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第21話
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「エリオット様は……姉さんのことが、まだ気になるの?」
抱きしめられたまま、私は不安に震える声で尋ねた。
「馬鹿なことを言うな。私が愛しているのは君だけだ。昔のことは、もう終わったことだよ」
「……ほんとう?」
「ああ、本当だ」
彼はそう言って、私の涙で濡れた頬にキスをくれた。
うん、やっぱり私はエリオット様が好きだ。彼がいないと、生きていけない。
だからこそ、怖い。
王都で輝かしい名声を手に入れた姉が、また私の前からエリオット様を奪い去っていくんじゃないかって。
そんなの、絶対に許さない。
絶対に。
◇
「――以上で、今日の講義は終わりです。何か質問はありますか?」
私がそう言うと、ずらりと並んだ純白の制服――医療魔法師団の若き精鋭たちが、一斉に顔を上げた。その瞳は、真剣な光と、私への尊敬の念でキラキラと輝いている。
なんだか、ちょっとだけ気恥ずかしい。
一ヶ月前まで、田舎で子供たちに医療魔法を教えていた私が、まさかこの国の医療魔法の中枢で、こんな風に先生ぶることになるなんて。
人生、何が起こるかわからないものだ。
「セシリア先生!」
ぱっと手が挙がった。上級医療師の、ロデリックだ。
彼も私の、元教え子でもある。私の印象では控えめな性格だったけど、今では見習いたちの指導役として立派に成長している。
「はい、ロデリック。どうぞ」
「先ほどの『多重詠唱による治癒効果の増幅』についてですが、属性の違う魔法を組み合わせる際の、マナの親和性の調整は、個人の資質に依存する部分が大きいのでしょうか? それとも、訓練で補えるものなのでしょうか?」
的確で、鋭い質問。
私の教室で、マナのコントロールが上手くできなくて、いつも俯いていた小さな男の子の姿が嘘のようだ。
彼は、こんなに素晴らしい医療魔法師になったんだ。
「良い質問ですね。それは、両方です。もちろん、元々のマナの資質は関係します。ですが、それ以上に大切なのは、それぞれの属性魔法の特性を深く理解すること。水の魔法が持つ『浸透』の力、風の魔法が持つ『運搬』の力、光の魔法が持つ『活性』の力……。それらを頭ではなく、心と体で感じ取れるようになれば、マナは自然と、あなたに応えてくれるようになります」
私はそう言って、自分の手のひらに小さな光を灯してみせる。
ふわり、と温かい光が、講義室を優しく照らした。
生徒たちから、ため息のような感嘆の声が漏れる。
「すごい……なんて滑らかなマナの制御なんだ」
「無詠唱で、あれほどの光を……」
そんな声が聞こえてきて、私は慌てて光を消した。
私にとっては、呼吸をするのと同じくらい自然なこと。でも、彼らにとっては違うらしい。
この一ヶ月で、私は自分が“普通じゃない人間”なのだということを、嫌というほど思い知らされた。
講義が終わり、生徒たちが退出していく中、ロデリックだけが私のそばに残った。
「先生、今日もお疲れ様でした。お茶でもいかがですか? 僕が淹れます」
「ありがとう、ロデリック。でも、そんなに気を遣わなくても大丈夫よ」
「いえ、これは僕がしたいことなので。先生は、僕の恩師で……そして、憧れの人ですから」
そう言って、彼ははにかむように笑う。
昔の引っ込み思案な面影を残しつつも、今の彼には確かな自信と、青年らしい凛々しさが備わっていた。小柄で可愛らしい印象だったのに、いつの間にか背も少し伸びたみたい。
彼が手際よく淹れてくれたハーブティーは、とても良い香りがした。
ほっと一息ついていると、彼がひと呼吸置いてから口を開いた。
「あの……先生。エリアス王子の、その後のご容態は?」
「ええ、すっかりお元気になられたそうよ。昨日、お城からお礼の品が山のように届いてしまって、逆に申し訳ないくらい」
