婚約者の家に行ったら幼馴染がいた。彼と親密すぎて婚約破棄したい。

佐藤 美奈

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第22話

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「カイン様は離婚するのだろうか…」

自室の窓から外を眺めるジャック。空は深い雲に覆われて天気は悪く今にも降り出しそう。エリザベスの両親のカインとヴィクトリアが夫婦として成立しているのか気がかりな表情で物思いにふける。

ヴィクトリア夫人は占い師を狂信的に信じている感じだった。病気なら治療すれば治るけど、疑う余地もなく体の芯まで病的に歪んだ魂を抱えている場合は難しいと思う。

自分は正しいと思ってる人が相談して悩みを聞いてもらい精神の治療を受けても希望が見えて問題が解決することはない。

「ジャックちゃん!来たわよーーーー!」

突如として耳の中に飛び込んで来た鳥類の高音のような女性の声。予期した通りエリザベスの母親のヴィクトリアでした。

隣に知らない女性がいた。年齢は30歳くらいの細身のモデルみたいな長身の女性で清らかな美人だが限りなく冷たい表情で沈黙している。巫女装束に身を包み真剣な雰囲気が漂う。

「ヴィクトリア様、本日はようこそおいでくださいました」

一階に下りると既に両親が床に額をつけて這いつくばっていた。そんな姿の両親に視線を落とすと悲しみに打ちひしがれる。もう簡単には直らない長年に及ぶ身体に染み付いた癖だと思い悲しみを乗り越えてジャックは納得する。

「こちらは私が心からお慕いし神のごとく尊敬しているモニカ先生です」

どうやらヴィクトリアは占い師を連れて来たようだ。娘のエリザベスに妙なことを抜かしクロエへの恋愛対象の意識を植え付けた原因となる人物。

紹介されたモニカは気取った風な表情で軽く一礼をすると、何もかも見透かすような視線でジャックを穴のあくほど凝視し見定めると指し示す。

「この人の本来の霊魂は女性です。けれど星の巡り合わせがズレてしまい男性として産声を上げたのです」

初っ端から常識を突き抜けたとんでもない事を言い放つモニカ先生。ジャックは呆れ果てて怒りすら忘れ口を開け心ここにあらずでぼんやりした顔つきで停止してしまう。

「お前本当は女だったのか!」
「ジャックは女の子だったんだね!」
「何ふざけたこと言ってるんだよ!僕は男だから!」

占い師モニカの無責任な根拠の欠片もないお告げを頭から信じてかかる両親に、ハッと我に返ったジャックは大げさなほど不満を爆発させてがむしゃらに反論した。

「こちらを御覧なさい!」
「いい加減にしろよ!なんでそんなもの持ってるんだよ!」
「この方とエリザベスは運命によって太い絆で結ばれています。二人の意向を無視して繋がりを断つ事は神が許しません!」
「変なことを発言するな!」

続いてモニカ先生はどうやって手に入れたのか不明だがクロエの写真をおもむろに懐から取り出す。そしてエリザベスとクロエがどんなに運命的に引き寄せられたのか熱弁をふるう。

純粋で疑うことを知らない両親におかしな事を吹き込まれた息子は噛みつく勢いで怒鳴りつける。更に恋人のクロエの写真を持って世迷いごとを抜かしているのもジャックが怒りの限界を突破したきっかけになる。
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