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第7話
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しぶしぶ承諾するしかない私を見て、レオナールは心底嬉しそうに微笑んだ。そして、おもむろに自分の首元から、古びた革紐で繋がれた小さなペンダントを取り出した。
「ところで先生、これを覚えていますか?」
彼が手のひらに乗せて見せてくれたのは、小さなメスをかたどった、手作りのチャームだった。それは、彼が王都に行くときに、私がお守りとしてプレゼントしたものだ。不格好で、安物で、とてもじゃないけど、今の大典医様が身につけるような代物じゃない。
「これは、僕の宝物です」
「……こんな安物じゃなくて、もっといいものを身につければいいのに」
「先生にいただいた、これがいいんです!」
レオナールの力強い言葉に、私の胸がきゅっと締め付けられる。彼は、ずっとこれを。私が忘れてしまっていたような、小さな思い出を、宝物のように大切にしてくれていたなんて。
ふと、私の脳裏に、遠い日の記憶が蘇る。王都へ旅立つ前日、彼は私の教室に一人でやってきた。
『先生、僕、王都へ行っても、絶対に先生のこと忘れません』
『ありがとう、レオ。頑張るのよ』
『はい! あの、先生!』
『なあに?』
彼は、顔を真っ赤にして、一生懸命に言葉を紡いだ。
『僕、先生に教えてもらった医療魔法の技術で、王都で一番偉くなったら……その、必ず先生を迎えに来ます! その時は、僕と、結婚してください!』
子供の、勢いだけの約束。私は微笑ましく思って、『あら、嬉しいわ。楽しみに待ってるわね』なんて、軽く受け流したはずだった。
まさか、彼は。
あの時の言葉を、本気で……?
目の前のレオナールの顔を見ることができない。私の心臓は、まるで洗濯機みたいにぐるぐると回っている。妹に幼馴染の婚約者を奪われて失恋の傷で、かさぶただらけだと思っていた心が、じんわりと温かくなっていくのを感じる。
その夜、実家に帰って両親に事の次第を話すと、二人は驚きながらも、私の背中を押してくれた。
「セシリア、行きなさい。お前は、こんな田舎で終わるような子じゃない」
「お母様……」
「私たちは、お前にずっと申し訳ないと思っていた。ローラのこと……あの子を甘やかして育ててしまったせいで、お前を深く傷つけてしまった。エリオット様とのことだって、本当なら私たちがもっと強く……」
母は、涙ぐみながら私の手を握った。父も、隣で静かに頷いている。
「お前の幸せが、私たちの幸せだ。王都で、お前の力を試してきなさい。この教室や町の人々のことは、私たちがなんとかするから」
両親の温かい言葉に、私の目にも涙が滲んだ。妹に婚約者を奪われた時、私は両親を責めることはなかった。でも、二人はずっと負い目を感じてくれていたのだ。
翌日、町の人たちも、私が王都に行くことをどこからか聞きつけて、口々に応援の言葉をかけてくれた。
「先生、すごいじゃないか!」
「先生なら、王都でもきっと大丈夫だよ!」
「私たち、先生のこと、ずっと応援してるからな!」
みんなの優しさが、私の固く閉ざした心を少しずつ溶かしていく。
そうよ。私、いつまでも過去に囚われて、うじうじしている場合じゃない。ローラやエリオットのことなんて、もうどうでもいい。私には、私を必要としてくれる人たちがいる。私の教え子たちが、王都で私を待っている。
そして……。
『偉くなったら、先生と結婚します!』
あの言葉を、もう一度、彼自身の口から聞きたい。そんな淡い期待が、胸の中に芽生えていた。
出発の日。レオナールが用意した、あの豪華な王家の馬車に乗り込む。両親と町の人々、そして私の可愛い生徒たちに見送られて、馬車はゆっくりと動き出した。
窓から見える景色が、少しずつ遠ざかっていく。見慣れた田舎町の風景。さようなら、私の穏やかで、少しだけ寂しかった日々。
馬車に揺られながら、私はこれから始まるであろう王都での新しい生活に、胸を躍らせていた。不安がないと言えば嘘になる。自信だって、まだほんの少ししかない。
でも、なんだか、わくわくする。
隣に座るレオナールが、そっと私の手を握った。彼の大きな手は、温かくて、力強くて、私のすべての不安を包み込んでくれるようだった。
「大丈夫ですよ、先生。僕が、ずっとそばにいますから」
彼の蒼い瞳に見つめられて、私は小さく頷く。
妹に彼氏をとられた、田舎のしがない医療魔法師だった私の人生は、どうやらここから、第二章が始まるらしい。しかも、とんでもなくドラマチックな展開で。
