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第22話
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「やっぱり、先生はすごいです。改めて、先生の偉大さを思い知らされました」
王太子殿下の不治の病。
それは、体内のマナが暴走し、自らの体を内側から蝕んでいくという、前例のない奇病だった。歴代最高と謳われる大典医のレオナールでさえ、マナの暴走を一時的に抑えることしかできなかった。
それを、私が治した。
治したと言っても、やったことは単純だ。
暴走する王子のマナを、私のマナで優しく包み込んで、なだめて正しい流れに戻してあげただけ。
それはまるで、感情が爆発した子供に寄り添うような作業だった。
私にとっては、それだけのこと。
でも、王家にとっても、医療魔法師団にとっても、それは奇跡だったらしい。
以来、私は『光の祝福者』『神に愛された清き存在』『世界を癒す純白の使徒』『天上より舞い降りし癒し手』なんて、大げさな名前で呼ばれるようになってしまった。
「そんなに褒められるようなことじゃないわ。私は、私にできることをしただけだから」
「ご謙遜を。……でも、先生がそうやって、ご自分の立場に慢心なさらないところも、僕は好きです」
「え……?」
不意打ちの言葉に、どきり、と心臓が跳ねた。
顔を上げると、ロデリックが真剣な瞳で、まっすぐに私を見つめていた。その瞳の熱に、なんだか居心地が悪くなって、私は思わず視線を逸らしてしまう。
「ろ、ロデリックは、本当に立派になったわね。昔は、あんなに控えめだったのに」
「う……そ、それは言わないでください……」
慌てて話題を変えると、彼は途端に顔を真っ赤にして慌てた。その様子が、昔の彼と重なって、私はくすりと笑ってしまった。
そうだ。彼は、王都に旅立つ前日、私に話しがあると言って、恥ずかしそうにこう叫んだのだ。
『いつか、僕が立派な医療魔法師になったら、迎えに行きます! その時は、セシリア先生と結婚します!』
顔を真っ赤にして、涙目で。
私は微笑ましい子供の戯言だと思って、『ええ、待っているわね』なんて返事をしたけれど。
今の彼の瞳を見ていると、あれは、決して戯言なんかじゃなかったのかもしれない……なんて思えてくる。
あれ? ふと振り返ると、教え子たち全員にプロポーズされていた気がするんだが?
両親が孫の顔を見たいって言っているけれど、この状況なら何とかなるのでは?
むしろ、みんなの子供を作っちゃうかもしれない。私の体力が持つ限りね!
一夫多妻制が認められたこの国において、私の場合は一妻多夫制という形になるのでしょうか?
「先生?」
「ううん、なんでもない。さあ、そろそろ戻らないと。レオナールに呼ばれてたの」
「レオナールが?」
「ええ。『セシリア先生に紹介したい男たち(魔法師団とは別の道で力を尽くしている元教え子たち)がいる』って」
私の言葉に、ロデリックの表情が、さっと曇った。
医療魔法師団には、すごい人たちがたくさんいる。
トップに立つ大典医のレオナールは、息を呑むほど美しい完璧な貴公子。いつも穏やかな笑みを絶やさないけれど、その瞳の奥には、誰も計り知れないほどの知性が宿っている。
『セシリア先生に出会えたことは、僕の人生最大の幸運です。できれば、公私ともに僕のパートナーになってはくれませんか?』
なんて、二人きりの時は、さらりと言ってくるのだ。
副典医のアレリオは、レオナールとは対照的に、野性的でたくましい男性。力強く鍛え上げられた体つきと、太陽みたいな笑顔が魅力的で、彼を慕う医療魔法師も多い。
『ははっ! セシリア先生、すげえな! 俺と結婚するぞ! そうすりゃ、毎日楽しいぜ!』
なんて、みんなの前で言われた時は、さすがに面食らった。
そして、ロデリックと同じ上級医療師のオルフェウス。彼はロデリックとはまた違うタイプの、人形みたいに整った顔立ちの、小柄で可愛らしい青年。
『セシリア先生の魔法は、音楽みたいに美しいっす……先生のためなら、なんだってできるっす。だから、そばにいてほしいっす……』
と、潤んだ瞳で上目遣いに訴えてくる。
みんな、すごい私の生徒たちで。
そして、どういうわけか、本気で私と結婚したいらしい。
田舎で、妹に婚約者を譲って(というか、奪われて)すっかり結婚なんて縁のないものだと思っていたのに。
「……セシリア先生、行かないでください!」
不意に、ロデリックが私の袖をきゅっと掴んだ。
「え?」
「レオナールや、アレリオは……手強いです。オルフェウスだっている。他の教え子たちにも……僕、先生を取られたくない!」
彼は、とても真剣な声だった。
私は、どう返事をしていいのかわからなくて、ただ、赤くなっていく自分の頬を自覚するしかなかった。
