地方の田舎に住む女性、妹に幼馴染の彼をとられたけど、生徒に溺愛される医療魔法師

佐藤 美奈

文字の大きさ
21 / 29

第21話

しおりを挟む
「エリオット様は……姉さんのことが、まだ気になるの?」

抱きしめられたまま、私は不安に震える声で尋ねた。

「馬鹿なことを言うな。私が愛しているのは君だけだ。昔のことは、もう終わったことだよ」

「……ほんとう?」

「ああ、本当だ」

彼はそう言って、私の涙で濡れた頬にキスをくれた。
うん、やっぱり私はエリオット様が好きだ。彼がいないと、生きていけない。
だからこそ、怖い。
王都で輝かしい名声を手に入れた姉が、また私の前からエリオット様を奪い去っていくんじゃないかって。
そんなの、絶対に許さない。
絶対に。



「――以上で、今日の講義は終わりです。何か質問はありますか?」

私がそう言うと、ずらりと並んだ純白の制服――医療魔法師団の若き精鋭たちが、一斉に顔を上げた。その瞳は、真剣な光と、私への尊敬の念でキラキラと輝いている。
なんだか、ちょっとだけ気恥ずかしい。
一ヶ月前まで、田舎で子供たちに医療魔法を教えていた私が、まさかこの国の医療魔法の中枢で、こんな風に先生ぶることになるなんて。
人生、何が起こるかわからないものだ。

「セシリア先生!」

ぱっと手が挙がった。上級医療師の、ロデリックだ。
彼も私の、元教え子でもある。私の印象では控えめな性格だったけど、今では見習いたちの指導役として立派に成長している。

「はい、ロデリック。どうぞ」

「先ほどの『多重詠唱による治癒効果の増幅』についてですが、属性の違う魔法を組み合わせる際の、マナの親和性の調整は、個人の資質に依存する部分が大きいのでしょうか? それとも、訓練で補えるものなのでしょうか?」

的確で、鋭い質問。
私の教室で、マナのコントロールが上手くできなくて、いつも俯いていた小さな男の子の姿が嘘のようだ。
彼は、こんなに素晴らしい医療魔法師になったんだ。

「良い質問ですね。それは、両方です。もちろん、元々のマナの資質は関係します。ですが、それ以上に大切なのは、それぞれの属性魔法の特性を深く理解すること。水の魔法が持つ『浸透』の力、風の魔法が持つ『運搬』の力、光の魔法が持つ『活性』の力……。それらを頭ではなく、心と体で感じ取れるようになれば、マナは自然と、あなたに応えてくれるようになります」

私はそう言って、自分の手のひらに小さな光を灯してみせる。
ふわり、と温かい光が、講義室を優しく照らした。
生徒たちから、ため息のような感嘆の声が漏れる。

「すごい……なんて滑らかなマナの制御なんだ」
「無詠唱で、あれほどの光を……」

そんな声が聞こえてきて、私は慌てて光を消した。
私にとっては、呼吸をするのと同じくらい自然なこと。でも、彼らにとっては違うらしい。
この一ヶ月で、私は自分が“普通じゃない人間”なのだということを、嫌というほど思い知らされた。

講義が終わり、生徒たちが退出していく中、ロデリックだけが私のそばに残った。

「先生、今日もお疲れ様でした。お茶でもいかがですか? 僕が淹れます」

「ありがとう、ロデリック。でも、そんなに気を遣わなくても大丈夫よ」

「いえ、これは僕がしたいことなので。先生は、僕の恩師で……そして、憧れの人ですから」

そう言って、彼ははにかむように笑う。
昔の引っ込み思案な面影を残しつつも、今の彼には確かな自信と、青年らしい凛々しさが備わっていた。小柄で可愛らしい印象だったのに、いつの間にか背も少し伸びたみたい。

彼が手際よく淹れてくれたハーブティーは、とても良い香りがした。
ほっと一息ついていると、彼がひと呼吸置いてから口を開いた。

「あの……先生。エリアス王子の、その後のご容態は?」

「ええ、すっかりお元気になられたそうよ。昨日、お城からお礼の品が山のように届いてしまって、逆に申し訳ないくらい」

私がそう言って苦笑すると、ロデリックは心から嬉しそうに、そして誇らしそうに微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

妹と再婚約?殿下ありがとうございます!

八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。 第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。 「彼女のことは私に任せろ」 殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします! 令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...