まあ、なるようになるか。
私は窓の外に広がる青空を見上げ、一つ、深呼吸をした。
「ところで先生、これを覚えていますか?」
彼が手のひらに乗せて見せてくれたのは、小さなメスをかたどった、手作りのチャームだった。それは、彼が王都に行くときに、私がお守りとしてプレゼントしたものだ。不格好で、安物で、とてもじゃないけど、今の大典医様が身につけるような代物じゃない。
「これは、僕の宝物です」
「……こんな安物じゃなくて、もっといいものを身につければいいのに」
「先生にいただいた、これがいいんです!」
レオナールの力強い言葉に、私の胸がきゅっと締め付けられる。彼は、ずっとこれを。私が忘れてしまっていたような、小さな思い出を、宝物のように大切にしてくれていたなんて。
ふと、私の脳裏に、遠い日の記憶が蘇る。王都へ旅立つ前日、彼は私の教室に一人でやってきた。
『先生、僕、王都へ行っても、絶対に先生のこと忘れません』
『ありがとう、レオ。頑張るのよ』
『はい! あの、先生!』
『なあに?』
彼は、顔を真っ赤にして、一生懸命に言葉を紡いだ。
『僕、先生に教えてもらった医療魔法の技術で、王都で一番偉くなったら……その、必ず先生を迎えに来ます! その時は、僕と、結婚してください!』
子供の、勢いだけの約束。私は微笑ましく思って、『あら、嬉しいわ。楽しみに待ってるわね』なんて、軽く受け流したはずだった。
まさか、彼は。
あの時の言葉を、本気で……?
目の前のレオナールの顔を見ることができない。私の心臓は、まるで洗濯機みたいにぐるぐると回っている。妹に幼馴染の婚約者を奪われて失恋の傷で、かさぶただらけだと思っていた心が、じんわりと温かくなっていくのを感じる。
その夜、実家に帰って両親に事の次第を話すと、二人は驚きながらも、私の背中を押してくれた。
「セシリア、行きなさい。お前は、こんな田舎で終わるような子じゃない」
「お母様……」
「私たちは、お前にずっと申し訳ないと思っていた。ローラのこと……あの子を甘やかして育ててしまったせいで、お前を深く傷つけてしまった。エリオット様とのことだって、本当なら私たちがもっと強く……」
母は、涙ぐみながら私の手を握った。父も、隣で静かに頷いている。
「お前の幸せが、私たちの幸せだ。王都で、お前の力を試してきなさい。この教室や町の人々のことは、私たちがなんとかするから」
両親の温かい言葉に、私の目にも涙が滲んだ。妹に婚約者を奪われた時、私は両親を責めることはなかった。でも、二人はずっと負い目を感じてくれていたのだ。
翌日、町の人たちも、私が王都に行くことをどこからか聞きつけて、口々に応援の言葉をかけてくれた。
「先生、すごいじゃないか!」
「先生なら、王都でもきっと大丈夫だよ!」
「私たち、先生のこと、ずっと応援してるからな!」
みんなの優しさが、私の固く閉ざした心を少しずつ溶かしていく。
そうよ。私、いつまでも過去に囚われて、うじうじしている場合じゃない。ローラやエリオットのことなんて、もうどうでもいい。私には、私を必要としてくれる人たちがいる。私の教え子たちが、王都で私を待っている。
そして……。
『偉くなったら、先生と結婚します!』
あの言葉を、もう一度、彼自身の口から聞きたい。そんな淡い期待が、胸の中に芽生えていた。
出発の日。レオナールが用意した、あの豪華な王家の馬車に乗り込む。両親と町の人々、そして私の可愛い生徒たちに見送られて、馬車はゆっくりと動き出した。
窓から見える景色が、少しずつ遠ざかっていく。見慣れた田舎町の風景。さようなら、私の穏やかで、少しだけ寂しかった日々。
馬車に揺られながら、私はこれから始まるであろう王都での新しい生活に、胸を躍らせていた。不安がないと言えば嘘になる。自信だって、まだほんの少ししかない。
でも、なんだか、わくわくする。
隣に座るレオナールが、そっと私の手を握った。彼の大きな手は、温かくて、力強くて、私のすべての不安を包み込んでくれるようだった。
「大丈夫ですよ、先生。僕が、ずっとそばにいますから」
彼の蒼い瞳に見つめられて、私は小さく頷く。
妹に彼氏をとられた、田舎のしがない医療魔法師だった私の人生は、どうやらここから、第二章が始まるらしい。しかも、とんでもなくドラマチックな展開で。
まあ、なるようになるか。
私は窓の外に広がる青空を見上げ、一つ、深呼吸をした。
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