婚約者を妹に取られた私、幼馴染の〝氷の王子様〟に溺愛される日々

第22話

カイルの隣の席を譲ってあげたのに、どうしてこんな挑発をするのだろう？　私が心からの好意で席を譲ったというのに、彼女はその善意を無視するかのように、あからさまに煽ってきた。

私が彼と話すことを遠慮しなくてはいけないとでも思っているかのような態度。私の気持ちを込めてした行動が、仇で返されたような気がして、胸が締め付けられる思いだった。

その場で「……いいえ、そんなことは」と口を開くのがやっとだった。しかし、心の中では悔しさがこみ上げてきて、言葉がうまく出てこなかった。確かに、私はカイルと話したかった。彼の隣に座りたかった。けれど、それが私の無意識の欲望だったということを、彼女はすでに見抜いていた。計算高いシンデレラのような彼女に、私は完全に引っかかってしまった。

「そうですか？　でも、とっても残念そうなお顔をなさっていましたわよ」

最後にイザベラは冷ややかな一言を投げて、その場を離れていった。私はその言葉に何も言い返すことができず、ただ唇を噛みしめるしかなかった。それが、全て事実だったからだ。

数日後、思いもよらぬ事件が起きた。

イザベラが、教科書を忘れたと言い出したのだ。当然、わざとだった。

「申し訳ありません、カイル様。もしよろしければ、教科書を一緒に見せていただいてもよろしいでしょうか？」

「ああ」

カイルは、うんざりした表情を浮かべながら短く答えるだけだった。それからというもの、イザベラは何かと理由をつけて一日中、カイルの隣にぴったりと寄り添っていた。私の席からは、二人が楽しそうに囁き合っているように見えた。

実際には、カイルが一方的に質問に答えているだけだったのだろうが、それでも私の心はどんどん痛んでいった。鋭いやすりでじりじりと削られているように、じわじわと心が痛み続けた。

あの時、あの瞬間に、もし私が断っていれば。もし勇気を出して「嫌だ」と言えていれば……。後悔の念が、黒いインクのように私の心の中で広がり、暗い影を落としていった。

そして、その日の帰り際、イザベラは私に追い打ちをかけてきた。周りに誰もいないことを確認した彼女は、私の近くに寄り、耳元でひそやかに語りかけた。

「ねえ、エリーゼ様、『氷の王子様』って、もしかしたら、私のことに気があるのかもしれませんわ。あなた、私の恋愛を“応援”してくださる？」

その言葉が耳に届いた瞬間、私の頭は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。心の中で、もう一人の私が絶叫する。

「違う！　カイルはあなたのことを、ただの邪魔者だと感じているのよ！　本当に、うざいと思っているんだから！　カイルが求めているのは私だけよ！　あなたには分からないでしょうけど、毎晩、彼は私の家に訪れて、『氷の王子様』の顔を捨てて、優しく微笑んで私にだけ愛を注いでくれるのよ！」

全力で叫んでいたが、心の中なのでその声はどこにも届かなかった。私はただ、言葉を失い、青ざめて立ち尽くすことしかできなかった。

イザベラは、私の反応をじっと見つめながら、勝ち誇ったかのように冷ややかな笑みを浮かべ、満足げにその場を去っていった。彼女の足音が遠ざかる中、私はひとり廊下に残され、胸の中で溢れる感情をどうしようもなく抱えた。

涙がこぼれそうになるのを必死に堪えながら、ただ虚脱感に囚われたまま、しばらくその場から動けずにいた。