妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈

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第29話

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(セリーヌが? 皇帝、ルドルフと?)

信じられない思いが胸に広がった。どんな事情があって婚約したのか、ブラッドには全く理解できない。

頭が理解を拒絶するかのように重く、混乱が広がっていく。耳鳴りがして、目の前の景色が白くかすみ、何もかもが遠く感じられる。隣に座る父の驚きと困惑の声が、まるで水の中から聞こえるように、ぼんやりと耳に届くだけで言葉の意味すらうまく掴めない。彼の心は、その事実を受け入れられなかった。

(嘘だ。何かの間違いだ。セリーヌが、どうして? あの男は、俺から国を奪った男だぞ。だが、そのおかげで、国は平和を取り戻すことができた。民たちの顔には、再び笑顔が戻り、生活にも安定が訪れた。属国となってしまったが、それでも俺は王族としての地位を失わずに、今もなおその立場を維持し続けることができているし……いや、俺の敵だ! その男と、結婚するなんて許せない)

ブラッドの心は、複雑な思いでいっぱいだった。喜びや怒り後悔が交錯し、それぞれが互いに絡み合って、どれが本当の感情なのか分からなくなるほどだった。状況を冷静に見つめようとすればするほど、心の中で揺れ動く感情が強くなり、その混乱にどう向き合うべきか、答えが見つからないままでいた。

しかし、最終的に彼は、結婚することだけは絶対に許せないという結論に至った。その思いが強く心の中に根を張り、どんな理由があろうとも、その決断を覆すことはできないと感じていた。

使者は、誇らしげに言葉を続けた。

「両家の結びつきは、ひいては帝国と王国との間で、より一層強固な友好関係を築くいしずえとなることでしょう。来る祝賀会には、国王陛下、王妃陛下、ならびに王子殿下にも、ぜひご臨席賜りたく、心よりお願い申し上げます」

ブラッドは、よろめくように席を立つと、誰からの制止の言葉も耳に入れず、その場を離れ急いで廊下を走り抜けた。足音が響く中、彼は自室に駆け込むと、息を乱しながら扉を閉めすぐに鍵をかけた。

その瞬間、外の世界との繋がりを断ち切るかのように、彼は深く息をつき静かな部屋の中でただひとり、気持ちを落ち着けようと必死に心を整えていた。

「ああああ……ああああああああああ……!」

声にならない叫びが、喉の奥から漏れ出し、ブラッドの心の中で湧き上がる苦しみが身体に現れた。その瞬間、彼は何もかもを受け入れられず、ただ壁に背を預けるようにして、力なくその場に崩れ落ちていった。

膝が地面に触れると、彼の体は一気に力を失い、まるで全ての重圧が一気に押し寄せたかのように、静かな部屋の中で沈黙とともに深い絶望感が広がっていった。

あの日、セリーヌとクロエに拒絶されたことが、ブラッドの心に深く刻まれた。しかし、どこかで、まだその現実を信じることができなかった。時間が経てば、彼女たちの怒りも次第に和らいでいくはずだと、どこかで淡い期待を抱いていた。

彼は心の奥底で、いつかまた家族としてやり直せる日が来るのではないかという、虫のいい希望を捨てきれずにいたのだ。その希望が、彼の心を支え続けていたが、それが今、目の前で粉々に砕け散った。どんなに願っても、どれだけ時が経っても、彼女たちとの関係は戻ることはなく、その現実が一気に押し寄せてきた。

「セリーヌは、ただ俺を捨てただけではなかった。俺の王国を支配する者の腕の中に、自ら飛び込んでいった」

その瞬間、セリーヌの行動は、ブラッドに対する最大級の軽蔑であることが明らかになった。彼は、まるで彼女が自分が失ったものを手に入れたことに満足し、高らかに笑っているかのように感じた。

その姿を想像した時、ブラッドの中であったはずの愛情は、たった一瞬で憎しみに変わり、怒りと悔しさが止めどなく湧き上がってきた。胸の中でその感情が爆発しそうになり、彼はそのすべてを受け入れることができず、ただただ心が締めつけられる思いに囚われていた。
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