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第18話

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「アイラ様、緊張なさらないでください。魔王陛下は優しいお方です」

魔王城に到着した。アイラは魔王との謁見に、さすがに緊張で胸が苦しくなってきた。強張った怖い顔をしていると、フェルディナントが気持ちを思いやり声をかけると、アイラの心が少し軽くなり彼の細やかな気遣いが感じられて嬉しくなる。

エルフたちは温かく迎え入れてくれた。だが魔王はどうだろうか?アイラが不安になるのも当たり前のことです。これから魔王領で生活していくアイラが、何よりもまず好印象を与えなければいけない相手であるのだ。

謁見の間に入ると両サイドに護衛とおぼしき者が並んでいる。少し歩くとフェルディナントと付き添い役としてきた数人のエルフが床に膝をついて身をかがめると、アイラも事前に教えられた通りに同じようにした。

「魔王陛下ランドルフ・ルイヴィアーノ様の御入来!」

補佐役の一人が声を上げると、魔王が登場して用意されていた玉座に腰を下ろした。玉座より一段低い位置には最高幹部が立っている。誰も彼も質のよい男たちで、甘い顔立ちに理知的な美しい顔。アイラは瞳が生まれ変わった思いで目の保養になった。

「王国からの客人アイラ、よく参られた。面をあげよ」

魔王の声は思っていたよりも軽く柔らかな声だと感じて、魔王に命じられるままにアイラは顔を上げて魔王の顔を拝見する。

幹部たちを寄せ付けないほどの眉目秀麗びもくしゅうれいな容姿をした色白で黒髪で、少年のような感じの青年が玉座に座って見つめていた。魔王はアイラが軽いめまいを感じるほど眩しく輝いていて、思わず目を閉じて顔を伏せてしまった。

「アイラどうして顔を伏せる?そんなに余の顔がおかしかったか?」
「陛下申し訳ございません!ご無礼いたしましたあああぁぁーっ!!陛下のお顔があまりにも綺麗で驚いてしまったのです!!!」
「なんだそんなことか……とくに気にしてないから顔を見せてほしい」

魔王が疑問を問いただそうとアイラに尋ねた。アイラは自分がとんでもない失態を演じたことを理解し、罪を責められるのではないかと不安と後悔の色が流れて身体が硬直した。フェルディナントも心配そうに眺めている。

嘘が苦手で根が真面目なアイラは、反射的に本音を話した。自分はなんと正直者なのだろうという気持ちで少し恥ずかしくなり、真っ赤な顔でそわそわと落ち着かなくて心ここにあらずといった感じだった。

頭が悩乱しながら、魔王か誰かに怒られそうな気がすると思っていた。ところが魔王は全然問題にしないという態度で子供らしい無邪気な笑顔を向けて、アイラに顔を上げるように急がせていた。

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新作「誕生日パーティーで婚約破棄を発表された「幼馴染が妊娠したから結婚する!」王子が体を壊して地獄の苦しみを経験する。」を投稿しました。よろしくお願いします。
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