婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

ぱんだ

文字の大きさ
23 / 42

第23話

しおりを挟む
イザベラからの挑発に振り回され、もやもやとした日常が続く中で、私の生活に一つの転機が訪れた。それは、学園で開催されることになった伝統の運動会のことだった。

クラス対抗でさまざまな競技が繰り広げられるというそのイベントに、学園全体がどこか浮き足立っているのがわかった。普段はあまり盛り上がらない学生たちも、この時ばかりはどこかウキウキとした雰囲気に包まれている。

「借り物競争、出るんだって?」

夜、いつものように私の部屋で、ソファに寝そべりながら本を読んでいたカイルに尋ねてみた。私たちは、何も気にせずに話せる関係なので、自然と遠慮なく、思っていることをそのまま口にしてしまう。

「ああ。くじで当たった。あまり気乗りしないが」
「どんなお題が出るんだろうね」
「さあな」

彼は無表情で、どこか面倒くさそうに答えた。それでも、ちらりと私の方へ視線を送ってきた。その視線には、どこか意地悪い輝きが宿っていて、私をわざと気になるようにさせる。次の瞬間、彼は冷たく笑みを浮かべながら続けた。

「……まあ、お前にだと楽しめるけどな」

その一言に、私の胸は予期せぬほど激しく高鳴り始める。期待と不安が入り混じり、心臓がドキドキと音を立てて、跳ねるように速くなるのがわかる。自分でも、こんなことで心が揺れ動くなんて単純すぎると分かっている。

だが、どうしようもなく、彼の言葉ひとつで私は天国にでも地獄にでも引き寄せられるような気持ちになる。彼が発したその言葉が、私をどこへでも連れて行けるような力を持っていると感じるのだ。

こんな風に、たった一言で心が動かされてしまう自分が、どうしようもなく情けなくもあり、同時に彼に強く惹かれている証拠だと思う。



一方、その頃、私の知らないところで、まったく別の物語が静かに進行していた。運動会を間近に控え、学園の雰囲気が高揚する中で、ユリアの物欲は次第にエスカレートしていった。

競技に向けた準備で騒がしい日々の中、彼女の心はただ一つ、贅沢を求める欲望に支配されていた。新しいドレス、輝く宝石、次々に欲しいものを手に入れようとする姿勢には、学園の生徒たちの間で誰もが注目するほどの勢いを誇っていた。

「ねえ、フレックス様。わたくし、応援に行くために新しいドレスが欲しいわ。それから、この宝石、ドレスにぴったりだと思わない?」

ユリアの甘い声が、フレックスの耳に届く。その声に誘われるように、彼は一瞬ためらいながらも、かなり無理をしてでも彼女のために完璧な笑顔を浮かべる。そして、少し固くなった表情をなんとか保ちながら優雅に答えた。

「もちろんさ、ユリア。君のためなら、なんだって買ってあげるよ」

その言葉には、どこか自信に満ちた響きがあった。彼女のためなら何でもできるという確信を持っているかのようだった。しかし、ユリアの前で完璧さを演じ続けるフレックスの心の奥には、深い疲労の色が隠れていた。

ユリアの無駄遣いは、彼の小遣いの範囲を遥かに超えており、それが次第に彼の手に負えない問題へと発展していた。彼女からの度重なるおねだりに、フレックスはもう、パブロフの犬のように条件反射で胃が痛むようになっていた。

ユリアが何かを頼むたび、彼は胸の奥で不安と胃の痛みを感じ、身体が折れそうになるような感覚を覚えていた。それでも、彼は彼女の笑顔を思い浮かべながら、無理をしてでも応えようとする自分に苦しんでいた。

