすらにその姿を軽蔑するような冷ややかな感情が満ちていた。

「私の人生に、あなたはもう、必要ありません」

その言葉はエリックにとって、死刑宣告を受けるよりもはるかに重く耐え難いものだった。心臓を握りつぶされるような感覚で、彼の過去の誇りや自信が、たった一言で音を立てて崩れ落ちた。

「そん、な……」

「あなたは、ご自分の犯した罪の重さを、まだ理解していないのですね。あなたにとって都合のいい、かつての地位と栄光が欲しいだけでしょう」

「イリア、僕は……」

「さようなら、エリック。二度と、私の前に現れないでください」
　
イリアは、エリックの手を冷たく振り払うと、その目を一切動かすことなく、きっぱりとした声で言葉を放った。彼に対する一切の情けを断ち切るかのようだった。そして、アランに支えられながら、振り返ることなくその場を離れていった。

その後、残されたエリックは、ただひたすらに声を上げて泣き続けるしかなかった。その泣き声は、途方もない絶望に包まれているかのように響き渡り、虚しくも無力な子供のように響いた。彼がどれほど叫ぼうと、彼女の背中はもう遠くに消え去り、その響きすら無情に空へと消えていった。

一方、ロザミアの運命もまた、暗く絶望的なものだった。