婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

第25話

結果、カイルとイザベラは、ぶっちぎりの一位でゴールした。周囲の期待を一身に受けた二人は、理想的なカップルのようにゴールラインを越えた。その瞬間、イザベラはもう我慢できず、喜びを爆発させるようにカイルの腕に絡みつき笑顔を浮かべた。

「やりましたわね、カイル様！　私たち、最強で相性も最高のペアですわ！」

彼女の声は、高らかに響き、周りの視線を一層引き寄せる。

ゴール地点には、すでに人だかりができていた。参加者や観客が集まり、どこもかしこも歓声で包まれていた。私はその人垣の後ろから、固唾を飲んで二人の様子を見守っていた。心の中で、どこか冷めた気持ちを抱えながら、無意識に目をそらすことができなかった。

「それにしてもカイル様、お題は一体なんだったのですか？　もしかして、『カイル様の好きな人』とか『学園で一番美しい人』とかですか？」

イザベラは勝利の女神気取りで、カイルに甘えるように問いかけた。彼女の自信満々な表情は、自分が恋人であることを当然のように思っている。

彼女は本気でそう思っているようだった。あまりにも自信に満ち溢れていて、その姿勢がただ痛々しく感じられた。イザベラは、カイルから恋人としての宣言を期待しているかのような様子だ。

会場の誰もが、カイルの甘くて優しい答えを期待しているその時だった。カイルは、イザベラの腕を冷たく振り払うと、氷点下のような冷徹な声で言い放った。

「――『嫌いな人』だ」

その言葉は、周囲の空気を凍結させ、誰もがその意味を呑み込むことができずに立ち尽くした。イザベラは、一瞬にして喜びの表情が消し飛び、動きが凍りついた。彼女の自信が、無慈悲に打ち砕かれた瞬間だった。

沈黙が場を支配した。その沈黙を破ったのは、どこからともなく漏れ始めたくすくすという笑い声だった。少しずつ、その声は広がり、やがて周囲の誰もが、イザベラの困惑した様子を楽しんでいることがわかる。

イザベラの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていき、火照ったように頬が赤くなった。その様子はまさに、穴があったら入りたいという表現がぴったりだろう。

「そ、そんな……！？」

彼女は、信じられないという表情で、震えるようにカイルを見上げた。彼女の目には、驚きと少しの怒りが交じった感情が浮かんでいる。そして、悔しそうに食い下がった。

「では、『好きな人』は、誰なのですか！」

その言葉が発せられた瞬間、私の心臓がまたきゅっと痛んだ。心の中で叫びたくなる。もうこれ以上は聞かないでと。イザベラ、もう口を閉じて。あなたは振られたのだから、その事実を受け入れてほしい。

けれど、カイルはそんなイザベラには目もくれなかった。彼の視線は、ただ一方向に向かっていた。周囲の喧騒を一切無視するかのように、彼は人垣を越えて、まっすぐに私だけを捉えていた。その視線の先に込められた思いに、私は一瞬で心を奪われた。

「好きな人なら、あそこにいる」

そして、カイルははっきりと、周りに聞こえる声量で言った。その言葉に、イザベラは目を見開き、驚きとともに反応を返した。

「え！？　誰ですの？　あんなに大勢の生徒がいては……」

カイルはその質問に答えることなく、私だけを見つめながら、とろけるように甘い優しい笑顔を浮かべた。その笑顔は、周りにいる誰にも向けられていない。ただ私だけに向けられた特別な笑顔だった。