恋なんて、もう忘れてしまった感情だったのに。
この王都は、私の眠っていた何かを、否応なしに揺り起こしていく。
王太子殿下の不治の病。
それは、体内のマナが暴走し、自らの体を内側から蝕んでいくという、前例のない奇病だった。歴代最高と謳われる大典医のレオナールでさえ、マナの暴走を一時的に抑えることしかできなかった。
それを、私が治した。
治したと言っても、やったことは単純だ。
暴走する王子のマナを、私のマナで優しく包み込んで、なだめて正しい流れに戻してあげただけ。
それはまるで、感情が爆発した子供に寄り添うような作業だった。
私にとっては、それだけのこと。
でも、王家にとっても、医療魔法師団にとっても、それは奇跡だったらしい。
以来、私は『光の祝福者』『神に愛された清き存在』『世界を癒す純白の使徒』『天上より舞い降りし癒し手』なんて、大げさな名前で呼ばれるようになってしまった。
「そんなに褒められるようなことじゃないわ。私は、私にできることをしただけだから」
「ご謙遜を。……でも、先生がそうやって、ご自分の立場に慢心なさらないところも、僕は好きです」
「え……?」
不意打ちの言葉に、どきり、と心臓が跳ねた。
顔を上げると、ロデリックが真剣な瞳で、まっすぐに私を見つめていた。その瞳の熱に、なんだか居心地が悪くなって、私は思わず視線を逸らしてしまう。
「ろ、ロデリックは、本当に立派になったわね。昔は、あんなに控えめだったのに」
「う……そ、それは言わないでください……」
慌てて話題を変えると、彼は途端に顔を真っ赤にして慌てた。その様子が、昔の彼と重なって、私はくすりと笑ってしまった。
そうだ。彼は、王都に旅立つ前日、私に話しがあると言って、恥ずかしそうにこう叫んだのだ。
『いつか、僕が立派な医療魔法師になったら、迎えに行きます! その時は、セシリア先生と結婚します!』
顔を真っ赤にして、涙目で。
私は微笑ましい子供の戯言だと思って、『ええ、待っているわね』なんて返事をしたけれど。
今の彼の瞳を見ていると、あれは、決して戯言なんかじゃなかったのかもしれない……なんて思えてくる。
あれ? ふと振り返ると、教え子たち全員にプロポーズされていた気がするんだが?
両親が孫の顔を見たいって言っているけれど、この状況なら何とかなるのでは?
むしろ、みんなの子供を作っちゃうかもしれない。私の体力が持つ限りね!
一夫多妻制が認められたこの国において、私の場合は一妻多夫制という形になるのでしょうか?
「先生?」
「ううん、なんでもない。さあ、そろそろ戻らないと。レオナールに呼ばれてたの」
「レオナールが?」
「ええ。『セシリア先生に紹介したい男たち(魔法師団とは別の道で力を尽くしている元教え子たち)がいる』って」
私の言葉に、ロデリックの表情が、さっと曇った。
医療魔法師団には、すごい人たちがたくさんいる。
トップに立つ大典医のレオナールは、息を呑むほど美しい完璧な貴公子。いつも穏やかな笑みを絶やさないけれど、その瞳の奥には、誰も計り知れないほどの知性が宿っている。
『セシリア先生に出会えたことは、僕の人生最大の幸運です。できれば、公私ともに僕のパートナーになってはくれませんか?』
なんて、二人きりの時は、さらりと言ってくるのだ。
副典医のアレリオは、レオナールとは対照的に、野性的でたくましい男性。力強く鍛え上げられた体つきと、太陽みたいな笑顔が魅力的で、彼を慕う医療魔法師も多い。
『ははっ! セシリア先生、すげえな! 俺と結婚するぞ! そうすりゃ、毎日楽しいぜ!』
なんて、みんなの前で言われた時は、さすがに面食らった。
そして、ロデリックと同じ上級医療師のオルフェウス。彼はロデリックとはまた違うタイプの、人形みたいに整った顔立ちの、小柄で可愛らしい青年。
『セシリア先生の魔法は、音楽みたいに美しいっす……先生のためなら、なんだってできるっす。だから、そばにいてほしいっす……』
と、潤んだ瞳で上目遣いに訴えてくる。
みんな、すごい私の生徒たちで。
そして、どういうわけか、本気で私と結婚したいらしい。
田舎で、妹に婚約者を譲って(というか、奪われて)すっかり結婚なんて縁のないものだと思っていたのに。
「……セシリア先生、行かないでください!」
不意に、ロデリックが私の袖をきゅっと掴んだ。
「え?」
「レオナールや、アレリオは……手強いです。オルフェウスだっている。他の教え子たちにも……僕、先生を取られたくない!」
彼は、とても真剣な声だった。
私は、どう返事をしていいのかわからなくて、ただ、赤くなっていく自分の頬を自覚するしかなかった。
恋なんて、もう忘れてしまった感情だったのに。
この王都は、私の眠っていた何かを、否応なしに揺り起こしていく。
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