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第20話
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「……ごめんなさい、エリオット様」
「いや。君が気に病むことはない。……セシリアの噂は、私の耳にも入っている。君が、心中穏やかでいられないのも無理はない」
そう言って、彼は私をそっと抱きしめてくれた。
彼の広い胸板と、落ち着いた香水の匂い。これが私の居場所。私がずっと欲しかった安らぎの場所。
抑えていた感情があふれ、声を震わせて泣いた。
「だって、ひどいわ。あんな……あんな田舎で、医療魔法ごっこを子供相手に教えていただけの姉が、王子の病を治すなんて……。絶対に嘘よ。何か汚い手を使ったに決まってるわ!」
「ローラ……」
「大典医のレオナール様や、副典医のアレリオ様でさえ、さじを投げた病気なのよ? それを、あいつが? ありえない! 絶対にありえないわ!」
そう。レオナール様は、医療魔法師団のトップに君臨する天才。神に愛されたかのような美しい容姿と、圧倒的な実力を兼ね備えた全ての医療魔法師の憧れ。
副典医のアレリオ様だって、武骨な魅力と確かな腕で、多くの人々を救ってきた英雄だ。
姉が、そんな彼らより凄いなんて、あってたまるものか。
私は、ずっと姉の『出来の悪い妹』だった。
何をしても、姉には敵わなかった。魔法の才能も、勉強も、刺繍の腕前さえも。両親も、周りの人間も、誰もがセシリアをちやほやして、私には同情的な視線を向けるだけ。
だから、私は奪ってやったのだ。姉の幼馴染? そんなものは関係ない。
姉が持っていたものの中で、一番輝いて見えた宝物。
若くして伯爵位を継いだ、将来有望な婚約者――エリオット様を。
あの時、私は必死だった。
夜会で偶然を装ってエリオット様に近づき、ありったけの笑顔と、計算し尽くした仕草で彼を誘惑した。
『セシリア姉様は、とても素晴らしい方ですわ。でも、少し……その、お堅いというか。エリオット様のような素敵な方には、もっと華やかで、楽しい女性の方がお似合いになるのではなくて?』
なんて、今思えば恥ずかしくなるようなセリフで。
でも、若くて、少しだけ退屈していたエリオット様は、純粋で穏やかな姉よりも、積極的で可愛い私に興味を持ってくれた。
してやったり、と思った。
初めて、姉に勝てた気がした。
伯爵夫人になって、憧れの王都で暮らす。きらびやかなドレスを毎日とっかえひっかえして、夜会で注目を浴びる。
最初は、夢みたいに幸せだった。
エリオット様も、いつも私の隣で優しく微笑んでくれていた。
『君といると、毎日が新しい発見だよ、ローラ』
そう言って、私の髪を撫でてくれる彼が好きだった。
でも、幸せは長くは続かなかった。
私の金遣いの荒さに、彼は眉をひそめるようになった。私が些細なことで侍女を怒鳴りつけるたびに、悲しい顔をするようになった。
そして、彼は気づいてしまったのだ。
私が、医療魔法がほとんど使えないということに。
伯爵家の夫人たるもの、簡単な治癒魔法くらいは使えて当然。それが階級的な教養として根づいた、貴族のたしなみ。姉の妹なのだから、きっとローラも得意なのだろうと、彼は思い込んでいた。
でも、違う。私の才能は、姉の足元にも及ばない。
火傷をした侍女の手を、ろくに治すこともできなかった私を見た時の、彼の驚いて失望したような顔を、私は一生忘れられない。
「君は……あまり、医療魔法は得意ではなかったんだね」
その一言が、私と彼の間に見えない壁を作った。
それ以来、私は物事に過敏になり、冷静さを欠くようになっていた。自分の無力さを、コンプレックスを、誰かにぶつけずにはいられなかったから。
「いや。君が気に病むことはない。……セシリアの噂は、私の耳にも入っている。君が、心中穏やかでいられないのも無理はない」
そう言って、彼は私をそっと抱きしめてくれた。
彼の広い胸板と、落ち着いた香水の匂い。これが私の居場所。私がずっと欲しかった安らぎの場所。
抑えていた感情があふれ、声を震わせて泣いた。
「だって、ひどいわ。あんな……あんな田舎で、医療魔法ごっこを子供相手に教えていただけの姉が、王子の病を治すなんて……。絶対に嘘よ。何か汚い手を使ったに決まってるわ!」
「ローラ……」
「大典医のレオナール様や、副典医のアレリオ様でさえ、さじを投げた病気なのよ? それを、あいつが? ありえない! 絶対にありえないわ!」
そう。レオナール様は、医療魔法師団のトップに君臨する天才。神に愛されたかのような美しい容姿と、圧倒的な実力を兼ね備えた全ての医療魔法師の憧れ。
副典医のアレリオ様だって、武骨な魅力と確かな腕で、多くの人々を救ってきた英雄だ。
姉が、そんな彼らより凄いなんて、あってたまるものか。
私は、ずっと姉の『出来の悪い妹』だった。
何をしても、姉には敵わなかった。魔法の才能も、勉強も、刺繍の腕前さえも。両親も、周りの人間も、誰もがセシリアをちやほやして、私には同情的な視線を向けるだけ。
だから、私は奪ってやったのだ。姉の幼馴染? そんなものは関係ない。
姉が持っていたものの中で、一番輝いて見えた宝物。
若くして伯爵位を継いだ、将来有望な婚約者――エリオット様を。
あの時、私は必死だった。
夜会で偶然を装ってエリオット様に近づき、ありったけの笑顔と、計算し尽くした仕草で彼を誘惑した。
『セシリア姉様は、とても素晴らしい方ですわ。でも、少し……その、お堅いというか。エリオット様のような素敵な方には、もっと華やかで、楽しい女性の方がお似合いになるのではなくて?』
なんて、今思えば恥ずかしくなるようなセリフで。
でも、若くて、少しだけ退屈していたエリオット様は、純粋で穏やかな姉よりも、積極的で可愛い私に興味を持ってくれた。
してやったり、と思った。
初めて、姉に勝てた気がした。
伯爵夫人になって、憧れの王都で暮らす。きらびやかなドレスを毎日とっかえひっかえして、夜会で注目を浴びる。
最初は、夢みたいに幸せだった。
エリオット様も、いつも私の隣で優しく微笑んでくれていた。
『君といると、毎日が新しい発見だよ、ローラ』
そう言って、私の髪を撫でてくれる彼が好きだった。
でも、幸せは長くは続かなかった。
私の金遣いの荒さに、彼は眉をひそめるようになった。私が些細なことで侍女を怒鳴りつけるたびに、悲しい顔をするようになった。
そして、彼は気づいてしまったのだ。
私が、医療魔法がほとんど使えないということに。
伯爵家の夫人たるもの、簡単な治癒魔法くらいは使えて当然。それが階級的な教養として根づいた、貴族のたしなみ。姉の妹なのだから、きっとローラも得意なのだろうと、彼は思い込んでいた。
でも、違う。私の才能は、姉の足元にも及ばない。
火傷をした侍女の手を、ろくに治すこともできなかった私を見た時の、彼の驚いて失望したような顔を、私は一生忘れられない。
「君は……あまり、医療魔法は得意ではなかったんだね」
その一言が、私と彼の間に見えない壁を作った。
それ以来、私は物事に過敏になり、冷静さを欠くようになっていた。自分の無力さを、コンプレックスを、誰かにぶつけずにはいられなかったから。
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