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第27話

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「ハリー、体には気をつけて元気で過ごしてね」
「えっ……?」

ゆったりと落ち着いた表情のイリスは言葉を発しながら、冷静に観察している。ハリーは気の抜けた声で反応した。

あまりにも予想外のことを言われて、ハリーの顔は明らかに動揺している。イリスは自分を助けるために、この場に駆けつけてくれたのではないのか?どうして健康を気遣うような言葉をかけてきたのか?

さよならも言わずにハリーと離婚するのは、イリスとしては一生の心残りになってしまう。なのでイリスは別れの挨拶をするために急いでやってきた。

「愚かな息子よ。何を間抜けな顔をしているのだ?」

国王がおもむろに口を開いて語り出した。物分かりが悪い息子だな?みたいな顔である。

「お父様、イリスは僕の危機を救ってくれるのではないかと思いまして……」
「はぁー、お前は何をふざけた事を言っている。それよりもイリス嬢に深く感謝するのだぞ」

重大な危機に直面しようとしている自分に、イリスは手助けをするつもりなのだろう。ハリーはごく自然な調子で答えた。

国王は自分の息子の浅はかな考えに、ちょっと呆れたような顔をしてため息をついて、イリスに厚く礼を述べなさいと貫録のある声質で言う。

「イリスに感謝?お父様それはどうしてでしょう?」
「まだ分からんのか?」
「はい……」

イリスと父の話を聞く限り、どうやら自分を助ける気持ちはないらしい。そんな訳で父からイリスに感謝の言葉を述べろと言われても、ハリーはどうして感謝しなければならぬのか分からなかった。

「イリス嬢の慈悲でお前の大事なエレナ嬢が処刑されずに済んで、エレナ嬢の家も無事安泰だ」
「お父様それを早く言ってください!イリスもエレナのことを許してくれてありがとう」
「う、うん」

エレナは無罪。イリスとの離婚を引き起こす原因を作ったエレナに罪を問わない。そう聞いたハリーは驚きと嬉しさで胸は一杯だった。

自分とエレナは逆転勝利を収めたのだと愛想のいい笑顔に変わる。張りのある声でイリスに対して、どんなに感謝してもしきれないと思いつつ、とにかく頭を下げてお礼を言い続けるがイリスは戸惑った感じで答えた。

「イリス本当にありがとう」
「いえ……そんな……」
「イリスほど素晴らしくて心が広い女性はいないよ」

感謝にあふれた心で、ひたすら祈りを捧げてイリスという女神にありがとうと言った。ハリーは混じり気のない幸福な顔で涙を流しながら謝意をこめる。

だが先ほどからイリスは気の毒そうな目でハリーを見ると、少し顔を伏せて返事をする。あれ?なんでそんな申し訳ないような態度を見せるのかとハリーは不思議に思うのだった。
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