「エリーゼと婚約していた頃は、こんな苦しみを感じることは一度もなかったのに……」

フレックスは、一人になると、毎日のように過去と現在を比べていた。エリーゼとの穏やかな日々と、今の複雑で重い状況にどうしても焦点を合わせてしまう。そして、心の奥底には後悔の気持ちがじわじわと湧き上がっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「華がない」と婚約破棄されたけど、冷徹宰相の恋人として帰ってきたら……

reva
恋愛
「貴族の妻にはもっと華やかさが必要なんだ」 そんな言葉で、あっさり私を捨てたラウル。 涙でくしゃくしゃの毎日……だけど、そんな私に声をかけてくれたのは、誰もが恐れる冷徹宰相ゼノ様だった。 気がつけば、彼の側近として活躍し、やがては恋人に――! 数年後、舞踏会で土下座してきたラウルに、私は静かに言う。 「あなたが捨てたのは、私じゃなくて未来だったのね」

地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva
恋愛
「君と一緒にいると退屈だ」――そう言って、婚約者の伯爵令息カイル様は、私を捨てた。 選んだのは、華やかで社交的な公爵令嬢。 地味で無口な私には、誰も見向きもしない……そう思っていたのに。 失意のまま辺境へ向かった私が出会ったのは、偶然にも国中の騎士の頂点に立つ、最強の聖騎士団長でした。 「君は、僕にとってかけがえのない存在だ」 彼の優しさに触れ、私の世界は色づき始める。 そして、私は彼の正妃として王都へ……

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

地味令嬢の私ですが、王太子に見初められたので、元婚約者様からの復縁はお断りします

reva
恋愛
子爵令嬢の私は、いつだって日陰者。 唯一の光だった公爵子息ヴィルヘルム様の婚約者という立場も、あっけなく捨てられた。「君のようなつまらない娘は、公爵家の妻にふさわしくない」と。 もう二度と恋なんてしない。 そう思っていた私の前に現れたのは、傷を負った一人の青年。 彼を献身的に看病したことから、私の運命は大きく動き出す。 彼は、この国の王太子だったのだ。 「君の優しさに心を奪われた。君を私だけのものにしたい」と、彼は私を強く守ると誓ってくれた。 一方、私を捨てた元婚約者は、新しい婚約者に振り回され、全てを失う。 私に助けを求めてきた彼に、私は……

私を捨てた婚約者へ――あなたのおかげで幸せです

reva
恋愛
「役立たずは消えろ」 理不尽な理由で婚約を破棄された伯爵令嬢アンナ。 涙の底で彼女を救ったのは、かつて密かに想いを寄せてくれた完璧すぎる男性―― 名門貴族、セシル・グラスフィット。 美しさ、強さ、優しさ、すべてを兼ね備えた彼に愛され、 アンナはようやく本当の幸せを手に入れる。 そんな中、落ちぶれた元婚約者が復縁を迫ってくるけれど―― 心優しき令嬢が報われ、誰よりも愛される、ざまぁ&スカッと恋愛ファンタジー

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

reva
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

あなたが「いらない」と言った私ですが、溺愛される妻になりました

reva
恋愛
「君みたいな女は、俺の隣にいる価値がない!」冷酷な元婚約者に突き放され、すべてを失った私。 けれど、旅の途中で出会った辺境伯エリオット様は、私の凍った心をゆっくりと溶かしてくれた。 彼の領地で、私は初めて「必要とされる」喜びを知り、やがて彼の妻として迎えられる。 一方、王都では元婚約者の不実が暴かれ、彼の破滅への道が始まる。 かつて私を軽んじた彼が、今、私に助けを求めてくるけれど、もう私の目に映るのはあなたじゃない。

家も婚約者も、もう要りません。今の私には、すべてがありますから

reva
恋愛
「嫉妬深い女」と濡れ衣を着せられ、家も婚約者も妹に奪われた侯爵令嬢エレナ。 雨の中、たった一人で放り出された私を拾ってくれたのは、身分を隠した第二王子でした。 彼に求婚され、王宮で輝きを取り戻した私が舞踏会に現れると、そこには没落した元家族の姿が……。 ねぇ、今さら私にすり寄ってきたって遅いのです。だって、私にはもう、すべてがあるのですから。

処理中です...