私がそう言って苦笑すると、ロデリックは心から嬉しそうに、そして誇らしそうに微笑んだ。
抱きしめられたまま、私は不安に震える声で尋ねた。
「馬鹿なことを言うな。私が愛しているのは君だけだ。昔のことは、もう終わったことだよ」
「……ほんとう?」
「ああ、本当だ」
彼はそう言って、私の涙で濡れた頬にキスをくれた。
うん、やっぱり私はエリオット様が好きだ。彼がいないと、生きていけない。
だからこそ、怖い。
王都で輝かしい名声を手に入れた姉が、また私の前からエリオット様を奪い去っていくんじゃないかって。
そんなの、絶対に許さない。
絶対に。
◇
「――以上で、今日の講義は終わりです。何か質問はありますか?」
私がそう言うと、ずらりと並んだ純白の制服――医療魔法師団の若き精鋭たちが、一斉に顔を上げた。その瞳は、真剣な光と、私への尊敬の念でキラキラと輝いている。
なんだか、ちょっとだけ気恥ずかしい。
一ヶ月前まで、田舎で子供たちに医療魔法を教えていた私が、まさかこの国の医療魔法の中枢で、こんな風に先生ぶることになるなんて。
人生、何が起こるかわからないものだ。
「セシリア先生!」
ぱっと手が挙がった。上級医療師の、ロデリックだ。
彼も私の、元教え子でもある。私の印象では控えめな性格だったけど、今では見習いたちの指導役として立派に成長している。
「はい、ロデリック。どうぞ」
「先ほどの『多重詠唱による治癒効果の増幅』についてですが、属性の違う魔法を組み合わせる際の、マナの親和性の調整は、個人の資質に依存する部分が大きいのでしょうか? それとも、訓練で補えるものなのでしょうか?」
的確で、鋭い質問。
私の教室で、マナのコントロールが上手くできなくて、いつも俯いていた小さな男の子の姿が嘘のようだ。
彼は、こんなに素晴らしい医療魔法師になったんだ。
「良い質問ですね。それは、両方です。もちろん、元々のマナの資質は関係します。ですが、それ以上に大切なのは、それぞれの属性魔法の特性を深く理解すること。水の魔法が持つ『浸透』の力、風の魔法が持つ『運搬』の力、光の魔法が持つ『活性』の力……。それらを頭ではなく、心と体で感じ取れるようになれば、マナは自然と、あなたに応えてくれるようになります」
私はそう言って、自分の手のひらに小さな光を灯してみせる。
ふわり、と温かい光が、講義室を優しく照らした。
生徒たちから、ため息のような感嘆の声が漏れる。
「すごい……なんて滑らかなマナの制御なんだ」
「無詠唱で、あれほどの光を……」
そんな声が聞こえてきて、私は慌てて光を消した。
私にとっては、呼吸をするのと同じくらい自然なこと。でも、彼らにとっては違うらしい。
この一ヶ月で、私は自分が“普通じゃない人間”なのだということを、嫌というほど思い知らされた。
講義が終わり、生徒たちが退出していく中、ロデリックだけが私のそばに残った。
「先生、今日もお疲れ様でした。お茶でもいかがですか? 僕が淹れます」
「ありがとう、ロデリック。でも、そんなに気を遣わなくても大丈夫よ」
「いえ、これは僕がしたいことなので。先生は、僕の恩師で……そして、憧れの人ですから」
そう言って、彼ははにかむように笑う。
昔の引っ込み思案な面影を残しつつも、今の彼には確かな自信と、青年らしい凛々しさが備わっていた。小柄で可愛らしい印象だったのに、いつの間にか背も少し伸びたみたい。
彼が手際よく淹れてくれたハーブティーは、とても良い香りがした。
ほっと一息ついていると、彼がひと呼吸置いてから口を開いた。
「あの……先生。エリアス王子の、その後のご容態は?」
「ええ、すっかりお元気になられたそうよ。昨日、お城からお礼の品が山のように届いてしまって、逆に申し訳ないくらい」
私がそう言って苦笑すると、ロデリックは心から嬉しそうに、そして誇らしそうに微笑んだ。
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