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第23話
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【エリオット視点】
ローラの動揺を落ち着かせ、ようやく寝室で彼女が寝入ったのを確認してから、私は一人、書斎でため息をついた。暖炉の火がぱちぱちと音を立てる。その炎の揺らめきを見つめながら、手に持ったブランデーグラスを傾けた。琥珀のように温かな液体が、心にたまった不安を流してくれる……なんてことは、もちろんない。
(また、やってしまったな……)
ローラを甘やかし、彼女の感情の爆発をただ受け止めるだけ。それでは根本的な解決にはならないと、頭ではわかっている。彼女が、なぜあれほどまでに荒れるのか。その原因が、姉であるセシリアへの強烈なコンプレックスにあることも。
結婚当初は、確かに幸せだった。
俺の腕の中で、幸せそうに微笑むローラの愛らしさは、格別だった。
彼女の少しわがままなところも、くるくると変わる表情も、すべてが新鮮で、俺の心を捉えて離さなかった。穏やかで、物静かで、いつも一歩引いていたセシリアとの婚約期間にはなかった刺激的な毎日。俺は、それを愛だと思っていた。
だが、王都での生活が始まり、彼女の“わがまま”は“浪費”と“ヒステリー”に変わった。伯爵家の財産は、彼女のドレスや宝石、そして毎夜のように開かれるパーティのために、面白いように消えていく。俺がそれを注意すると、彼女は決まって泣き叫び、物を投げつける。
そして、疲れて眠る。
翌朝にはけろりとして『エリオット様、愛してるわ』と甘えてくる。
その繰り返し。なんだ? この生活は?
(彼女の性格は……もう疲れた)
正直に言おう。
ローラの感情の起伏に付き合うことに、ほとほと疲れ果てていた。
そして、何よりも俺を打ちのめしたのは、彼女が医療魔法をほとんど使えないと知った時だ。あれは、些細な出来事だった。
侍女が熱い紅茶をこぼして、手に火傷を負った。近くにいたローラに、俺は言ったんだ。『ローラ、すまないが、治してやってくれないか』と。
伯爵家の人間として、当然の行いだと思った。
セシリアの妹なのだから、簡単な治癒魔法くらいわけないだろうと。
しかし、ローラは急な状況に戸惑い、ただただ困り果てていた。
彼女がかざした手から放たれた光は、あまりにも弱々しく、侍女の火傷の赤みをわずかに和らげることすらできなかった。
侍女の驚いた顔。
そして、ローラの、絶望と羞恥に染まった顔。
俺は、その時初めて、彼女の抱える闇の深さを垣間見た気がした。
「……セシリアと違って得意では、なかったんだな」
俺が絞り出した言葉は、我ながら最低だったと思う。
もっと他に、かけるべき言葉があったはずだ。
だが、俺自身も動揺していた。騙されたとさえ思った。
俺は、セシリアの面影を、無意識にローラに重ねていたのかもしれない。
セシリア。
彼女との婚約は、親同士が決めたものだった。
穏やかで、聡明で、美しい人だった。
彼女と過ごす時間は、いつも静かで、満ち足りていた。
二人で庭を散歩したり、図書室で本を読んだり。刺激はないが、安らぎがあった。
彼女の作ってくれる料理は絶品で、彼女が指先から生み出す柔らかな治癒の光は、見ているだけで心が洗われるようだった。
彼女が妻になれば、俺はきっと、穏やかで幸せな家庭を築けただろう。
ローラの動揺を落ち着かせ、ようやく寝室で彼女が寝入ったのを確認してから、私は一人、書斎でため息をついた。暖炉の火がぱちぱちと音を立てる。その炎の揺らめきを見つめながら、手に持ったブランデーグラスを傾けた。琥珀のように温かな液体が、心にたまった不安を流してくれる……なんてことは、もちろんない。
(また、やってしまったな……)
ローラを甘やかし、彼女の感情の爆発をただ受け止めるだけ。それでは根本的な解決にはならないと、頭ではわかっている。彼女が、なぜあれほどまでに荒れるのか。その原因が、姉であるセシリアへの強烈なコンプレックスにあることも。
結婚当初は、確かに幸せだった。
俺の腕の中で、幸せそうに微笑むローラの愛らしさは、格別だった。
彼女の少しわがままなところも、くるくると変わる表情も、すべてが新鮮で、俺の心を捉えて離さなかった。穏やかで、物静かで、いつも一歩引いていたセシリアとの婚約期間にはなかった刺激的な毎日。俺は、それを愛だと思っていた。
だが、王都での生活が始まり、彼女の“わがまま”は“浪費”と“ヒステリー”に変わった。伯爵家の財産は、彼女のドレスや宝石、そして毎夜のように開かれるパーティのために、面白いように消えていく。俺がそれを注意すると、彼女は決まって泣き叫び、物を投げつける。
そして、疲れて眠る。
翌朝にはけろりとして『エリオット様、愛してるわ』と甘えてくる。
その繰り返し。なんだ? この生活は?
(彼女の性格は……もう疲れた)
正直に言おう。
ローラの感情の起伏に付き合うことに、ほとほと疲れ果てていた。
そして、何よりも俺を打ちのめしたのは、彼女が医療魔法をほとんど使えないと知った時だ。あれは、些細な出来事だった。
侍女が熱い紅茶をこぼして、手に火傷を負った。近くにいたローラに、俺は言ったんだ。『ローラ、すまないが、治してやってくれないか』と。
伯爵家の人間として、当然の行いだと思った。
セシリアの妹なのだから、簡単な治癒魔法くらいわけないだろうと。
しかし、ローラは急な状況に戸惑い、ただただ困り果てていた。
彼女がかざした手から放たれた光は、あまりにも弱々しく、侍女の火傷の赤みをわずかに和らげることすらできなかった。
侍女の驚いた顔。
そして、ローラの、絶望と羞恥に染まった顔。
俺は、その時初めて、彼女の抱える闇の深さを垣間見た気がした。
「……セシリアと違って得意では、なかったんだな」
俺が絞り出した言葉は、我ながら最低だったと思う。
もっと他に、かけるべき言葉があったはずだ。
だが、俺自身も動揺していた。騙されたとさえ思った。
俺は、セシリアの面影を、無意識にローラに重ねていたのかもしれない。
セシリア。
彼女との婚約は、親同士が決めたものだった。
穏やかで、聡明で、美しい人だった。
彼女と過ごす時間は、いつも静かで、満ち足りていた。
二人で庭を散歩したり、図書室で本を読んだり。刺激はないが、安らぎがあった。
彼女の作ってくれる料理は絶品で、彼女が指先から生み出す柔らかな治癒の光は、見ているだけで心が洗われるようだった。
彼女が妻になれば、俺はきっと、穏やかで幸せな家庭を築けただろう。
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