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第32話

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「……アリスどうしてなんだ……」

アリスは男と恋に落ち、夫のテリーと子供を捨てて駆け落ちした。テリーは肩を震わせて声をあげて激しく泣きじゃくっていた。

「パパ元気出して」

一番上の子供が泣いているテリーに声をかけました。テリーは顔を上げると子供の顔が目に飛び込んできた。アリスと長年不貞をしていた男の顔にそっくりなのです。

子供に罪はありませんが、やはり自分の子供全てがアリスの浮気相手の子供だと、いたたまれない気持ちを募らせた。

テリーは立ち直ることができずに異常者として扱われ、精神病院に入院させられてしまった。だがテリーは緊張から解放されて、全身から力が抜けていくのを覚えた。

「フローラ様が面会におこしくださいました」
「……ああ、通してくれ」

入院してから一週間後、フローラがテリーに面会したいと申し込んだ。フローラも妹のアリスの信じられない行動に、本当に心苦しい気持ちでテリーにお詫び申し上げるために、病室に足を運ばずにはいられなかった。

テリーの身の回りの世話をしている女性が声をかけると、すっかり弱り切った様子のテリーは、小声でぼそぼそと返事をした。

「テリー……」

テリーの変わり果てた姿に、フローラはやれやれという表情で話しかけた。この前はあれほど熱心にアリスへの愛を主張して、テリーはフローラの夫であるレオナルドのことを心が狭いと言い放った。

夫に束縛された毎日を過ごしているのでは?とテリーに言われた時は、フローラは怒りすら感じていた。そのことが原因で、レオナルドは思い詰めた表情へと変わってしまったのです。

「僕は君の自由を制限するような生活を強制しているのか?フローラ正直に答えてほしい」
「この前テリーの言ったことを真に受けないで。私はレオナルドと結婚して幸せよ。なにも不満はないわ」

フローラは心を痛めたレオナルドに、あたたかい思いやりある言葉をかけて、今は少しずつ回復しているところだった。

結局のところアリスは浮気相手と恋の逃避行し、テリーはあっけなく捨てられた。そのことに多少の同情はするが、本音ではいい気味だと思っている。

それにフローラは元々はテリーの婚約者であった。テリーがアリスの甘美な誘惑に負けてしまい、婚約破棄になったのだ。そう考えれば、フローラが心の奥底で舌を出すくらいのことは許されるだろう。
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