地方の田舎に住む女性、妹に幼馴染の彼をとられたけど、生徒に溺愛される医療魔法師

佐藤 美奈

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第3話

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誘惑、という言葉が一番しっくりくる。ローラはエリオットを誘惑したのだ。たとえば、こんなふうに。

「エリオット様、見てください。こんなに難しい治癒魔法も、私、使えるようになったんです」

ローラは、ほんの些細な切り傷を、大げさな詠唱で治してみせる。本当は、私が昨日教えたばかりの初歩的な魔法なのに。

「すごいじゃないか、ローラ! セシリアよりも才能があるんじゃないか?」

エリオットは、心から驚き、彼女のことをほめたたえた。彼は魔法の専門家じゃないから、その価値なんて分かりはしない。

「お姉様は……その、基本に忠実すぎて、応用が利かないというか…… 私、もっと新しい、王都で流行っている魔法を学びたいんです。エリオット様、私を王都に連れて行ってくださらない?」

上目遣いで、彼の服の袖を掴む。そんなあからさまな仕草に、彼は簡単に心を揺さぶられる。

「もちろんだとも。君のような才能ある女性が、こんな田舎に埋もれていてはいけない」

二人の世界が出来上がっていくのを、私はただ呆然と見ていることしかできなかった。ローラは、エリオットの前でだけ、可憐で才能あふれる少女を演じきった。そして、まんまと彼を手玉に取ったのだ。

婚約破棄を告げられた日、エリオットの隣で、ローラは幸せそうに微笑んでいた。

「お姉様、ごめんなさい。でも、これが私たちの幸せなの」

そう言って、エリオットの頬にキスをする。エリオットも満更ではない顔で、彼女の腰を抱き寄せた。まるで、一編の恋愛劇を見せられているような気分だった。主役は二人で、私は舞台袖からそれを見つめるだけの、惨めな脇役。

「王都で、ローラと新しい生活を始める。……今まで、すまなかった」

それが、私が彼から聞いた最後の言葉だった。二人は、本当に幸せそうに王都へと旅立っていった。伯爵家の彼と、私の可愛い妹。お似合いの二人じゃないか、なんて、心にもないことを考えて、私は一人、この田舎町に取り残された。

あれから数年。私の心についた傷は、完全には癒えていないけれど、分厚いかさぶたで覆われている。もう、あの二人のことは考えないようにしよう。私はこの穏やかな日常を、静かに生きていければそれでいい。

そう、思っていたのに。

私の静かな日常は、ある日、一台の豪華すぎる馬車によって、あっけなく終わりを告げることになる。
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