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第10話
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「えー……、ご紹介に、あずかりました、セシリア・モントヴェールです。その……若輩者ですが、皆さんと一緒に、頑張りたいと、思いますので……どうぞ、よろしく、お願いします……」
緊張で声は震え、語尾は消え入りそうになる。最悪の挨拶だった。これじゃあ、ますます『本当にこの人が?』と思われてしまう。ほら、最前列にいる綺麗な女の人たち、思いっきり鼻で笑ったわよ。もう帰りたい。田舎に帰ってポトフが作りたい。
挨拶という名の公開処刑が終わり、壇上から、ふらつきながらなんとか降りた。
「お疲れ様でした、先生」
レオナールが労ってくれた。君のせいです! と叫びたいのをぐっと堪える。
「少し、外の空気を吸いに行きましょうか。僕が、王都を案内しますよ」
それは、あからさまな口実だった。きっと彼は、気まずい思いをした私を気遣って、二人きりになる時間を作ろうとしてくれているのだ。その優しさは嬉しいけれど、内心、彼は私とのデートがしたかったに違いない、なんて自惚れたことを考えて、一人で顔が熱くなる。
「こちらはどうでしょうか? 王都で一番人気のパティスリーです。セシリア先生、甘いお菓子はお好きでしたよね?」
「わ、美味しそう……。でも、悪いわね、いろいろ付き合わせてしまって」
レオナールに連れられて歩く王都の街は、どこもかしこも活気に満ち溢れていた。彼と並んで歩いているだけで、道行く人々、特に若い女性たちからチラチラと視線を送られる。
「ねぇ、あの方、レオナール様じゃない?」
「本当だわ! 相変わらず素敵……!」
「でも、隣にいる人は誰かしら? 見慣れない顔ね……」
ヒソヒソと交わされる会話が、嫌でも耳に入ってくる。息が詰まりそうだ。すると突然、一人のうら若き乙女が駆け寄ってきた。
「レオナール様! いつも応援しております! これ、受け取ってください!」
そう言って、可愛らしくラッピングされた小箱を彼に差し出す。告白、というやつだ。レオナールは、少しも驚いた様子を見せず、慣れた仕草でそれを受け取った。
「ありがとう。お気持ちだけ、いただいておきます」
その笑顔は完璧で、対応はスマートそのもの。うら若き乙女はうっとりとした顔で一礼すると、幸せそうに走り去っていった。
……私の知ってるレオじゃない。教え子がモテまくるのは、先生として誇らしいけれど、なんだかちょっと、いや、かなり複雑な気分だ。
「先生、お待たせしました。さ、あちらの店に行きましょう」
何事もなかったかのように、私の手を取ろうとするレオナール。その時だった。
「先生っ!?」
背後から、大きくて、やけに元気のいい声が飛んできた。振り返ると、そこには赤みがかった茶色い髪を無造作にセットした、きりっとした顔つきの青年が立っていた。服装はレオナールと同じ純白の制服だけど、少し着崩していて、野性的な魅力がある。
誰だろう? 見覚えのない顔だ。
彼は、目を大きく見開いて、信じられないという顔で私を指さしている。
「ま、まさか……セシリア先生!? ですよね!?」
「え……?」
「うわー! まじか! 先生、俺です! 俺のこと覚えてますか!?」
彼は、ずんずんと大股で私に近づいてくると、その顔をぐいっと寄せてきた。整っているけれど、どこか少年っぽさが残る顔。くりくりとした大きな瞳。笑うと覗く八重歯。
記憶の断片が、カチリ、と音を立てて繋がった。
緊張で声は震え、語尾は消え入りそうになる。最悪の挨拶だった。これじゃあ、ますます『本当にこの人が?』と思われてしまう。ほら、最前列にいる綺麗な女の人たち、思いっきり鼻で笑ったわよ。もう帰りたい。田舎に帰ってポトフが作りたい。
挨拶という名の公開処刑が終わり、壇上から、ふらつきながらなんとか降りた。
「お疲れ様でした、先生」
レオナールが労ってくれた。君のせいです! と叫びたいのをぐっと堪える。
「少し、外の空気を吸いに行きましょうか。僕が、王都を案内しますよ」
それは、あからさまな口実だった。きっと彼は、気まずい思いをした私を気遣って、二人きりになる時間を作ろうとしてくれているのだ。その優しさは嬉しいけれど、内心、彼は私とのデートがしたかったに違いない、なんて自惚れたことを考えて、一人で顔が熱くなる。
「こちらはどうでしょうか? 王都で一番人気のパティスリーです。セシリア先生、甘いお菓子はお好きでしたよね?」
「わ、美味しそう……。でも、悪いわね、いろいろ付き合わせてしまって」
レオナールに連れられて歩く王都の街は、どこもかしこも活気に満ち溢れていた。彼と並んで歩いているだけで、道行く人々、特に若い女性たちからチラチラと視線を送られる。
「ねぇ、あの方、レオナール様じゃない?」
「本当だわ! 相変わらず素敵……!」
「でも、隣にいる人は誰かしら? 見慣れない顔ね……」
ヒソヒソと交わされる会話が、嫌でも耳に入ってくる。息が詰まりそうだ。すると突然、一人のうら若き乙女が駆け寄ってきた。
「レオナール様! いつも応援しております! これ、受け取ってください!」
そう言って、可愛らしくラッピングされた小箱を彼に差し出す。告白、というやつだ。レオナールは、少しも驚いた様子を見せず、慣れた仕草でそれを受け取った。
「ありがとう。お気持ちだけ、いただいておきます」
その笑顔は完璧で、対応はスマートそのもの。うら若き乙女はうっとりとした顔で一礼すると、幸せそうに走り去っていった。
……私の知ってるレオじゃない。教え子がモテまくるのは、先生として誇らしいけれど、なんだかちょっと、いや、かなり複雑な気分だ。
「先生、お待たせしました。さ、あちらの店に行きましょう」
何事もなかったかのように、私の手を取ろうとするレオナール。その時だった。
「先生っ!?」
背後から、大きくて、やけに元気のいい声が飛んできた。振り返ると、そこには赤みがかった茶色い髪を無造作にセットした、きりっとした顔つきの青年が立っていた。服装はレオナールと同じ純白の制服だけど、少し着崩していて、野性的な魅力がある。
誰だろう? 見覚えのない顔だ。
彼は、目を大きく見開いて、信じられないという顔で私を指さしている。
「ま、まさか……セシリア先生!? ですよね!?」
「え……?」
「うわー! まじか! 先生、俺です! 俺のこと覚えてますか!?」
彼は、ずんずんと大股で私に近づいてくると、その顔をぐいっと寄せてきた。整っているけれど、どこか少年っぽさが残る顔。くりくりとした大きな瞳。笑うと覗く八重歯。
記憶の断片が、カチリ、と音を立てて繋がった。
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