12 / 29
第12話
しおりを挟む
きらびやかな王都の大通りを、私は二人の自慢の教え子に挟まれて歩いていた。
右には《大神癒師》レオナール・アシュフィールド。左には《副大神癒師》アレリオ・グラッセンブルク。二人はこの国で最も輝かしい医療魔法師のワンツーフィニッシュだ。
そんな彼らの隣を歩く私、セシリア・モントヴェールは、ただの田舎の医療魔法師。いや、今は一応《特別指南役》なんていう、身の丈に合わない大層な肩書きを背負っている。レオナールの計らいで、私は役を任された。そして、国王命令という名の強制力によって。
これは、もう、詐欺みたいなものじゃないだろうか。
私には実力なんてない。いつか、きっと化けの皮がはがれる。
そうなったら、私を推してくれたレオナールに、恥をかかせることになって彼の立場まで悪くなる。彼の輝かしい経歴に、傷をつけてしまう。それだけは、絶対に嫌だ。なんとかしないと。でも、どうやって……?
「先生? どうかしましたか、顔色が優れませんが」
私の心中を見透かすように、レオナールが心配そうに尋ねてくる。彼のそういうところ、昔から鋭かった。
「ううん、何でもないの。少し、歩き疲れただけかな」
「なら、そこのカフェで少し休憩しましょう! 俺、腹減りました!」
私の言葉を真に受けたアレリオが、元気いっぱいに近くのカフェを指さす。うん、君はいつもお腹を空かせているイメージよ。
三人で入ったカフェは、いかにも王都らしいお洒落な内装だった。私たちはテラス席に腰を下ろし、それぞれケーキと紅茶を注文する。もちろん、支払いはいつの間にかレオナールが済ませていた。
「それで先生、今後のことなんですが」
レオナールが、優雅に紅茶を一口飲んでから切り出した。
「宿はもうお決まりですか? もし決まっていないなら、しばらくの間…いえ、ずっとでも構いませんが、僕の家に住んでください」
「……え?」
「ダメだ!」
私が紅茶を吹き出しそうになるのと、アレリオがテーブルを叩いて叫ぶのは、ほぼ同時だった。
「セシリア先生は、俺の家に泊まってください! 俺の家、レオナールのとこより日当たりいいし、庭も広いんで! 絶対快適ですよ!」
「貴様の家は本部から遠いだろう。先生を疲れさせる気か?」
「なんだと! お前の家こそ、客間が北向きでジメジメしてるって有名じゃないか!」
「なっ……! いつそんな情報を!」
また始まった。大神癒師と副大神癒師による、低レベルな言い争い。私は、目の前のショートケーキにフォークを突き刺しながら、溜め息を一つ。この子たちの相手、思ったよりずっと体力が必要かもしれない。
「あのね、二人とも。ありがとう。でも、そんなに迷惑はかけられないわ。ひとまず、どこか手頃な宿を探さなくては、と思っていて。こんなことで頼ってしまってごめんなさい」
私が恐縮しながらそう言うと、二人はピタリと言い争いをやめた。
「いえ、かまいませんよ。そうですね、いろいろと手続きもありますし、先生が一人で宿を探すのは大変でしょう」
レオナールは、さっきまでの子供っぽさが嘘のように、優しく微笑んで言う。そして、アレリオと一瞬だけ目配せをした。
結局、その日のうちに、二人は驚くべき速さで私の宿を手配してくれた。医療魔法師団の本部から歩いてすぐの、高級宿屋の一室。眺めも日当たりも最高で、家具も全部新品みたいに綺麗だ。そして、宿泊費は『魔法師団の経費で落ちますから』という理由で、ただ同然になった。
右には《大神癒師》レオナール・アシュフィールド。左には《副大神癒師》アレリオ・グラッセンブルク。二人はこの国で最も輝かしい医療魔法師のワンツーフィニッシュだ。
そんな彼らの隣を歩く私、セシリア・モントヴェールは、ただの田舎の医療魔法師。いや、今は一応《特別指南役》なんていう、身の丈に合わない大層な肩書きを背負っている。レオナールの計らいで、私は役を任された。そして、国王命令という名の強制力によって。
これは、もう、詐欺みたいなものじゃないだろうか。
私には実力なんてない。いつか、きっと化けの皮がはがれる。
そうなったら、私を推してくれたレオナールに、恥をかかせることになって彼の立場まで悪くなる。彼の輝かしい経歴に、傷をつけてしまう。それだけは、絶対に嫌だ。なんとかしないと。でも、どうやって……?
「先生? どうかしましたか、顔色が優れませんが」
私の心中を見透かすように、レオナールが心配そうに尋ねてくる。彼のそういうところ、昔から鋭かった。
「ううん、何でもないの。少し、歩き疲れただけかな」
「なら、そこのカフェで少し休憩しましょう! 俺、腹減りました!」
私の言葉を真に受けたアレリオが、元気いっぱいに近くのカフェを指さす。うん、君はいつもお腹を空かせているイメージよ。
三人で入ったカフェは、いかにも王都らしいお洒落な内装だった。私たちはテラス席に腰を下ろし、それぞれケーキと紅茶を注文する。もちろん、支払いはいつの間にかレオナールが済ませていた。
「それで先生、今後のことなんですが」
レオナールが、優雅に紅茶を一口飲んでから切り出した。
「宿はもうお決まりですか? もし決まっていないなら、しばらくの間…いえ、ずっとでも構いませんが、僕の家に住んでください」
「……え?」
「ダメだ!」
私が紅茶を吹き出しそうになるのと、アレリオがテーブルを叩いて叫ぶのは、ほぼ同時だった。
「セシリア先生は、俺の家に泊まってください! 俺の家、レオナールのとこより日当たりいいし、庭も広いんで! 絶対快適ですよ!」
「貴様の家は本部から遠いだろう。先生を疲れさせる気か?」
「なんだと! お前の家こそ、客間が北向きでジメジメしてるって有名じゃないか!」
「なっ……! いつそんな情報を!」
また始まった。大神癒師と副大神癒師による、低レベルな言い争い。私は、目の前のショートケーキにフォークを突き刺しながら、溜め息を一つ。この子たちの相手、思ったよりずっと体力が必要かもしれない。
「あのね、二人とも。ありがとう。でも、そんなに迷惑はかけられないわ。ひとまず、どこか手頃な宿を探さなくては、と思っていて。こんなことで頼ってしまってごめんなさい」
私が恐縮しながらそう言うと、二人はピタリと言い争いをやめた。
「いえ、かまいませんよ。そうですね、いろいろと手続きもありますし、先生が一人で宿を探すのは大変でしょう」
レオナールは、さっきまでの子供っぽさが嘘のように、優しく微笑んで言う。そして、アレリオと一瞬だけ目配せをした。
結局、その日のうちに、二人は驚くべき速さで私の宿を手配してくれた。医療魔法師団の本部から歩いてすぐの、高級宿屋の一室。眺めも日当たりも最高で、家具も全部新品みたいに綺麗だ。そして、宿泊費は『魔法師団の経費で落ちますから』という理由で、ただ同然になった。
343
あなたにおすすめの小説
元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます
衿乃 光希
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。
婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。
シェリーヌは16年過ごした国を出る。
生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。
第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。
第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる