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第11話 男爵家は混乱と不安

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「それで、どんなご用件でしょうか」 

男爵家の当主は不安な表情を隠し切れない様子で声に怯えた響きがあった。隣には夫人が暗い顔をして眼は半ば閉じて生気が感じられない。公爵夫人と伯爵夫人が突然訪ねて来たのです。何か面倒な話ではないかと予感がして、夫婦の心は悲しみの底に沈んで落ち着きなく気が休まらなかった。

自分のような低位貴族に大貴族の奥様方が訪問してくるなんて、あり得ないことで夢をみているような気分でした。主人でもそんな気持ちなのですから、最初に対応したメイドも思いがけないお客様にハッと立ちすくむほど驚いた。アメリアに大丈夫?と声をかけられると気を取り直して旦那様のお部屋の方へ急ぎ足で歩いていく。

主人から屋敷の一番いい部屋にお通しするように命じられましたが、結晶みたいにキラキラ光を放っている完成された奥様方の存在感は凄まじく、一番いい部屋に案内しても所詮は貧しい男爵家なので、二人に比べて見劣りしていることを気にする。

メイドは今まで見たことがないアメリアとエリーの身につけた高価なアクセサリー類の宝石に視線が釘付けになっていた。

「お嬢さんはいるかしら?」
「えぇ!?娘のナタリアが何か失礼な事をいたしましたか?」

アメリアは冷静な声で言葉を発したが、男爵家の主人は全身にいい知れぬ寒気が走った。正面から見ても相当な美人の奥様に緊張しながら、命の縮む思いで低く抑えて声を出した。娘に用事があるらしい?予想外の言葉に動揺する。

「あなたは何も知らないようね」
「あの、一体どんな理由で?」

男爵家の夫婦は娘のナタリアは誰にも迷惑をかけるような育て方はしていないという自信があった。ナタリアがみんなに褒められる事があっても悪い評判を聞いたことがないからです。自分たちの娘にしては勿体ないほどの美人で真面目な性格でよく出来た娘だと常々口にし感心している。

貧乏貴族の家に生まれたばかりに学園の寮費も払えず、馬車すらないので毎朝早く起きて出発する娘の後ろ姿を見送りながら、ずいぶん苦労をさせているなと夫婦はナタリアに申し訳ないという気持ちでした。

それでも明るく柔らかな笑顔を振りまいてくれる娘に、将来は幸せな人生を送ってほしい。家は貧乏でも幸いなことに娘は整った美しい顔立ちなので、上位の有力貴族に何らかの形で関わって見初められ寵愛ちょうあいされて正妻として迎えられないかなと心から願ってやまない。

「お嬢さんも交えて話したいと思いますのでここへ連れて来なさい」
「承知いたしました。すぐにナタリアを呼びます」 

華やかに着飾っている圧倒的な迫力を放つ奥様は少し怒った感じで娘を呼べという。心の隅まで貫くような鋭い視線を向けられた主人は、椅子から飛び上がって慌てふためいてナタリアを呼んでくるようにメイドに強い口調で言った。
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