婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

第7話

「ごめんなさい。今は、誰とも付き合う気になれないの」

心の中で渦巻き、私の声がふるえて漏れた。その言葉を口にした瞬間、自分でも少し胸が痛んだ。でも、どうしても今は彼に答えることができなかった。カイルは表情を曇らせたが、それでもすぐにいつもの明るい笑みを浮かべた。

「別にいい。お前が頷くまで、毎日言うだけだから」

本当に、この人は諦めることを知らない。それが、私にとっては、嬉しいような少し戸惑うような、複雑な気持ちを引き起こしていた。彼の一途さが、どこかで心を温かくもしてくれる一方で、少しだけ重く感じる瞬間もあった。それでも、彼の言葉が心に響くたび、どうしても逃げられないような気がしていた。

学園は、私にとって戦場のようだった。廊下を歩けば、どこからともなくひそひそ声が耳に入る。

「あの子よ、フレックス様に捨てられた」
「妹に取られるなんて、惨めよねぇ」
「姉として、どれだけ悔しかったかしら」
「ちょっと痛々しいわね」
「姉としてのプライドが完璧に壊されてしまった感じがしますわ」

その言葉は、鋭い刃物のように私の心を切り裂き、周りの目がすべて私を面白おかしく見ているような気がして、胸が締めつけられる思いだった。

「キャー！　カイル様！」
「今日も素敵ですわ！」
「カイル王子、そんな冷たい表情でも魅力的ですね！」
「ああ、カイル様、あなたが近くにいるだけで胸が高鳴ります！」
「氷の王子様って、どんな瞬間でも魅力があふれていますわ！」
「カイル殿下、ほんとうに憧れます！」

そして、その輪の中心には、いつもカイルがいる。彼の姿は他の何よりも目立ち、どんな瞬間も周囲がすべて彼を見ているかのような空気を作り出していた。

黄色い歓声に囲まれ、彼はそのために生まれてきたかのように、完璧に『氷の王子様』を演じていた。冷たい視線を投げるその姿は、誰にも興味がないかのようで、周りの存在すべてを無視しているかのように見える。もちろん、私にも。すれ違うとき、ほんの一瞬だけ目が合うけれど、その瞳はすぐに逸らされる。

そのたびに、胸の奥がずきりと痛んだ。家で一緒にいるときの、あの優しいカイルはどこにもいない。あの柔らかい笑顔も温かい手も――すべてが演技だと分かっている。彼がそうしているのは、私を守るためだということも分かっている。

もし、私が彼と付き合ったら、この黄色い歓声が嫉妬に変わって私に降りかかるだろう。その視線が、私を責めるように、私の心を締めつけるだろう。その覚悟ができるまで、私はまだカイルと付き合いことができない。