婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

第24話

運動会当日。空は、皮肉なくらいに青く澄み渡り、その晴れ渡る空が私の不安をさらに際立たせているかのようだった。応援席から伝わってくる熱気と歓声が、私の胸の中で不安の波を広げていく。これから繰り広げられる競技が、私を試すように感じられた。

私の視線は、ただひたすらにトラックのスタートラインに立つカイルに向けられていた。その姿だけを追い、心の中で無意識に願いを込めていた。

（カイル、頑張って！）

そして、運命の借り物競争が始まった。パーン、という号砲の音が響き渡り、一斉に選手たちが駆け出す。カイルも、その長い脚を軽やかに使い、他の選手たちを引き離しながら進んでいった。

中間地点に差し掛かると、カイルは急いで地面に落ちたお題の入った紙を拾い上げる。私の胸の鼓動が速くなり、心臓が早鐘のように打ち始める。

（お願い、どうか私に関するお題でありますように……）

目を閉じて、心の中で必死に祈る。落ち着かない気持ちで、ただカイルの動きを目で追いながら、その祈りが届くことを信じたかった。何度もその言葉を繰り返しながら、胸の中で強く願う自分がいた。

だが、次の瞬間、カイルが向かった先は――私が望んでいたものとは全く違う方向だった。カイルはイザベラがいる応援席に向かって走っていった。

「嘘でしょ……」

それを見た私は、思わず呆然と呟いた。私の目の前で、世界がスローモーションになる。カイルがイザベラに手を差し伸べる。イザベラが嬉しそうに、その手を取る。そして、二人は手を取り合って、ゴールに向かって走り出す。

「キャー！」

周囲の黄色い歓声が、耳鳴りのように遠く聞こえる。ああ、やっぱり。イザベラのことが好きなんだ。私への態度は、全部気まぐれだったんだ。絶望が冷たい水のように、足元から私を浸していく。

ただの借り物競走なのに、この時、私の頭の中は混乱の渦に巻き込まれたかのようだった。二人の姿を見ると、どうしても冷静さを保てなくなる。頭の中でネガティブな思考が次々と湧き上がってきた。カイルがイザベラと楽しそうに走っている姿を見て、私は無意識にその背中に対して嫉妬を抱いていた。

実際には、イザベラは満面の笑みを浮かべていたが、カイルは、いつも以上に冷徹な表情で感情を消し去ったような顔をしていた。

私は涙が滲んで視界がぼやけ、目の前の景色が徐々に歪んでいく。しかし、まさにその時だった。走りながらカイルが私の方を見た。その目線が私と交わった瞬間、カイルの顔に浮かんだのは、あのニヤリとした笑顔だった。

その表情は、いつもと変わらない意地悪な笑み。しかし、私だけに向けられた特別な何か意味を込めたような笑顔だった。

（あれは……？）

私の心は瞬時に疑問でいっぱいになった。この状況で、彼がそんな表情を私に見せるなんて、どういうことだろう。思考が整理できないまま、私は走り去る二人の背中を、ぼんやりと眺めているしかなかった。